居酒屋での出会い

夕日ゆうや

焼き鳥うめー!

 焼き鳥の香ばしい香りに誘われてオレは居酒屋に入店する。

 店員に案内されるがまま、カウンター席に座る。焼き鳥とビールを頼む。

 隣の席の女性も同じく焼き鳥とビールを頼んでいる。

 あっと驚く美人だが、それだけに話しかけるのは気が引ける。

 くりくりとした赤い瞳。この国には珍しい銀髪を腰まで伸ばしている。

【まったく、やってられないわ】

 ロシア語で愚痴をいうその女性。

 オレは電話応対が仕事で、時折外国人の方としゃべることもある。だからロシア語を習得していたのだが……、

【上司の坂口さかぐち。わたしをなんだと思っているの! まるで馬車馬よ。こんなのはもうこりごりだわ】

 外国人ということもあり、周りに人はいない。話しかけても無駄だと思っているのだろう。

【あーあ。わたし、仕事やめちゃおうかな?】

【それならうちの仕事やってみる?】

 オレは意を決して話しかけてみる。

 注文していたビールを片手に、訊ねてみる。

 女性もビールを掲げ、かんっとグラスをぶつけ合う。

【それもいいかもね。でも、どんな仕事かしら?】

【電話応対だよ。保険会社の。キミが日本語ができるなら、の話だけど】

「ふふ。そんなの簡単よ」

「おや。これは失敬。ならすぐにでも始めるかい?」

 ちょうど、ロシア語のできる人を探していたのだ。

 焼き鳥を頬張りながら、ビールをあおる。

 うまい。

 女性も同じようにビールをあおる。

【ふふ。ナンパ師さん、ちょっと頼ってみてもいいのかしら?】

【ああ。なんなら名刺をあげよう。すぐに連絡をくれ】

 そう言って名刺を差し出すと、嬉しそうに受け取る女性。

【キミ、名前は?】

【アリス。アリス=ルーベルト。よろしくお願いします】

【こちらこそよろしくお願いします】

【こんな口説き方もあるのですね】

【え?】

【なんでもないわ。さあ、飲みましょう?】

【ああ。ここの焼き鳥はサイコーだしな】

 オレは再びビールと焼き鳥を頼む。

 今日は祝い酒だ。

 アリスと飲む酒は格別であった。

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