2014年11月4週⑤

「じゃあちーちゃん。今からはあやちの言うことを全部聞いてもらいます。」

「……。」

「返事は?」

「はい。」

「よくできました。まず手始めに、ちーちゃんはこれから人の言葉をしゃべれなくなります。」

「えっ。」

「ちーちゃんは今からワンちゃんになります。返事は全部、『ワン』で答えてね?」

「え、ちょっ「ちーちゃん?」…………。わん。」

「はい、おりこうさん!なでなでしてあげますねー。」

「あ、ちょっとあやち!」

「あれえ?ちーちゃんはお犬さんですよ?」

「わ、わん。」

「そうそう。じゃあ次に合言葉を決めるね。『もう本当にこれ以上はダメ』って。『さすがにこれはやり過ぎ中のやり過ぎ』!ってなったときだけ叫んでね。問答無用で全部解放してあげるから。合言葉は『バナナジュース』ね。」

「え、それこt「『わん』でしょ?」……。わん。」

「このワンちゃんは全然いうこときいてくれないね。悪いワンちゃんだね。」

「わん!」

「そこで元気に返事されても困るよ?」

「わ…………。」

「さて、じゃあちーちゃんの汚されちゃった場所を全部舐めてあげるね。あやちのキスで全部上書きしてあげる。」

「……。」


耳元で聞こえてた声が遠ざかる。

足元?

ベッドの沈み方で 、たぶんそのあたりにいる気がする。

あっ。

おへそ。

そこは、汚されてないよ?

きれいなままだよ?

んっ。


おへその穴まで。

舐められてる。

えっ、くすぐったい。


内ももに息がかかる。

思わず足を閉じる。

キスされてる。

くすぐったい。

少しずつ場所をずらしながら吸い付かれてる。

ちゅっちゅっって音が聞こえる。

閉じた足が無理やり拡げられていく。

恥ずかしい。

足の間にあやちがいる。

思わず身をよじる。

頭が揺れる。

あっ。

あやちの香りがする。

あ。

これ。

……。

いいかも。


内ももが全部吸われた。

膝も。

膝裏も。

あやちがいるから足が閉じれない。

膝が曲がる。

曲がって、体がねじれる。

体が浮く。

腰が浮いてくる。

でもずっと吸われてる。


ぷよぷよしたふくらはぎも。

キスの嵐。

ぶるぶると震える。

あやちの唇が当たるたびにぶるぶると震える。

くっついて。

離れて。

重力に負ける。


骨ばってるだけの脛も。

骨の隅々まで。隙間の隙間まで。

余すところなく。

あやちの涎が刷り込まれる。

べとべとするけど。

けど。

嫌じゃない。

あやちの舌が這う。

『んひっ』。

思わず声が出ちゃう。

恥ずかしい。

こういう油断してるときに、不意打ちされると恥ずかしい。

くすぐったい。

くすぐった気持ちいい。

足でこんなに気持ちよくなれるんだ。

…………。

恥ずい。


『んふっ』。

足の裏を握られる。

くすぐったい。

足の裏は、ダメ。

くすぐったすぎる。

手で触られるだけでもダメなのに。

舐められてる。

あやちの舌が撫でてくる。

膝が曲がっちゃって。

『うっ。』

あやちを蹴っちゃう。

『だいじょうb「犬は喋っちゃだめだよ?」…………。』

忘れてた。

犬だった。

…………。

細かいな……。


足の指の一本一本を舐められてる。

くすぐったいけど。

…………。

我慢。

また蹴っちゃうから。

足の指を握りしめて。

あやちの舌でほぐされて。

でもくすぐったくて。

やっぱり握っちゃって。

『イテッ』

あやちに足を叩かれた……。

でも、無理なんだけど。

そこは許してくれないと……。

むー。

あやちが厳しい。


『なぁっ』

腰までぐっと。

あやちの舌が。

足先から。

舐め上げて。

…………。

ビックリした。


『ここも、舐めるね。』

『んっ。』

あやちの舌が、わたしの大事なところに届く。

………………。

もう大事なところじゃなくなっちゃったかも。

あの人に汚されちゃった場所。

キレイなものじゃなくなっちゃった。

あやちのためって、意味わかんない理由で散らしたところ。

……。

嬉しい。

あやちの舌が入り込んでくる。

あの人は舐めてくれなかった場所。

……。

アイマスクが濡れてる。

……。

あ、泣いてたんだ。

わたし泣いてるじゃん。

あそこ舐められて泣くって。

処女かよ。

…………。処女じゃなくなってた……。

………………。

…………。

『んっ。』

『ちーちゃん、今変なこと考えてたでしょ?』

『そ、そん、なっ、ことっ。』

『ふーん。』

……。

あやちに嘘は付けないなあ。

『……。泣いてた。』

『えっ?』

『初めてだったから。あの人は舐めてくれなかったから。』

『……。じゃあ、あやちがちーちゃんの初めてなんだ。』

『……。うん。』

『っ!…………。ありがと。』

『うん。』

余計に熱がこもる。

……。

そっか。

マリさんにも舐められたことないんだ。

…………。

あやちが初めてか。

……。

『んあぁっ。んんっ。』

意識したら余計に。

……。

きちゃう。

『あ、ダメ。あやち。ダ、……。え?』

『また喋ってる。言うこときけない悪い子はお預けしちゃうから。』

『ああぁ。くぅん。』

『そんな可愛い声出しても遅いよ?後でまた触ってあげるからね。』

『っ!』

急に耳元で話しかけられるもんだから。

『んっ!』

あ。

キス。

あやちの香りがする。

あ、やばい。

タバコの匂いが。

『ねえちーちゃん。まだタバコ吸ってるの?』

『……。わん。』

『…………。これからはあやちに言ってね。』

『え?』

『キスしてあげるから。』

『あ。』

あ。

んん。

あ、ダメ。

いまそんな。

あ、ヤバ。

きちゃう。

見たい。

あやちが見たい。

唇を突き出す。

さっき触れたはずの唇を探す。

居ないけど。

見つからないけど。

分かんないけど。

こうするしかなくて。

ああ。

なんて無力。

え。

アイマスクが。

……。

視界がぼやける。

ずっと暗かったから、目が慣れない。

『ちーちゃん?』

『…………。』

『目、真っ赤。』

『え?』

『ごめんね。寂しかったよね。』

『…………。』

『あと。……。可愛かったよ?唇突き出してるの。』

『あ……。』

『キスしてほしかったんだ?』

『…………。』

『ご褒美。』

ああ。

思ったより泣いてたんだ。

ああ。

涙でボケてただけなんだ。

ああ。

開いてた口に、あやちの舌が入ってくる。

暖かい。

あやちを感じる。

あやちの体温を感じる。

側にいる。

あやちが側にいる。

目の前にいる。

閉じれない。

目を閉じれない。

見ていたいから。

わたしを受け入れてくれてるあやちを見ていたいから。

あやちと目が合う。

恥ずかしい。

けど。

離せない。

視線が離れない。

あやちも離さない。

目線もキスしてるみたいに。

熱を持ってくる。

あ。

またボケてくる。

…………。

これは何の涙なんだろ。

嬉しいのかな。

……。

嬉しんだと思う。

わたしを。

わたしの中の全部を受け入れてくれたことに嬉しいんだと思う。

…………。

卑怯だな。

あやちは卑怯だ。

…………。

好きになっちゃうじゃん。

こんなの。

あやちの舌にわたしの舌が出会う。

『んんっ。』

電気が走ったみたいに、びりびりする。

触れられないくらい痺れてる。

舌も。口も。喉も。頭も。

全部。

でも離れられない。

電気のプラスとマイナスが離れられないように。

さっき走った電気は、わたしたちの舌を変えてしまったのかもしれない。

絡む。

絡んで、蠢いて。

離れそうになるくらい激しい。

けど。

絶対に離れない。

わたしたち二人がもう二度と離れないように。

わたしたちの舌も離れない。

あ。

『そろそろ次に行くね?』

思ったよりも別れは早く来てしまった。

……。

足りない。

全然足りない。

あやちはもうわたしの顔を離れて、お腹に下りてる。

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