未知との遭遇

トト

第1話

「隊長大発見です!」


 そう言って隊員が見せたのは、手のひらサイズの時空間パックだった。

 時空間パックとは、名前の通り、そこに入れられる大きさは、そのパックの口に少しでも入ればどんな大きさのものでも入れられ、保存期間も半永久的。温かいものは温かいまま冷たいものは冷めたいままと、パックに入れた時のままの状態で保存できる、便利グッズである。


「中身は何て書いてある」

「えぇと『焼き鳥やきとり』と書いてあります」

「ヤキ鳥……」


 世界は一度大きな災害に見舞われ、その時人間以外のほとんどの生物が絶滅した。

 そして災害前の旧時代の人間たちは、災害を予知してか、各所にその時代のあらゆるものを時空間パックにして後世に残そうとした。

 しかしその努力もむなしくほとんどは破損してしまったのだが、それでもたまに、こうして状態のよいまま時空間パックが発見されることがある。

 主に、いままで発見された物は書物や歴史書、映像などが多かったが、たまにこうしてその時代の生き物が見つかったりするのだ。

 生き物は、貴重でそれは歴史に名を遺すほどの大発見だった。


※ ※ ※


「それでは、これから『ヤキトリ』を取り出します」


 防護服に身を包んだ学者が慎重に、時空間パックに手を入れた。


「痛っ」

「噛まれたのか」

「いや、尖ったものにあたったようです」

「暴れたりしていないか」

「眠っているのかピクリとも動きません」


 そういうと勢いよくそれを引っ張り出した。


「なんだ、この生き物は、これがヤキ鳥なのか? 目も鼻もないぞ」


 図鑑で見知った”鳥”とはずいぶん違うものがでてきて、学者たちがどよめく。


「ミミズの一種でしょうか? それにしてもこれはあまりに生き物としておかしな形をしてる」

「どうやって、活動をしているんだ? 体温があるから、生きているんだよな」


 ほんのり温かいそれをさわりながら、しかし脈がないことに首を傾げる。


「なにかおかしいぞ。それにこれは胴体というより、何ていうか木じゃないか?」


 そういって学者の手を傷つけた先のとがったそれをツンツンと突く。


「確かに、ではこのブニブニしたものが、本体なのか?」


 ブニブニした茶色いものを突く。


「では、串刺しではないか」

「殺生したのち、時空間パックされたということか?」

「なぜわざわざ殺した鳥を……。まさか、旧時代では手に負えない深手を負った貴重な鳥を未来に託したのでは!?」

「それはありえる、まだ体温はあるから、緊急手術をすればもしや」

「先生!」


 その時学者の一人が手をあげた。


「あの、僕それによく似たものを、歴史の本で見たことがあります」

「なんだと」

「でもそれは生きた鳥ではなく、鳥を用いた料理の名前だったと思います」

「料理だと! なら食べるというのかこれを!?」


 この時代、食べ物と言えば一日一回飲めばよいサプリメントだけだった。

 

「どうやってこんなもの食べるんだ」

「本では口に入れて食してました」

「こんな固くて大きなものを口にいれたら、飲み込む前に窒息死してしまうぞ」


 サプリメント一つで事が済むこの時代、歯はすでに退化し、口には上と下に一本ずつ平たい元歯のようなものがあるが、何かをくわえる時に使う程度で、何かを噛みきったりすりつぶす用途では使われていなかった。


「それにこんな尖った木がついていたら、喉に刺さるかもしれない」


 学者たちが首を捻る。


「だいたい、昔の人達の食文化は本当に意味が分からないものが多すぎる。それについて書いてある書物もそうだ」


 この時代、口だけでなく、においを感じる鼻も退化してしまった人類は、サプリメントに『味』を求めるものなどいない。だから古い書物にある食べ物に関して書かれている”おいしい”や”うまい”という意味を理解することはほぼ不可能であった。なので、やたら生き物の体を切り刻んだり、こねくり回したり、混ぜ合わせたりする料理という文化は、まさに悪魔の所業だった。


「鳥の原型がわからぬほど切り刻み、串刺しに」

「そういえばラベルの”ヤキ”に使われている”焼き”という文字は火で燃やすという意味があったはずです」

「さらに火で焼いたというのか!」


 学者たちがざわめく。


「これは旧時代”悪魔の儀式”が行なわれていたという証拠だ」

「または罪人用の拷問道具かもしれないぞ。火で焼かれた鳥の死骸を、尖った木と共に口に押し込まれるんだ」


 残酷な光景を想像してしまったのか、青い顔で新人学者が口を押えて部屋を飛び出す。


 こうしてまた一つこの時代に、旧時代の間違った文献が記録されるのであった。

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未知との遭遇 トト @toto_kitakaze

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