88歳で結ばれる話~エルフと人の異種婚姻譚~

高久高久

第1話

――生まれて初めて、恋をした。


 俺達は冒険者で、偶々一緒の依頼を受けたのが初めての出会いだった。

 正直印象は最悪だった。彼女は無愛想で俺なんかとは関わり合いを持たず、距離を取っていた。後に当時の話を聞くと、あの頃彼女はを警戒してそういう態度になったそうだ。


――彼女は所謂妖精族エルフだった。 


 人族と妖精族は交流がほぼ無い。警戒も当然だった。見た目麗しいとされる妖精族。例に漏れず、美人の彼女は何かとトラブルも多いようだった。

 ただその依頼をこなす中でお互いを知り、達成を共に喜ぶくらいには仲が深まった。

 依頼の後はそのまま別れたが、後々別の依頼で一緒になる事が増えた。気付かなかったが、彼女が信用出来る人として俺と一緒になるように色々していたらしい。

 その後パーティを組むようになると、彼女の色々な面が見えてきた。大人びた外見とは裏腹に、少女の様な幼い面も多かった。それを指摘すると膨れる様が可愛らしかった。


――どんどん彼女に惹かれていき、その感情を自覚した時に俺は彼女に求婚プロポーズした。

 最初は断られた。


「私、88歳だから……」


――妖精族は長命の種族。人族よりも長い寿命を持つ。そんな2人が結ばれる訳が無い。それが彼女の言い分だった。

 だが俺は諦められなかった。諦めが悪かった。その諦めの悪さに彼女が折れた。


「私だって本当は貴方と結ばれたい! 貴方と家庭を持って幸せになりたいよ! でも……でも、無理なんだよ……!」


――妖精族の婚姻は、里で祝福されなければならないらしい。88歳の彼女と、26歳の俺では結ばれる事はできない。彼女はそう言った。

 俺は納得いかなかった。だから、彼女の故郷――妖精族の里へ説得に行く事を決めた。


 彼女に案内され訪れた妖精族の里は、意外にも人族を歓迎してくれた。交流は全く無い訳では無いようだった。

 彼女は両親を紹介してくれた。彼女の両親も美しく若々しい外見で、親子というより兄妹にしか見えなかった。

 最初は彼女の両親も歓迎してくれていたが、俺が彼女を愛している事を話すと、雰囲気が一気に変わった。

 その辺りは覚悟はしていた――けどさぁ、その後の展開予想出来る奴いないって。


「お、おま……88歳の幼子を嫁にしたいとかふざけんじゃねぇぞこのロリコン野郎がぁぁぁぁぁッ!」


 御両親に結婚を認めてもらいに行ったら、変態ロリコン扱いされたでござる。いや妖精族にも小児性愛ロリコンってあるんだね。初めて知ったわ。


――その後ブチ切れ俺ぶっ殺すモード彼女の父お義父さんを落ち着かせて判明した事。


 妖精族と人族は別に婚姻可。ただそれは(人族で言う所の)成人した妖精族の話だ。

 そして妖精族にとって88歳はまだまだ幼子にあたるそうな。人族で精々10歳前後になるとか。人族で冒険者やってたのは社会勉強らしい。

 彼女が実は(妖精族では)幼女だったとかわかるわけねぇだろ。確かに胸はぺったんこまな板だが、妖精族はスレンダーまな板というのが人族には常識だったんだよ。でも彼女の母お義母さん豊穣ばるんばるんだったんでその常識を改める必要がありそうだ。前に冒険者ギルドの受付嬢の谷間巨乳特有のアレに目を奪われたのに気付かれ、自身の平原貧乳特有のフラットを気にした彼女の「まだ希望あるおっきくなるもん」という呟きに「現実見ようぜいや無理だろ常識的に考えて」と慰めるやり取りた筈が殴られた事があったが、あれ本当まだ希望あったんだったんだな。ごめんて。


 ちなみに妖精族にとって成人は何歳になるのかというと、


「……150歳」


彼女が目を背けながら言った。

 150歳。今の彼女が88歳だから62年後。26歳の俺が88歳にならないと結婚できないという事である。知ってたんなら教えてや。

 こうなると俺は頭を抱えるしかない。88歳では流石に幸せな家庭は無理である。夫婦生活じゃなくて介護生活になっちゃう。子供もいくら愛があるって言っても無理だろ下半身事情俺の愚息的に考えても。そもそも88歳だと俺生きているかも疑問だ。

 何故150歳でなければ祝福されないのか。そもそも祝福とは何なのか。その辺りの疑問がわき、ぶつけた結果判明した事。


 妖精族の肉体的には彼女の年齢88歳でも妊娠出産は可能であるそうな。だが、精神的には耐えられないそうだ。


「精神的に耐えられない、とは?」

「うむ。行為による快楽に耐える事が出来なくなってしまう。ぶっちゃけると溺れる」


 成人前の妖精族は精神面でもまだまだ未熟なようで、快楽を覚えた結果堕落快楽堕ちして誰でもいいから求めてしまうという、妖精族にとっても忌避されている闇妖精族ダークエルフになってしまうそうな。

 うん、新情報多くて頭が痛くなってきた。ダークエルフが忌避されているっていう話は聞いていたけど、まさか性に奔放ビッチな妖精族だったなんて。言われてみれば確かに夜のそういう店でダークエルフがいるってのは良く聞くが。行った事ないから実態は知らないけど。

 で、祝福というのは成人精神的にも成熟した妖精族に大切な心がけを教える儀式だそうな。うん、大事だよね祝福性教育と道徳教育。だったら前もってやれよ、と思うわけだが、やはり未熟な状態だと意味が無いそうな。


……えっと、なんだこの詰んだ感。


「……ごめんなさい……私がもっと、早く教えていれば……」

「ああ、いや、うん」

「でも、私も貴方と幸せな家庭を築きたかった……貴方との赤ちゃん、欲しかった……貴方とこう、結ばれたかった……貴方に抱かれた滅茶苦茶にされたかった……」


 涙を流しながら彼女が言う。あれ、なんかもう手遅れ感ダークエルフ堕ち無い待った無し


「……手が無いわけではない」

「本当ですかお義父さん!?」

「ああ。後もう一度私を『お義父さん』呼ばわりしたら殺す」


 笑顔で言うお義父さん。美形の笑顔の殺意めっちゃ怖いっす。


「時に聞くが、君は清い身体のようだな?」

「清い身体?」

「ぶっちゃけると未経験DTって事だ」


 いきなりなにぶっちゃけてんだこの義父。後そこの俺の恋人。『えー未経験DTなのー?』って嬉しそうな顔しない。てかなんで義母まで嬉しそうな顔してるんだ。興奮するだろ。


「どうやら図星のようだな」


 勝手に確定された。いやそうなんだけどさ、それの一体何が関係あるのか。


「人族というのは一定年齢まで清い身体チェリーでいると魔法を使えるようになる」


 なんだその眉唾伝承……え? 本当なの?


「魔法の中には時魔法という時間を操る物がある。君がそれを覚える事が出来れば、老化を遅らせる事チロウ化も、身体を若返らせる事ショタ化も可能となる。幸いにして妖精族は魔術、魔法の類に長けている。時間をかければ覚える事は出来るだろう」


 遅老化って事ですね。それとショタ化って何ですか。そしてそこの母子は何期待ワクテカした顔してるのでしょうか。興奮するだろ。


「そういうわけで、君には不本意ではあるがこの里で暮らしてもらう。本当に、本当に不本意であるが、娘の幸せの為だ!」


 義父は目と口から血を流しながら叫んだ。良く見ると握りしめた拳からも血が流れている。何だろう。俺の中の妖精族観エルフのイメージがどんどん崩れていく。


「ああ、それと娘と暮らすにあたって君にはこの妖精族の里に代々伝わる拘束具をつけてもらう。辛いとは思うが、娘の為に仕方なくだ」


 そう言って義父が見せた拘束具は、


「あの、それどう見ても貞操帯なんですけど」

「代々伝わる拘束具だ」

「いや代々伝わるって事は以前使われていた物――」

問答無用ごちゃごちゃ抜かすな!」


 何故か義母が突如俺をひん剥いて拘束具貞操帯を着けた。義父は突然の事で「え、ちょ、おま」と戸惑っていた。そして我が恋人は両手で顔を隠していたが、指の間からチラガン見していたのを、俺は知っている。もうこの娘手遅れダークエルフじゃない?


――とまぁ、こうして、俺と彼女の同棲生活は始まったのであった。


――その後、本当に色々な事があった。

 一定年齢30歳を迎えた時に本当に魔法が使えるようになったり。

 妖精族の里に勇者が来て、彼女に一目惚れしたかと思ったら最終的に俺が惚れられたり。

 何故か魔王討伐に巻き込まれたかと思ったら魔王が俺と彼女2人とも娶ろうとしたり。

 拘束具貞操帯が辛すぎて襲う前に、我慢しきれなくなった彼女に逆に襲われそうになったり。

 忙しく、騒がしくあったが、それなりに幸せな日々であった。


――そして俺が時魔法を覚え、彼女が150歳になり、直後に結ばれ襲われて88歳にしてパッパされるのだが、それはまた別の機会に語るとしよう。

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88歳で結ばれる話~エルフと人の異種婚姻譚~ 高久高久 @takaku13

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