第3話

 気づいたら、よく分からない状態だった。

 

 

 

 

 

 ログハウス的な部屋のベッドに、俺は寝かされていた。

 

 

 誰が脱がせてくれたのか、俺はアンダーシャツとパンツだけになっていて、布団や毛布がこれでもかってぐらいかけられていて、足元にはほんのりとあったかいもの………湯たんぽか?でも暖房は多分ついてなくて、鼻が冷たいと思った。

 




 

 ここはどこで俺は誰?って、いや、俺は林倫はやしりん28歳。だけど。

 

 

 ここマジどこ。誰か。誰かいねぇの?

 

 

 

 

 

 キョロキョロしてみたけれど誰もいなかった。

 

 

 でもとりあえず助かったことには感謝だった。

 

 

 

 

 

 雪が作り出す真っ白な世界を、俺は初めて怖いと思った。もう絶対終わったと。

 

 

 

 

 

 助けてくれたのは誰なのか。

 

 

 よくあんな真っ白な状態で俺を見つけられたな。ある意味奇跡だ。

 

 

 お礼を。

 

 

 お礼を言いたい。

 

 

 

 

 

 

 ひゅうううううううう………

 

 

 

 

 

 カタカタ、カタカタ………

 

 

 

 

 

 静かな部屋に、風と、鳴る窓の音。

 

 

 

 

 

 ………なんかこえぇかも。

 

 

 

 

 

 心細くて、だから起き上がれなくて、どうしたらいいんだろうって本気で悩み始めた時だった。

 

 

 

 

 

 カチャリ。

 

 

 

 

 

 ドアが開く音が、して。

 

 

 入って来たのは。

 

 

 

 

 

 透き通るような白い肌の、絶世の美女、だった。

 

 

 

 

 

 スラリとしたスレンダーな身体。

 

 

 ショートカットの、濡れたような艶やかな黒髪。こっちを振り向いたくっきり二重の黒目がちな双眸。通った鼻筋。柔らかそうな唇。目元と頰のホクロが、なんか印象的。

 

 

 

 

 

 見惚れた。

 

 

 

 

 

 って、俺、この美女にスキーウェア脱がされたのか?

 

 

 それちょっと………恥ずかしいかも。

 

 

 

 

 

「よかった、目が覚めた」

 

 

 

 

 

 にっこりと笑う美女は異様に薄着だった。

 

 

 暖房がついていないだろうこの部屋で、袖を捲った白いシャツにGパン。

 

 

 

 

 

「ざっと身体を見たけど、ケガはないみたい」

「………あ、ありがとう、ございます」

「どういたしまして」

「あ、あの」

 

 

 

 

 

 ここはどこで、あんたは誰で、どうやったら俺は帰れる?

 

 

 聞きたいことは、山だった。

 

 

 

 

 

「雪がやまないんだ。多分この様子だとあと3日はやまない。ごめんね、この吹雪じゃ、危なくて君を帰せない」

「3日………」

 

 

 

 

 

 マジかよ、おい。

 

 

 仕事どうすんだよ。今日は土曜日だから明日はいいけど、明後日から。

 

 

 せめて誰かに連絡を。

 

 

 

 

 

「あの、電話、ありますか?」

「………ここには、ない」

「マジか」

 

 

 

 

 

 今何時だ?時計もここにはなかった。

 

 

 

 

 

 昼は多分とっくに過ぎている。無事だってことだけでも連絡入れないと、もしかしたら大騒ぎになってるかも、だし。

 

 

 

 

 

「何か、連絡する方法は」

 

 

 

 

 

 

 美女が窓の外を見た。

 

 

 

 

 

 その姿が。

 

 

 真っ白な外を眺めるその姿があまりにもキレイで、ふと昔話に出てくる雪女を思い出させた。

 

 

 

 

 

「………雪」

「………え?」

「雪がやむまでは、無理だよ」

 

 

 

 

 

 美女は小さな声でそう言った。

 

 

 

 

 

 ひゅうううううううう………

 

 

 ひゅううううううううううう………

 

 

 

 

 

 外は白の嵐だった。

 

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