第18話

 ユルケは朝から孤児養護施設の周辺を散歩していた。


 今日は一段と黄砂が酷い。どこに目を向けても視界が黄色く霞む。



「考え事をするには丁度良い、か」


 ダルクに相談を受けてから一日が経ったが、これといった案が浮かばずにいる。


「ワォ」

 低く短い犬の鳴き声が、後方から聞こえた。


 黒と白の毛色をしたサルーキという犬種の中型犬だ。


「どうした? 家族と逸れたか? 野犬にしては珍しいな」


 ユルケが近付いても逃げない。大人しい性格らしい。


「なんだ、首輪が付いてるじゃないか。ご主人様はどこだ? こんなに良い子から目を離すなんて、君の飼い主の目は節穴みたいだな」


 犬の耳元から伸びる長い毛を撫でる。サラサラとした感触は、いつまでも触ていたいと思わせた。



「ん? ……なんだその脚」


 犬がユルケの足元に鼻を近づけた際に、丸く細い木製の物が見えた。


 よくよく見てみれば、その犬の左後脚は失われており、代わりに頑丈な木の支柱が太ももに括り付けられていた。

 支柱の先端で子供用の靴が合わさっているのは、歩く際の地面との緩衝材としてなのか。


 ――衝撃的だった。創意工夫の後が見て取れるのは、つまりお手製ということ。



「撤回する。どうやら君は主人に愛されているようだ」


 再度頭を撫でてやりながら、ユルケはもっとよく義足を観察する。


「これ、人の脚にも応用できないか……」


 材質だけなら、大してお金が掛けられていないように思える。造りもシンプルだ。

 だけど自分で作るとなると、上手くできる自信がない。こういった技術には、見た目以上の繊細さが要るものだ。



「なあ、もし君が迷い犬でないのなら、あたしを主人の元まで案内してくれないか?」


「ワォ」

 犬はおもむろに歩みを始める。ユルケは半信半疑でその後を追った。



 犬の歩く姿もそこまで違和感はない。義足のためか少しだけ癖はあるが、体の重心は安定している。


「本当に、素晴らしいな」


 惚れ惚れする。何度でも嘆息が出る。きっと主は素敵な人間に違いないな。

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