第11話

 もう二度と、こんな風に。

 

 

 

 

 

 ………会えない?

 

 

 

 

 

「だって、来年は⁉︎来年の冬に俺がまたここに来ればいいだけのことだろ⁉︎」

 

 

 

 

 

 違うのか?

 

 

 そんな風に楽観的に考えたらダメなのか?

 

 

 触れることはできなくても、お互いに好意があるのなら。来年、また。

 

 

 

 

 

 だって冬は毎年来る。雪は降る。

 

 

 遠距離恋愛みたいなものだって、思えば。

 

 

 

 

 

 ………思って、も。

 

 

 

 

 

 違う。俺、そんな風にきっと、思えない。

 

 

 

 

 

 触れたいんだ。だって。セツに。抱き締めたい。セツを。

 

 

 でも触れられない。触れたいって気持ちがあるのに触れられない。抱き締められない。

 

 

 

 

 

「分かるでしょ?倫。どうして二度と会えないかって」

「………」

 

 

 

 

 

 会っちゃダメなんだよ。

 

 

 

 

 

 セツは泣きそうな顔で笑って、俺の前まで来た。

 

 

 

 

 

「………ストーブ、消さないと」

「そしたら倫、また熱出ちゃう」

「でも」

「倫」

 

 

 

 

 

 セツが、座る俺に身を屈めて。

 

 

 そして。

 

 

 するりと首に腕を絡めてきた。

 

 

 

 

 ひんやりと冷たいセツの身体。

 

 

 つまり、セツからしたら、俺は。

 

 

 

 

 

「倫が望むなら、身体なんていくらでも捧げるよ………」

「………セツ」

 

 

 

 

 

 俺が、望むならって。

 

 

 何で、そんなにも。

 

 

 

 

 

 俺は、キレイだなって。キレイで儚くて、だからこそ余計にキレイで、一生懸命、すっげぇ一生懸命看病してくれて、それが嬉しくて。だから惹かれて。

 

 

 

 

 

「これが、倫の身体の、ぬくもり」

 

 

 

 

 

 離れないとって、思う。

 

 

 じゃないと、セツが。セツの身体が。

 

 

 そう思うのに。身体が動かない。凍ったみたいに。

 

 

 

 

 

 思い切り腕を回して、俺も抱き締めたい。その唇に触れたい。全部脱がして男でも女でも………って男だな、ぺったんこだ。それでもセツの身体に触れたい。撫で回したい。そしてどんな反応するのか見たい。このキレイな顔をどんな風に歪ませて乱れるのかが見たい………って、あ、いや、えっと。

 

 

 

 

 

「倫も、ぎゅってして?」

「………でも」

「………お願い」

 

 

 

 

 

 切望の、声。

 

 

 懇願の。

 

 

 

 

 

 俺だって、抱き締めたい。

 

 

 鴨がネギ背負って目の前に立ってるのに何もしないなんて、男としてどうだよ。

 

 

 

 

 

 普通の。

 

 

 セツが普通の人間なら、速攻搔き抱いてキスしてベッドに押し倒して服なんか全部剥いてあっちもこっちもそっちも弄りまくってあーんなことやこーんなこともして朝まで寝かさな………あ、だから、その。

 

 

 

 

 

「………倫」

「セツっ………」

 

 

 

 

 

 甘い声にブチって何かが切れて、俺は立ち上がった。

 

 

 そして驚いて腕を離したセツを、思い切り抱き締めた。

 

 

 力一杯。強く。………つよく。つよく。

 

 

 

 

 

「倫」

「………ん」

 

 

 

 

 

 セツの、嬉しそうな声が、かわいい。

 

 

 

 

 

 セツも俺の背中に腕を回して、頬を寄せてきた。

 

 

 冷たい。

 

 

 確かに冷たいのに。

 

 

 

 

 

「………ずっと、見てた。楽しそうに滑る倫、もっと滑りたいって泣く倫、上手に滑れないって怒る倫、どんどん大きくなっていく倫をずっと見てた」

「………セツ」

「一緒に来る人が家族から友だちにかわって、女の子にかわって、それも何回もかわって。でも、見てた」

「え」

 

 

 

 

 

 何回もって。

 

 

 まあそこはつっこむなよ。色々あるんだよ、俺にも。

 

 

 

 

 

 ふふ。

 

 

 

 

 

 セツが笑う。

 

 

 笑って、倫って、俺を呼ぶ。

 

 

 

 

 

 耳に心地いい、優しい声で。嬉しさを含む、声で。

 

 

 

 

 

「………好きだよ。好きだった。ずっとだよ」

「セツ」

 

 

 

 

 

 やめろよ。

 

 

 そんなの聞いたら離せなくなる。もっとってセツを求めたくなる。

 

 

 

 

 

「倫はこわかったかもだけど、僕には本当に夢のような時間だったよ」

 

 

 

 

 

 だから。

 

 

 そんなかわいいこと、言うなって。

 

 

 

 

 

「だからね、倫が望むなら、僕はいくらでも僕を捧げる」

 

 

 

 

 

 セツが身体を離して笑った。

 

 

 それはめちゃくちゃ、マジでめちゃくちゃキレイなキレイな笑みだった。

 

 

 

 

 

 でも。

 

 

 

 

 

 俺に寄せていた頰が、赤くなってた。

 

 

 それにごめんって思った。やっぱり触れちゃいけないって。

 

 

 なのに。

 

 

 

 

 

 なのに。

 

 

 

 

 

「セツ?」

 

 

 

 

 

 セツが何を思ったのか自分の白いシャツのボタンに、手をかけた。

 

 

 

 

 

「セツ、何を」

 

 

 

 

 

 ひとつ、また、ひとつとボタンは外されて。

 

 

 真っ白な肌が見えた。

 

 

 

 

 

 その肌に顔を埋めたい。気持ちの赴くままに。

 

 

 

 

 

「………いいよ。倫が望むなら」

 

 

 

 

 

 ぱさり。

 

 

 

 

 

 白いシャツが、床に落ちた。

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