2014年9月2週②

「それならそうと言ってくれればよかったのに。」

「だって、ちーちゃんに目いっぱい楽しんでもらいたいもん!」

「だからって、予約の時間ギリギリまで遊ばなくても。」

「いいの!間に合ったんだから!」

「ま、そうだねー。」


貸し切り温泉。

チェックインしたタイミングで予約してたらしい。

大浴場もいいけど、二人でのんびり入れる方が良いかもね。

あの時二人で入ったお風呂は狭かったし。


「じゃあちーちゃん。座って。」

「へ?」

「洗ってあげる。」

「あー。いいよ!自分で洗うから!」

「だーめ!今日はあやちが洗うのー!」

「い、いい!」

「あ、もしかしてちーちゃん、エッチなこと想像してるでしょ?」

「そ、そんなわけ。」

「温泉でそんなことしたら怒られちゃうから。今はそんなことしないから。」

「…………。」

「じゃあ頭から洗っていくねー。」

「……。お、お願いします。」


「いい景色だねー。」

「日によっては、ここから花火が見れるらしいよ?」

「え、まじで?」

「でも、高いよ?」

「…………。わたしたちにはこれくらいがちょうどいいね。」

「でも見たかったねー。花火。」

「前見に行ったじゃん。」

「前見た時は浴衣だったじゃん。」

「そうだけど。」

「裸で花火見るってなかなかないじゃん。」

「ちょっ!」

「はい、ちーちゃん。どうぞ。」

「…………。準備が良いね、あやちは?」

「前言ってたことあるでしょ? 温泉に浸かりながら、冷酒。」

「確かに言ったけどさ。ここでこんな準備がされてるとは。」

「逆に、今日しかないと思ったよね!」

「そこまでしてもらって、ほんとにありがたい限り。」

「まあね!だってあやちは、ちーちゃんの一番の「理解者でしょ?」……。」

「さすが一番理解してるだけあるよね。今日の旅、100点!」

「まだ1日目すら終わってないよ?」

「むう。困った。」

「やっぱり、ちーちゃんは頭悪いね。」

「あー!また悪口言ったー!」

「でもそれが可愛いよね。」

「…………。」

「大好き。」

「わたしも。好きだよ?」




「あー、お腹いっぱい。」

「よくあんなに全部食べ切ったよね?」

「ホントにね。絶対残ると思った。」

「旅先のご飯は別腹みたいな?」

「そうかもね。あー、お腹いっぱいになったら眠くなってきた。」

「もう寝ちゃう?」

「寝はしないけど、布団には入ろうかな。」

「じゃああやちも布団に入るー!」

「……。ちょっと、あやち?」

「 なあに?」

「むこうにも布団が敷かれてるよ?」

「そうだね。」

「……。狭いよ?」

「でも、ちーちゃん暖かーい。」

「でもの使い方あってるの?」

「いいのー!一々気にしてたらちーちゃんと遊べないもーん。」

「……。あんまり無防備だと、襲われちゃうよ?」

「…………。ちーちゃんならいいよ?」

「…………。」

「…………。」

「…………。だーっ!こちょこちょの刑だ!」

「あっ、ちーちゃんっ!ちょっと!くすぐっ、んひっ。んっはー。ぬぬぅ。」

「よくもわたしをからかったなー!今日は寝かさないぞー!」

「ちょっ、ほんとにっ、ちい、ちゃんっ、いきがっ。」

「ふぅ、今日はこれくらいにしてやろう。」

「ふぅふぅ、ふぅ。……ふぅ。あ、ありが、とう。」

「これに懲りたら、わたしをからk……。脱ぐの?」

「だってあやち、夜は着ない派だもん。」

「いや、あのさ、脱いでさ、わたしの布団に入るとかさ。」

「うん?」

「そういうことじゃん?」

「そういうことだよ?」

「…………。」

「…………。ちーちゃんは着たままなの?」

「…………。」

「脱がされたい派?」

「……。脱ぎます。」



「撫でるよ?」

「うん。」

「柔らかい。」

「いや、知ってるでしょ。」

「改めて思ったの!」

「……。」

「……。あ、もしかして。」

「ん?」

「香り。」

「……。」

「付けてくれたんだ?」

「…………。つけた。」

「いい香り。やっぱり似合ってる。」

「ありがと。」

「こっちこそ。使ってくれてありがと。」

「結構好みの感じだったから、今日くらいは使ってみよっかなって。」

「……。あやちも付ける。」

「え?」

「あやちも香水付けたい。ちょっと待ってて!」


がさがさ。

あやちが昼間の練香水探してる。

わたしがあげたやつ。

『付けたい』だって。……。嬉しいもんだね。

自分のあげたやつをそんな風に思ってくれるなんて。

…………。

向こうむいて探してる。

お尻がプリプリしてる。

無防備だなー。

…………。


「えいっ!」

「きゃっ!」

「あやちー。いいお尻してるねー。」

「ちょっと!ちーちゃん!エロ親父だよ!」

「……。そのツッコミは正しいの?普通『やめて!』 じゃない?」

「……。別にやめてほしい訳じゃないから。」

「…………。…………。そうやってあやちは人を誑かすんだね。」

「えっ、なにが!?」

「ちゅっ。」

「んんっ。」

「……。探せた?」

「ん-、ちょっと待って。…………。あったよ。」

「貸して?」

「え?」

「付けてあげる。」

「…………。」

「わたしの鼻が近づくところね。まずは、耳の後ろ。「んふぅっ。」……。それから。首の後ろ。「んんっ。」…………。手首。「ん。」あと。毛先。「……。」……。よし。」

「あやちも付けたい。」

「えー。わたしもう十分付いてるから。いいよ。」

「むー。」

「明日!明日付けて!」

「うん!」




「ねえ?どっちが好き?」

「どっちって……。」

「右耳と「んはぁっ。」……。左耳「んあぁっ。」と……。どっちが好き?」

「どっちも。」

「じゃあどっちも触るね?」

「んっ、あっ、それっ、ほんとにっ!」

「ホントに何?」

「ホントにだからっ、んあっ。」

「喘ぎ声大きいよ?」

「だって……。…………。あやちに責められるの、緊張しちゃって。」

「あやちだってしてあげたかったんだから。ちゃんと勉強したんだよ?」

「べ、べんきょう?どうやって?」

「…………。ちーちゃんの家からエッチなビデオ借りて。」

「えっ!いつ?」

「覚えてないけど、結構前。」

「あー。だからかー。」

「なにが?」

「お気に入りだった奴がどっか行っちゃって。なくしたと思ってて。」

「あ。……ごめん。」

「別にいいけどね。じゃあまだあやちが持ってるんだよね?」

「……。う、うん。」

「無くなってないならいいや。」

「……。ごめんね。」

「いいよ。あやちが頑張ってる証拠だもんね。でも勝手に持ってかないでね。焦るし、物が物だからあやちに聞けないし。」

「ううぅぅ。ごめん。」

「その代わり。」

「ん?」

「今日は頑張ってわたしを楽しませてね?」




まだ夏だなー。

もうすぐ夜が明けるけど。

まだ暑い。

窓を開ける。

海風がふわっと部屋に流れてくる。

夜風が火照った体を冷ます。

同時に香水の香りが部屋に散る。

わたしの鼻にも届いてくる。

……。

あやちが作ってくれた香水。

4か月遅れの誕生日プレゼント。

…………。

『何あげていいかわかんなくなっちゃって。』

…………。

ちょうどわたしたちの関係が変わろうとしてた時。

あやちにはむごいことさせてたなー。


…………。

今日もできなかった……。

『焦らし』の概念を植え付け過ぎたかも。

あやちの体力が間に合ってない。

わたしでも結構疲れるのに。

わたしより体力のないあやちには限界だよね。


でも。

健気にわたしを触ってくるあやち、かわいかった。

勉強してるのかー。

勉強してくれてるのかー。

ちょっと嬉しい。

わたしのために勉強してたのかと思うと、嬉しい。


チェックアウトは…………。

10時ね。

明日の予定知らないから、どうしようか。

…………。

寝させてあげるか。

疲れてるしね。


うー。

風浴びすぎたかも。

ちょっと冷えてきた。

お風呂行こ。

…………。

勝手に行ったら、起きた時困るよね。

メモ残すか。

…………。

『大浴場に行ってます。  ちーちゃん。』

…………。

これでいっか。

あやちのスマホに貼っとけば、さすがに気付くでしょ。

朝風呂ならぬ、深夜風呂。




「ん-。だあー。」


こんな時間だと、誰もいない。

広いお風呂を独り占め。

泳いじゃおっかな。

…………。

……………………。

ん-。

泳ぎにくい。

水深浅すぎる。

あと別に楽しくない。

たぶん、『やっちゃいけないことだからやってみたい』が強いだけなんだろーな。


「あー、どうしよっかなー。」

「どうしてもっと先までできないのかなー。」

「キスの先。」

「……。…………。んっ。」

「んあぁ。……。んふっ。…………。あや、ちっ。……。そこ、もっと。んんっ。」

「んあっ!そこ、いい。」

「乳首も。ああ、そんな、摘まんじゃ、イタイ。」

「あぁ、爪でそんなっ。激しっ。」

「ヤダッ。ヤダァ。」

「ああんぅ、下も。……。中ばっかじゃなくて、外も……。ああぁん。」

「いいっ、いいっ。んくぅ。イク。イクッ。あ、ほんとにっ、イクッ!」

「あ、やめて、イッちゃう !イッちゃうから。やめてあやち!あ、あや。」

「っ!~~~っ。…………。…………。」

「……。うゎぁ。まじか。」


流石にひどいな。

…………。

でよ。

…………。

シャワーだけ浴びてこ。

…………。……。

…………。




あ、太陽が。

空が明るくなり始めた。

うわー。

今ちょうど眠くなってきたのに。

…………。

いいや。

寝よ。

おやすみ。


夜の海風があっという間にわたしの体を冷やしたのに。

シャワーの冷水では、火照ったわたしの心を冷ませなかった。

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