第12話

 セツの真っ白な、雪のような肌がそこにはあって。

 

 

 それは想像以上のキレイさで、相手は男なのに、ぺったんこの身体なのに、俺の喉はごくって鳴った。

 

 

 

 

 

 こんなの。

 

 

 こんなのさ。

 

 

 

 

 

 いいよって言うならやりたい。

 

 

 これでやらなきゃ男じゃねぇ。

 

 

 

 

 

 手を伸ばして、指先で首筋に触れた。

 

 

 ぴくんって跳ねる身体がエロかった。

 

 

 

 

 

「これ………何」

 

 

 

 

 

 触れて辿った先、セツの左上腕部分に雪の結晶のような模様があった。

 

 

 セツは答えず、目を伏せただけだった。

 

 

 

 

 

 触りたい。

 

 

 触りたい触りたい、ああ触りたい。

 

 

 

 

 

 指先でそっと触れて、でも、それだけで俺は手をおろした。

 

 

 

 

 

 ダメだ。

 

 

 やっぱりダメだ。セツの身体が傷つくって分かってるのに、触るなんて。

 

 

 

 

 

 こういうのは、ちゃんとお互いに好きって言い合って、まずはデートで手を繋いでキスしてって段階を踏んでいくものだろ?

 

 

 俺は確かにセツに惹かれてて、触れたいって思うけど、このキレイな身体にあーんなことや、こーんなのとをやりたいって思うけど、んでもって俺の元気になりつつあるこいつをセツに………って生々しいことだって思うけど。

 

 

 

 

 

 思うけど。

 

 

 

 

 

「………倫」

 

 

 

 

 

 セツの声が、悲しみを含んだ。

 

 

 

 

 

 ごめん。

 

 

 

 

 

 俺は落ちたシャツを、拾った。

 

 

 拾って、セツに触れないように気をつけながら肩にかけた。

 

 

 

 

 

「倫‼︎」

 

 

 

 

 

 セツが飛び込んでくる。

 

 

 俺の腕の中に。

 

 

 

 

 

 抱き締めたい。

 

 

 抱き締めたい抱き締めたい、ああ抱き締めたい。

 

 

 

 

 

 セツの冷たい身体。

 

 

 俺とセツを隔てる、それは壁だ。

 

 

 

 

 

「………倫、どうして」

 

 

 

 

 

 どうしてしてくれないの。

 

 

 

 

 

 震える声。

 

 

 

 

 

 ずっと好きだったって。

 

 

 そんなの聞いて、二度と会えないって聞いて。

 

 

 

 

 

 抱けるわけ………ないだろ。

 

 

 こう見えて俺は結構真面目なんだ。

 

 

 

 

 

「離れろ、セツ」

「倫‼︎」

「火傷になる前に離れろ。………な?」

「イヤだよ………。せっかく、せっかくこうして倫に近づけたのに。これが最初で最後のチャンスなのに。イヤだ、倫。お願い………。お願いだからせめて僕を抱き締めて」

 

 

 

 

 

 震える肩。

 

 

 

 

 

 顔を上げたセツの目からは、涙が溢れていた。

 

 

 キレイなセツの、キレイな涙。

 

 

 

 

 

 俺は、その涙にそっと、キスをした。

 

 

 一瞬だけ。ほんの少し、だけ。

 

 

 

 

 

 涙は人と同じで、しょっぱかった。

 

 

 

 

 

 なのにセツは人じゃなくて。

 

 

 俺たちは触れ合えない。

 

 

 

 

 

「………ストーブ、消すぞ」

「………倫?」

「朝まで一緒に居よう。触れることはできないけど、それぐらいならできるだろ。俺は布団を巻きつけるから大丈夫」

「………倫」

「な?」

 

 

 

 

 

 恋になる前に、恋にする前に失恋って、何なんだろう。

 

 

 じゃあ何で俺たちはここでこうしてふたりで居るんだろう。

 

 

 

 

 

 俺はストーブを消して、掛け布団を身体に巻いてベッドに座った。

 

 

 

 

 

「セツ、来い」

「………うん」

 

 

 

 

 

 セツは涙を拭ってシャツを着た。

 

 

 そして俺たちは朝までただ、肌には直接触れないようにして、ただ側に、居た。

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