小鳥と、鈴と、焼き鳥と

青キング(Aoking)

小鳥と、鈴と、焼き鳥と

焼き鳥が両手をひろげても、

お空はちっとも飛べないが、

飛べる小鳥は焼き鳥のように、

焼かないと美味しくならないよ。

焼き鳥がからだをゆすっても、

きれいな音は出ないけど、

あの鳴る鈴は焼き鳥のように、

鉄板の上で香ばしくはならないよ

鈴と、小鳥と、それから焼き鳥、

みんなちがって、みんないい。


        金子みみず



 私が編集者にこの詩を見せると、編集者は呆れたように顔を顰めた。


「パクリですか?」

「oh,Yes」


 誤魔化すことなく肯定した。

 編集者の眉間に一段と深いしわが刻まれる。


「ふざけてるんですか」

「ふざけてないよ」

「なら、きちんと答えてください。パクリですか?」

「oh,Yes」

「パクリなんですね。わかりました」


 もはや弁駁する気もなくなくったらしい。

 私は言い勝ったつもりで打ち合わせを進行させる。


「それで、この詩を載せてくれないかな?」

「無理ですよ」

「へ?」

「だから、無理ですよ」


 よく聞こえなかったな。

 耳を大きくさせるように片手を添えて編集者へ近づける。


「repeat after me?」

「だから、無理ですよ」

「repeat after me?」

「ウザイな」


 苛立った声を聞こえると、すぐに耳にちぎれる痛みが走った。

 編集者が私の耳を引っ張った。


「痛い痛い、痛い」

「痛くて結構。反省しろ」


 厳しい言葉を私に投げかけ、耳から手を放した。

 痛みが引いていくと同時に私は抗議する。


「暴力だぞ」

「うるさい」

「ハラスメント!」

「うるせぇ」


 脳天に手刀を喰らった。

 痛みのあまり涙目になる。


「うー」

「呻いたってほだされませんよ」

「金子みすゞだって焼き鳥食べた後ならこう書くって」

「書かないと思いますよ。あなたと違って居酒屋帰りに思いついた詩をそのまま出版本の載せようとはしませんよ」


 にべもなく否定されて返す言葉を失くす。

 しょぼくれる私に編集者は溜息を吐いた。


「そもそも、この詩は不謹慎ですよ」

「へ?」

「だって、小鳥のあとに焼き鳥が来たら、え焼いて食べたん? ってなるじゃないですか」

「そういう連想されてもかまわないよ。みんなちがって、みんないい」

「この詩は良くないですよ」

「うー」


 私はまたも呻いた。

 編集者はうんざりした顔になる。


「こうして無駄な口論している間に、新しい詩でも考えたらいいじゃないですか」

「そんなこと言われても。すぐには思い、つかないよ」

「詩のリズムに乗せるな」


 また怒られた。

 わかったよ、と私は折れることにする。


「新しいの考えてくるよぅ」

「それでいい。新しいの出来たらまた連絡くださいね。期待してます」


 そう告げて、私の前から去っていった。

 編集者の姿が見え無くなった途端に深いため息が出る。


「考え捻った詩の方が評判悪いんだもん」

 


 わざと駄々子っぽく不満を吐き捨てた。

 詩集の出版日はまだまだ先のようだ。

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