2014年12月4週③

「はい、こっちは弱めのベリー系ね。お姉さんの分。で、こっちはちょっとだけ強めのベリー系ね。……。頑張んなさい。こういうのは早めに終わらしちゃうのがいいわよ?」

「ちょっと!」

「ごゆっくりー。」

「ありがとーございまーす。」

「……。はい。」


「では、バーテンダーのお姉さんも言ってたし。」

「え?」

「サプライズどうぞ。」

「えっ!」

「たぶんこうしてあげないと、一生渡せないでしょ、ちーちゃん?」

「…………。……。あのね、クリスマスプレゼント。」

「ホント!?ありがと!なになに?」

「これなんだけど。」

「なに?リップグロス?」

「……。う、うん。」

「ありがとー!グロスって持ってないから、嬉しいかも!今塗っていい?」

「あ、あの、ね。あやち。」

「え、なに?」

「わた、しが、つ、付けて、あ、げる。」

「え、うん。ありg……。あー。……。うん!」

「…………。」


うわ。

察された。

あやちは、これだから。

…………。

……………………。

ふぅ。


「…………。」

「…………。ちゅっ。」

「……。ありがとっ。どう?あやち、かわいくなった?」

「…………。かわいいよ。」

「もー!なんでちーちゃんの方が恥ずかしがってるのー!わかっててやったんでしょー!」

「だ、だって、あやちが。」

「そりゃ、あんな風にどもってたらわかるよ?」

「ううぅ。」

「で。これはあのバーテンダーさんの差し金?」

「へ?」

「ちーちゃんがお店の中でこんな事しようとするとは思えないけど。」

「……。あのお姉さんがやれって言いました。」

「あー!言っちゃダメじゃない!」

「ご、ごめんなさいぃ!」

「はあ。ちーちゃん?」

「なあに?」

「ちーちゃんって可愛いよね。ホントに可愛いね。なんでこんなに可愛いの?」

「え、かわいいとか。やm、んっ。……。」

「ちゅっ。……。あやちをこんな気分にさせて。ホントに可愛い。」

「…………。」

「ちーちゃん。大好き。」

「あやち。」

「……。なに?」

「わたしもあやちのこと好きだよ?」

「知ってるよ?」

「いや、この『好き』は「ラブなんでしょ?」……。うん。」

「それも知ってるよ?」

「だから。その。」

「なに?」

「…………。先月から。あの人と別れてから、あやちの部屋にずっといるじゃん?」

「そうだね。もうそろそろ当たり前になってるね。」

「最初の予定はさ、今月中だったじゃん?」

「今月中というか、ほとぼりが冷めるまででしょ?」

「……。もうちょっと、続けてもいい?」

「一緒の部屋にいるのを?」

「うん。」

「いつまで?卒業くらいまで?」

「ううん。」

「ん-、じゃあ。」

「ずっと。」

「え?」

「ずっと。もうたぶん結構ずっと。」

「ずっとって。」

「…………。リップのね。」

「うん?」

「リップにね、入ってるの。」

「何が?」

「アングレカム。」

「……。なに、それ?」

「白い花で。ランの仲間なんだって。」

「うん?」

「その。花言葉がね。」

「うん。」

「『いつまでもあなたと一緒』。」

「うん。」

「だからね。」

「うん。」

「そういうことなんだけど。」

「……。わかったんだけど……。」

「え?」

「わかったけど。ちーちゃんの言葉で聞きたいから。」

「あ。」

「待ってるんだけど。」

「ごめん。」

「ごめんじゃなくて。」

「えーっと。あの。その。」

「……。」

「その。」

「…………。」

「……。今日見てて分かったと思うけど、わたしこんなんだけどさ。」

「知ってたよ?」

「……。…………。一か月前のさ、あれで分かったと思うけど、わたし、あんなんだしさ。」

「それは知らなかったねー。」

「…………。それでもさ、あやちのことはさ、その、頑張って考えててさ。」

「……。不器用にね。」

「……。ちゃかさないでよ。」

「えー、だって、あやちたちだよ?そんなに肩肘張っても。」

「…………。わたしが緊張してるのほぐせないから。……。あやちも、硬くなってよ。」

「そんな無茶なお願いあるんだ。」

「えっと。」

「いいよ。緊張してあげる。」

「ありがと。」

「……。」

「不器用かもしれないけど、わたしなりに考えてて。」

「らしいね。」

「…………。今日の、その、で、デートも、予約ぐちゃぐちゃになっちゃって。」

「でも楽しかったよ。」

「あやち大変だったじゃん!」

「大変だったけど、大変だったのが楽しかったよ?」

「……。」

「だって、ちーちゃんと一緒だったから。ちーちゃんと一緒だと、どんなことでも楽しいよ?」

「…………。」

「……。まどろっこしいよ?」

「順序があるの。」

「……。」

「…………。わたしも、なんやかんやで、大変だったけど、でも楽しくて。」

「……。」

「それが今、あやちとも同じだってわかって。」

「あやちも。」

「だからね。」

「うん。」

「その花言葉の「花言葉じゃなくて。」、えっ?」

「ちーちゃんの言葉で教えて?」

「…………。…………。ずっと一緒にいてくれる?」

「ずっとってどれくらい?」

「あやちがわたしに飽きるまで。」

「じゃあ、死ぬまでだね!」

「……。先は長いね。」

「そうだね。」

「好きだよ?」

「知ってるよ。」

「あやちは?」

「だーいすきだよ?」

「……。知ってた。」

「……。」

「ごめんね、待たせちゃって。」

「待ってないよ?だって、ずっと一緒にいたじゃん。」

「…………。」

「あやち屁理屈は得意だから。」

「…………。ありがと。」

「うん。」

「いや、この『ありがと』は、……。」

「……。なに?」

「なんだろ。」

「え?」

「分かんない。」

「は?」

「分かんないや。でも、ありがとう。」

「えー、なにそれ!……。じゃあ、あやちも!ありがと!」

「うん。」

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