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「ええ。何度か。この時期の、雨を纏った紫陽花が好きなんです」


女は答えた。


まさか、私以外に、雨の中、紫陽花を見に来る物好きが居たとは。


「…今日は、紫陽花を見に此処へ?」


私は、女の方へと視線を向ける。


やはり、こう言っては何だが、とても地味だ。


所々に青を散りばめた衣服は、女の雰囲気に良く似合っていて、あの紫陽花のように、綺麗だなとは、思う。


けれど、幾ら綺麗な紫陽花でも、比較的ポピュラーな青色の花は、その他大勢に溶け込んでしまい、人の記憶には残らない。


言ってしまえば、目の前の女性の美しさとは、そういうものだ。


「そうなんです。後は、花火をしようかなって」


「花火?此処で?」


「去年のが残っていて…、せっかくだから、此処で供養しようかなと」


そう言いながら、女は手提げの鞄から、雨で湿気った、余り物の線香花火が入った袋を見せて、私に笑う。

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