19-01 ザ・グレート・コミュニケーター #1

 戦車と融合した、悪鬼ゴブリンの巨人。


 崩れかけている近くのビルの、3階まである頭部に不気味なモノアイが赤く、光っている。パイプとチューブが剥き出しになった頸部は土管みたいに太く、装甲に覆われた全身はまるで、筋肉を機械に置き換え、関節を歯車とワイヤで編んだ悪夢のマッチョ。


 背中には排熱用か、それともカッコいいからつけているだけか、大教会のオルガンみたいに仰々しいパイプが突き出ている。しゅうしゅう、向こうの景色が揺らめくほどの蒸気が絶え間なく立ち上り、時折そこに、石油採掘所めいた炎が踊る。

 それぞれが大人ほどもある左右の腕でがっしりと、黒光りする巨大な鉄槌を構える。ぷしゅー、っと勢いよく蒸気を吹き出すパイプが突き出ていることから、武器自体に加速するギミックがあるのかもしれない。あるいはこっちも、単にかっこつけてるだけかもしれないけれど……


 ……自動販売機ほどある金属の塊を先端につけたハンマーが、身長4メートルの鋼鉄巨人によって振り下ろされたらどうなるか……なんて、将来は配信者になろうかな、って言ってる中学生が将来どうなるか、より確実にわかる、予測できる。




「我ら悪鬼ゴブリン




 モノアイがまたたき、声が響く。

 一音一音、けたたましい機械音が絡みつく声。




「我ら無限なり」




 けれど、それはどんな合成音声より、生き物らしく聞こえた。

 数百の悪鬼ゴブリン、その怨念が寄り集まったような声。

 被差別者が持つ諦観混じりの憎悪と、世界を裏から見てるヤツ特有の皮肉めいた口調の入り交じった、聞くだけで背筋が寒くなる声。

 それまで聞いたどんな悪鬼ゴブリンの声とも似ていない。




「我ら永遠なり」




 戦車悪鬼タンク・ゴブリンが、どんっ、と地面を踏みしめると、崩れかけた道路はがらがらと、壱番街のビルの屋上に落ちていく。


 直径1メートルほどに達した落とし穴を挟んで、僕は、それに対峙していた。




 その威容、声に呑まれて僕はただ、立ち尽くしていた。

 頭の中にあったのは、ヘッドライトに立ち尽くす道路の鹿。




「我ら兵なり。王の兵なり。駆動機関に王意を注ぎ、駆動鉄槌に王志を受け、立ち塞がる王敵をただひたすらに、滅する意思の機械なり」




 きゅんっ、と甲高い駆動音がすると、巨体にはまるで似合わない速度で鉄槌が振り上げられる。重厚長大な腕が振るう、建機みたいなハンマー、鉄槌は、距離なんか問題なく僕をぺしゃんこに潰すだろう。




「滅せよ」




 きゅんっ。

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