焼き鳥屋で一人飲みながら会社の事を思い出して鬱々鬱々

白川津 中々

 仕事が終わりフラと入った焼き鳥屋にて俺は一人晩酌を決め込むのだった。


 ハードスケジュールの真っ只中にある今月。残業が続く毎日で唯一心癒える終末の夜。僅かながら、細やかながら、この時間だけは業務を忘れて一杯に酔いしれたいと縋るのである。FacebookやInstagramでキラキラしている皆様が羨ましい。




「あ、注文いいっすか?」


「はい。承りやす」


「生と、ももとぼんじりタレ。皮、ハツ、砂肝、ささみ、やげんを塩。あとトマト。あ、梅水晶も」


「かしこまりました。ビールと梅水晶だけちょっぱやでお持ちいたしやす」


「お願いします」




 オーダー完了。さっさと来いビール。さもなければ俺は終始仕事の事を考えなければならない。あぁクソ、あの野郎、女にだけいい顔しやがって。事ある毎に「梅ちゃーん。梅ちゃーん」と、耳障りでしかない。セクハラで訴えられねぇかな。あと、しきりにブレゲの時計自慢してくんのがマジでうざい。コピー品だろそれ。サリーマンが買えるかぁブレゲをよぉ。ふざけんなよぉ。



「お待たせいたしやしたー。ビールとお通し。あと、梅水晶でございやすー」


「どうも」



 まぁいい。ビールを飲んで忘れよう。いやはや。やはりジョッキは缶とは違うね。味わい深いよ。家で飲んでると飽きてくるけど、店だと違うね。

 でもまぁ、一人だと寂しいもので、誰かと話しながら酔いしれたいという気持ちもなくはない。そういえば桃ちゃん、今日は予定がないなんて話してたな。誘えば来てくれただろうか。あの子、いい尻してるし目の保養に……


 馬鹿……っ! 発想が最低! あいつと何ら変わらない下衆さ! 弁えろ俺!



「お待たせいたしやしたーももとぼんじりでーす」


「ありがとうございます。お、生をもう一杯」


「かしこまりやしたー……はい、生一丁いただきやしたー……」



 今日はペースが早いな。自重せねば。

 しかし、桃ちゃん。可愛いんだよなぁ。話すとハートがドキドキしてしまう。今彼氏いないらしいし、今のうちに唾かけて……いやいやそれはまずいか。もし問題にされたらと思うと肝が冷える。あいつじゃないんだ。弁えよう。



「お待たせいたしやしたー。生と、こちら皮、砂肝でーす」


「ありがとうございます」



 さて、アテが揃ってきたな。じゃ、始めよう。とりあえず皮を一口……うん。普通。美味しいけど特筆すべき点はない、ごく普通の美味しさ。感動はない。

 あぁ、俺、一生こんななのかな……毎日仕事に追われ、週末に一人で晩酌をして、休みはやる事もなく寝転んで過ごす……生産性もなく退屈な人生を送るばかり。誰も愛せず、誰からも愛されず、歳を取ってからはテレビを見たり近所を徘徊したりして時間を潰す……何も残せず、何もなし得ない人生。辛い。考えるだけで涙が出てくる。うぅ……さ、さみしい……だけどどうしようもない……どれだけ惨めでも今年で三十。辛い事やゲンナリすることもあるけれど、頑張って生きていこう……それが、人生やから……



「お待たせいたしやしたー。ササミとヤゲンでーす」


「ありがとうございます」



 まぁいい食べよう。どうせ考えてもどうにもならん。今は全てを忘れ、焼き鳥を満喫しよう。

 それにしても桃ちゃん、可愛いよなぁ。ワンチャンねぇかなぁ。俺だったら絶対幸せにしてやるのになぁ。

 あ、そうだ。ちょっとTwitterで検索してみるか。彼女今日、財布忘れたって言ってたから、その事について呟いてるかも。よし、検索検索……


 ……あ! あった! これ完全に本人だ! マジかよ迂闊過ぎんだろ桃ちゃん! よーしこれであの子のプライベートを覗き見……うん? 最新の画像付きのツイート。これはなんだ? 今日は彼氏の家にお泊まり……



 ……マジかよ。あいつ彼氏いんの? ねーわ! しかも予定ないっつってたじゃん! あれ嘘だったんかい! クッソ女! 死ねぇ!


 ……あれ? この写り込んでる時計……あいつのじゃね? え? え? いやいや、これ完全にあいつのコピーブレゲ。え? いや、マジ?






 マジかぁ……







 ……スマフォタップ。通話通話。相手は……







「……あ、もしもし梅ちゃん? 今飲んでるんだけど、一緒に飲まない? あ、本当? ありがとありがと。場所は……」





 よし! もうこうなりゃ梅ちゃんと仲良くなってあいつに復讐してやろう! 絶対社会的に制裁を加えてやるからな!

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