第15話:歓迎会
***
土曜日の夜。
八丈先輩と奄美さんが俺の歓迎会を開いてくれた。
最寄り駅近くの居酒屋に来た。
「ええーっ、そうなんですかぁ~ すごいですね~」
「うわ、やっぱりカッコいいですね~!」
何人か先輩の女子講師も参加してる。
彼女たちがやかましい。
俺がなぜかモテモテ……なはずはなく。
──おい、お前らっ!
今日は俺の歓迎会のはずじゃないのか?
なんで八丈先輩にばかり話しかけるんだ!?
いや……いいんだよ。
このメンバーで来るとなった時から予想できてたことだ。
──ん。このチキン南蛮めちゃ旨え。
先輩方の奢りで旨い料理を食べられるんだから、今日は大満足だ。
決して悔しくなんかないぞ。
悲しくなんかないぞ。
──くそっ。
「ねえ佐渡君。飲んでる?」
「あ、はい」
「まあ飲んでるって言ってもウーロン茶だもんねー 早くお酒が飲めるようになったらいいね」
奄美さんだけは俺に話しかけてくれる。
うん、やっぱり優しいなこの人。
しかも席につく時に、さりげなく俺の隣に座ってくれたし。
俺を気遣ってくれてるのがよくわかる。
神様仏様奄美様。ありがとうございます。
あなた様のおかげで俺は今日も元気に生きてます。
「そうですね。俺だけ未成年だから仕方ないです」
「佐渡君が
「はい、ぜひ」
一年先に大学生になった柔道部の同級生は、飲み会で未成年とか関係なくガンガン飲まされたって言ってた。
この人たちはみんな真面目だな。塾講師だからかな。
「佐渡君って誕生日いつ?」
「七月七日です」
「おっ、七夕!」
「はい」
「あと一ヶ月で二十歳ね。よし、また来月行こ行こ!」
「あざす」
「約束だぞー!」
「はい」
アルコールのせいか、奄美さんはいつもよりテンション高いな。
う……さっきまで女子講師達とニコニコ話してた八丈先輩がこっち見てる。
俺が奄美さんと親しく話してるからか、目が怖いんですけど……ヤベ。
「トイレ行ってきます」
「はーい。道に迷わないでね~」
「あはは、迷いませんよ」
***
──って言ったのに。
トイレの帰り道に迷ってしまった。
俺たちの席はどこだ?
この店バカでかいし、通路が複雑なんだよな。
──あれっ? あれは……
俺と同じく一浪で
高校時代は俺にマウント取って、よく小バカにしてきてた女子。
そしておっぱいが大きな女の子。……あ、その情報はどうでもいいか。
この前キャンパスでたまたま会った時に、チャラチャラした男のサークルに入ったってことだったけど……
やっぱりか。あの時のチャラ男、
そう言えば先輩方の奢りで歓迎会してもらうって言ってたな。
偶然同じ店に来てたのか。
まあバイト先の最寄り駅と青谷大の最寄り駅が同じだから、なくもない偶然だ。
うわ、アイツ顔真っ赤だぞ。酔っぱらってんのか?
竹富ってもう二十歳なったのかな。
なってるとしても酒を飲み慣れてないだろうし大丈夫か?
──いや、俺には関係ないな。アイツの自己責任だ。
俺にとってもっと重要なことは……自分の席がどこなのかということだ。
ん……とは言え。同じ高校時代を過ごした仲だ。
ちょっと気になる。
「おい竹富」
「あ~っ、佐渡ぉ~ こんなとこでなにしてんのぉ?」
なんだコイツ。ベロベロに酔ってるじゃんか。
「大丈夫か?」
「大丈夫だよー 歓迎会楽しいよ~」
こりゃダメだ。めっちゃ酔ってる。
「いい加減にしとけ。飲みすぎだよ」
「は? なにアンタ。文句言いに来たの?」
ありゃ。ご機嫌だったのに急に睨まれた。
「おうお前。佐渡とか言ったな。俺たちの楽しい飲み会を邪魔すんな」
「そうだよそうだよ。どっか行け佐渡!」
せっかく心配してやってるのに。
もう知らん。このアホたれが!
痛い目に遭ったとしてもコイツの自己責任だ。
もしも後で助けてくれって言われても、絶対に助けないからな。
って言うか、竹富が俺に助けを求めるなんてないだろうけど。
それよりも、俺には自分の席がどこなのか見つけるという重大なミッションがあるのだ!
「…………」
──アホたれは俺だった。
竹富達の席からすぐ近くに自分の席があった。
自分達の席から竹富のテーブルが見えるくらい近くだ。
「お帰り~遅かったね」
奄美さんが笑顔で迎えてくれた。
「ただいまです。」
「あれ誰?」
奄美さんが目配せした先は竹富たちだ。
あ、ここから見てたのか。
「高校の同級生です。たまたま同じ青大に進学したんです」
「へぇ~チャラそうな男の人達と飲んでるのね」
「彼らのサークルに入ったみたいなんですよ。歓迎会って言ってました」
「ふぅん、そうなんだ」
「ところでさぁ、みどり」
「うん? なに?」
八丈先輩が声をかけて、奄美さんはみんなの話の輪に戻った。
みんなワイワイ楽しそうだ。
だけど俺は竹富の様子が気になって、イマイチ楽しみ切れなかった。
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