第4話「エレベーター」

「何階ですか…」


「あ、一階です」


 友人の住むマンションに遊びに行った帰りに下へと降りる時だった。

 先にエレベーターに入っていた人にそう答えた瞬間に背筋がゾッとした。


 


 その言葉とその言葉を発した人に対する違和感が俺にエレベーター内でスマホとにらめっこするという選択をさせた。そして、一階に着くと俺はスマホから視線を逸らさずに下を向いたままでエレベーターを飛び出した。

 友人の部屋は最上階であり、俺はボタンを押してエレベーターを呼んだのだ。

 なぜあの人は最上階から下へ降りる俺に「何階ですか?」と訊いたのだろうか?

 地下駐車場のある商業施設ならばまだしも、普通のマンションならば下へ向かう人間に何階かなど訊く必要がない。下へ向かうのは地上へ出ることになるのだから…

 そもそも、あの人はなぜ下から上へ向かうエレベーターに乗っていたのに最上階で降りもせず、尚且つ俺が一階で降りてからもエレベーターに留まったのだろうか?

 あの日、俺には振り返る勇気がなかったから実際には俺の後に降りていたのかもしれないが、それ以来、俺は友人のマンションへ行ったときはエレベーターを使用せずに十二階まで階段を使っている。

 ちなみにこの話は友人にはしていない。

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