【閲覧注意】しあわせのとり

ハルカ

※閲覧には充分ご注意ください

「むかし、一冊の本がありました。


 その本には、世界から争いをなくす方法や、誰もが幸せに暮らせる国の話、肉体を捨て精神だけを鳥のように羽ばたかせる方法などが書かれていました。


 ところが、国王がその本を禁書にすると言い出し、国中から本を探し出して燃やそうとしました。火をつけられた本たちは激しく燃え上がりましたが、その中の何冊かは大きく開いたかと思うと、鳥のように羽ばたきました。

 人々が驚いて見ているうちに本たちは空へと舞い上がり、どこかへ飛び去ってしまいました。


 それからしばらくのち、国内で不思議な鳥を見かけるようになりました。

 とても美しい声でさえずる鳥でしたが、よく聞けば鳥はあの禁書の言葉を口ずさんでいるのです。


 報告を受けた国王は驚き、その鳥を捕まえるよう命じました。

 家来たちは苦労して鳥を捕まえ、籠に閉じ込めました。

 ところが鳥は鳴きやみません。


 国王は鳥の目を潰すよう命じました。

 家来が鳥の両目をほじくり出しましたが、鳥はさえずることをやめませんでした。

 次に国王は鳥の足を切るよう命じました。

 ところが、両足を切られても、鳥はさえずり続けました。

 そればかりか、羽を毟られても、翼をもがれても、鳥は美しい声でさえずり続けたのです。


 とうとう国王は鳥を焼き殺すよう命じました。

 炎に包まれた鳥は一昼夜さえずり続け、とうとう静かになりました。

 あとには、紙を燃やしたような灰と、インクのようにべったり黒い液体が残るばかりでした。


 しかし、鳥は一羽ではありません。

 いつしか、どこへ行っても見かけるようになりました。

 捕まえようとしても空へ逃げてしまうので、なかなか捕まえることができません。そして高い木の上からまたあの禁書の言葉をさえずるのです。


 もはや誰にも鳥たちの声を止めることができませんでした。

 そうして鳥たちは、いつまでも美しい声でさえずり続けたのです」


   ***


「これでお話はおしまい」


 お母さんはそっと本を閉じました。

 そして、ベッドの中にいる子どもに優しく言います。


「さあ、おやすみ。きっとすぐに体から魂が抜けて、幸せの国へ行くことができますからね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【閲覧注意】しあわせのとり ハルカ @haruka_s

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ