焼き鳥の一生

宮瀬優希

【生きろ、最期の時まで】

ジュウウウウウゥゥゥゥ、パチパチ、パチパチ、ジュウウウウウウウウゥゥゥゥ……


とある居酒屋、その厨房の奥。ギラギラと黒光りする金網の上に、俺たち家族は寝かされていた。メラメラと熱く燃え盛る炎は、絶え間なく俺たちの半身を焦がしていた。


(((熱い、熱い、熱い!!!)))


紅蓮の業火は、数分前からずっと、俺たちの体を焼き続けていた。何なのだ、この地獄は。俺たちが一体何をしたというのだ……!!!

そう思わずにはいられなかった。俺たち家族は、平和に暮らしていたかっただけなのに……。だが、そう思ったところで現実は変わらない。そう俺は……いや、俺たち家族は……


「「「鳥なのだから!!」」」


残酷にも、俺たちは食されるための焼き鳥一家だった。

くるりと体が回転し、もう半身も焦がし始める。あまりの熱さに、弟は泣き出してしまった。ジュウウウウウウウウゥゥゥゥ、パチパチ、パチパチ、ジュウウウウウウウウゥゥゥゥ……。ただただ、肉を焼く音が厨房に響いていた。


「お待たせしましたー、こちらがモモのタレです!」

「おー!ありがとうございます!」

ゆらゆらと皿の上で揺られて、俺たちは机に運ばれた。客が、俺たち家族を見て歓声を上げた。俺たちは地獄の炎をくぐり抜け、タレという名の衣装を身に纏って皿に寝かされていた。その衣装はテラテラと室内の光を反射し、俺たちをの最後を飾る衣装となっていた。……呑気なもんだなぁ、食う側っていうのはよぉ……?客が、俺たちを刺している串を手に取った。

「じゃ、いただきまーす」

客はおもむろに口を開け、串の最上部にある肉……俺たちの父親にかぶりついた。父は静かに目をつぶり叫んだ。

「頼む、一口でいってくれ!!」

客の口が父さんに迫った。父は望み通り一口で、その一生を終えた……。

「「「父さーーーーーーーん!!!」」」

俺たちは、偉大だった父の最期を見送った。

「んーまっ!やっぱタレだよなぁ!」

残酷にも、その客は父を飲み込み、再び口を開いた。次の肉は……俺の兄貴だ。俺が兄貴をちらっと見ると、兄貴はぐっと唇を噛み締め、客を見据えていた。

「とりすけ……じゃあな」

兄貴は俺を振り向かなかった。兄貴の姿は、またも一口で消え去った……。

「「兄貴ーーーーーーー!!!」」

もう、俺たちには食われるという選択肢しか残されていない。そうわかってはいるものの、俺の手は震え、顎もカタカタとなり始めていた。

「……ぁ……ぁ………………」

「ビールとの相性も良いなぁ!」

地獄の門が、開かれた。俺の方にその門は近づいてくる。刻一刻と、死期が迫っていた。それは、わずか数秒足らず。串一本でも数分だ。が、俺は永遠にも等しい時を過ごしたように感じた。

「弟よ……、強く生きろよっ……!!」

頼む、俺も一口でっ……!!そう思って地獄ぼ門をしっかりと見据えた。が……

「痛っ!!?うわああああああああああっ!!!痛えええええええ!!!?っ……っなんでだよおおおおおおおおぉぉぉぉ、クソおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!?」


兄貴も父親もしっかり一口。だが、なぜか俺だけは、二口だった……。激痛に涙を流し、俺は静かに息絶えた。そして目が覚めると……


ジュウウウウウウウウゥゥゥゥ、パチパチ、パチパチ、ジュウウウウウウウウゥゥゥゥ……。


「またかよっ!!!!?」


今度は塩ダレの焼き鳥に転生していた。

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焼き鳥の一生 宮瀬優希 @Promise13

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