第22話:えっ? 竹富が?

***


「おはよーございまーす」


 講師準備室に出勤したら、なんだか室内がざわついてた。


「おはよう佐渡君。ほらっ」


 ──ほらって何が?


 ……って、えっ?

 茶髪でミニスカートで巨乳の女子。


「やほ、佐渡。今日からチューターとしてバイトに入りました竹富たけとみ 祐子ゆうこです!」

「は?」


 ちょちょちょちょっと待ってくれ!

 なんでここに竹富がいるんだ?

 しかも俺とおんなじチューターのバイトだって?


 思わず奄美さんを見た。


「うん、私もさっき知って驚いたのよ」


 唖然だ。唖然しかない。


「ちょ、ちょっとこっち来い」


 竹富の手を引いて部屋の隅で話す。


「なんでお前がここにいるんだ?」

「佐渡の話を聞いて、私もバイトしなきゃなぁって思ってね」

「それはいいけどさ。なんでわざわざ『やるき館』なんだ?」

「えっと……あ、そうそう。ファミレスとか居酒屋だったら金本かねもと先輩がお客さんで来たら嫌じゃん?」


 ──いや、可能性低いだろ。


「あ、それと。佐渡がモテないから、ちょっとくらい周りに女の子がいた方がいいかな……なんてお情け」


 うん。俺がモテないってのは事実だが。

 周りにってことなら、素敵な奄美さん始め女子はたくさんいる。

 お前の心配なんてご無用だ。なにがお情けだ。


「いや、大丈夫だ。ここには講師も生徒も女性がたくさんいるし」

「あ、いやいやいや。周りにいてもさ。ほら、佐渡って女子と話すの苦手じゃん。だからさ……」

「別に話すことくらいなら俺だって大丈夫……」

「またまた、強がり言っちゃって」


 あくまで俺をダメな男にしたいようだな竹富。

 まあ、女性と仲良くすることに関しては、確かに高校の時からダメ男だ。

 竹富はそんな俺を知ってる。だから言い返すことはできない。


 でも悔しくなんかないぞ。

 悲しくなんかないぞ。


 ──くそっ!


「あ、佐渡君っ。ちょっといいかな?」


 奄美さんに声をかけられた。


「はい、なんでしょう?」

「君を見込んでお願いがあるの。この書類なんだけどさ。こういうふうにカッコ良く作ってくれないかな?」


 俺は実家の印刷工場でずっと手伝いをさせられてきた。

 その中にはパソコンでチラシをデザインする仕事もあったし、こういうのは得意分野だ。


「わかりました。大丈夫です」

「さすが佐渡君。頼りになるね!」

「あ、いえいえ。奄美さん、からかわないでくださいよぉ」

「からかってなんかないよ。ホントのことだからねっ!」


 ──あ、奄美さん。胸筋を指でツンツンするのはやめてっ。


「いやもう奄美さんってば、人を乗せるのが上手いんですから。じゃあより一層がんばります!」

「うふふ、じゃあよろしくねっ!」


 奄美さんって、マジで人を乗せるのが上手い。

 それも嫌味がないから、ホントにこの人の期待に応えたいって思うんだよなぁ。


「……ん? どうした竹富。なにボーっと見てるんだ?」

「あ、いや……別に」


 呆然としてるな、コイツ。

 俺が案外女性とちゃんと話せてるのを見て、悔しがってるのか?

 ふふふ。悔しがれ悔しがれ。


「あ、すみません。銀ちゃん先生!」


 友香ちゃんが入り口から顔を覗かせてる。


「ん? どうしたの?」

「ほら、この前私にもくださいってお願いした模試の解説資料。いつでも取りにおいでって言ってたから」

「おう、そうだったな。ちょっと待って」


 小豆のために作った資料。友香ちゃんのために印刷してあったものを取り出した。


「ほい、これ」

「わぁ、ありがとうございます! 嬉しいです」

「こんなのでよかったら、また作ってあげるからね」

「はい! ありがとうございます。さすが銀ちゃん先生、優しい!」


 友香ちゃんはニコニコと手を振って帰って行った。

 うんうん。相変わらず素直で可愛い子だ。


「佐渡……」

「ん? どした?」


 竹富のヤツ。青い顔をしてどうしたんだ?


「ヤバ……」

「ヤバい? なにが?」

「……あ、いやいや、なんでもないって。それにしても佐渡、案外モテるじゃん」


 なんだそれ?

 嫌味か?


「俺が? モテる? モテねぇよ。モテるって言うのは、ああいうのを言うんだよ」


 八丈先輩に視線を向けた。

 相変わらず女子講師の皆様に囲まれてチヤホヤされてる。



「ん……確かにね。あの人すっごいイケメン。モテモテだね」

「だろ? 竹富、お前イケメン好きだもんな。大好きだろ、八丈先輩みたいなタイプ」

「あ、違うよ。今のは単に客観的な意見ってだけで。男はイケメンだからいいってわけじゃないし」


 ん……イケメンの金本かねもと先輩にデレデレしてたのはどこのどいつだよ。

 まあ竹富も、あれで懲りたってことか?


「やっぱ男は優しさとか頼り甲斐とか、そこが大事だね。うんうん」


 どうしたんだ竹富。こいつにしてはえらくまともなことを言うじゃないか。

 熱でもあるのか?


「ふぅん……」

「いやあの……佐渡だって可愛い顔してると思うよ。うん」

「フォローしてくれなくていいって」

「べ、別にフォローじゃないからっ」


 どうしたんだ竹富。顔が真っ赤だぞ。

 やりなれないフォローなんてしようとするからだ。


「竹富さぁーん。この仕事お願い」

「あ、はぁーい」


 奄美さんに呼ばれて竹富は行ってしまった。

 さあ俺も奄美さんに頼まれた仕事、さっさとやるとするか。


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【読者の皆様へ】

ここまでお読みいただきありがとうございます!

本作はいかがでしょうか?

「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、最新話の下にある「★★★」の評価をつけていただけたらめっちゃ嬉しいです!


執筆のモチベーションになりますのでよろしくお願いします。

うふ。(きしょっ!)

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