おっさんのサバイバル

信仙夜祭

おっさんのサバイバル

 今俺は、異世界にいるのだと思う。

 理由は、目の前に恐竜がいるからだ……。

 絶叫して逃げ回り、森に入ったら群れに襲われて、最終的に山を登った。


「私はまだ死にたくないんだ~!」


 鳥型の恐竜が飛んでいたが、山に樹が生えていたので身を隠しながら登る事が出来た。

 そして、一定の高度となると、生態系が変化した。

 森林限界と言うのだろうか? ここより上は、草や低木しかない。そんな場所まで来た。


「思った通り、恐竜は寒さに弱いんだな……」


 酸素はかなり薄い。それほどの高地だ。

 だが、恐竜はいない。肉食だけでなく、草食の巨大な恐竜もここまでは来れないらしい。

 ただし、鳥型の恐竜は別だけど。

 昆虫が目に付くけど、害虫にはならないらしい。後は、小さな哺乳類が見えるな……。


 とりあえず、耳を澄ませて音を拾った。その方向に進む。

 運良く湧水が見つかった。源泉だと思う。

 ワサビもどきが自生していたので、飲料水としても問題ないはずだ。苔も生えているし。

 水を飲み、一息付いた。

 とりあえず、冷静になり考える。


「さて、食料をどうするかな……」


 植物は分からない。毒草を口に入れた時点でアウトだ。キノコも同じだ。

 私に、サバイバルの知識などなかった。

 だけど、最低限の事はしないと、数日でアウトだ。


 水場を中心にして少し歩き回り、岩場を見つけた。

 倒木と大きめの岩を組み合わせて、雨風を凌げる空間を作った。かなり簡易的だが、都度調整しよう。

 それと偶然にも、小麦のような植物が生えていたので、引っこ抜きいて敷き詰めた。藁になるのかな?

 これで、簡易ベットの完成だ。冷たい土や岩に触れなくなり安心してしまった。

 ここで、腹が「ぐ~」っと鳴った。

 タイムリミットまで、もう猶予がない。

 知恵を絞り、石器を作った。ここで、火花が出ることを確認する。

 もしかすると、「火打石か?」っと思い立ち、藁の上で思いっきり叩いてみた。

 数十回繰り返して、火の確保が行えた。

 通常だと、摩擦熱で発火させるのだろうけど、運が良かったのかもしれない。

 順調と言えた。ここまでは……。



 一晩休み、狩りに出かける。

 狙いは、恐竜の卵だ。

 武器は、石器のナイフのみ。せめて弓矢が欲しかったが、竹が見つからなかった。

 いや、あったとしても私に製作できるとは思えない。

 衣食住と火が確保出来てから考えよう。

 物陰から恐竜の巣を確認する。


「……無理」


 私より巨大な鳥が、群れており、巣の集落を形成していた。

 不意打ちで一匹は倒せるかもしれないが、その後は嘴で貫かれて終わりだろう。

 その場を静かに後にする。


「こんなおっさんに、サバイバルなんかさせるなよ……」


 ここが何処かは、分からない。神様あたりが、私を見て笑っているのかもしれない。

 ふつふつと、怒りが沸き上がって来た。

 何故私が、こんな目に会わなければならないのか……。

 ここで、目の前を"二足歩行の鳥"が横切った。これも恐竜になるのかな?

 大きさは、ニワトリよりもはるかに大きい……。そして、首が長かった。白鳥とか鶴を太らせた感じだ。

 だが、一匹であり私に危害を加えても来なかった。

 私は、背後から近づき、"二足歩行の鳥"にナイフを突き立てた。

 鳥が暴れる。私はしがみ付き、取り押さえる。

 ここで、手を離したら嘴が襲って来るだろう。

 鳥は暴れ回るが、最終的に樹に頭を打ち付けて止まった。


「首の骨が折れたのか? くの字に曲がっているのだが……」


 私は、血抜きをして、拠点としている岩場に帰った。


「うう。上手い……」


 毛をむしり、内臓を取り除いた『鳥の丸焼き』だ。

 塩などの調味料もない。それでも、涙が出てしまった。

 私の調理方法では、中までは焼けなかったので、小分けして枝に刺して串焼きにして行く。

 もう夜だ。星が見える。

 高地なので、星がとても綺麗だ。


 スマホのGPS機能は動いていなかった。私のスマホは、何もしていなくても一日で電源が落ちてしまう。私は、諦めてスマホの電源を切った。


「後一時間は動くと思う。本当に最後の時に電源を入れよう」


 電子機器に振り回されて生きて来た。

 それを今失った。

 子供の頃に戻った気分だ。

 藁のベットに横になる。そして、目をつぶった。





 目を覚ました。

 俺の部屋だ……。

 だけど……、スマホの代わりに石器を持っていた。それと、鳥の骨……。

 その日は、休んだ。

 流石に混乱していたからだ。


 カップラーメンを食べて、落ち着く。

 石器と鳥の骨を観察する……。


「だめだ、分からん。とりあえず、スマホを新しく手に入れないとな」


 私は、身支度を整えて外出した。

 古い機種だったのだけど、スマホは保証プランで同型が手に入った。

 ただし、GPS機能でも見つけられないのだそうだ。まあ、電源を切っていたし見つけられないと思う。

 データは諦めるしかない。

 思い出せる限りの、復元を行う。クラウドデータも引き継ぐ。

 とりあえず、これで生活には困らないと思う。

 それと、『サバイバル術』について調べてみた。


「石の中に鉄の成分があると、発火するのか……。それと、石器の前に土器なんだな……」


 サバイバル術にのめり込んで行く、私がそこにいた。





 三年が過ぎた。

 今私は、地方の山奥の土地を購入して、キャンプを行っている。

 学ぶことが多い。

 実生活でも活用できるほどだ。

 その知識は、社会人生活でも応用できると分かった。

 取引先で、『ソロキャンプ』が趣味の方がおり、話が盛り上がった。そして大型契約が取れた。

 サバイバル術は、私の今までの世界を広げてくれて、また、新しい世界を教えてくれた。

 目の前の焚火から上空を見上げた。


「……星が、あまり見えないな。あそこは綺麗だったんだけどな。今度、富士山にでも登ってみるか」


 あの場所が、何処だったかは分からない。

 私の食べた"焼き鳥"が、恐竜だったのかも分からない。だけど、石器と骨はある。

 あの体験は、現実だったはずだ。

 寝袋に入って瞼を閉じる……。



 目が覚めた。

 私は、藁のベットに寝ていた……?


「……え?」


 目の前には、失ったスマホがあった。同じ機種が2台だ。

 焚火の跡もある。残した焼き鳥は、なかったが……。

 あの場所に戻って来た?

 思わずにやけた。


 私は、スマホの電源を切った。


「……さて、あの時の続きと行くか。まずは、石器と土器からだな。食べられる植物の検査方法も頭に入っている。それと、弓矢よりも罠だよな~」


 私の、二度目のサバイバル生活が始まった。

 でも今回は、知識がある。


 ここが何処かは分からない。でも生き抜いて、この世界を調べてやろうと思う。

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