18-01 いつか僕らの自意識が
つまりこういうことだ。
じゃあそれを倒せば……?
そして2日後。
作戦は固まった。
「冷静に考えると、でも、戦車を倒せば参番街への道が開くってのも、希望的な観測じゃないか?」
僕は建物の中に隠れながら、通りの中央を見つつ呟く。
「現状、ボクたちは詰まっちゃってます。なんでもやってみるに超したことはないですよ。それに戦車を狩れるようになったらレベル上げ効率的にもいいじゃないですか、ドロップも良さそうだし」
僕の後ろで姿を消したままのリサさんが答える。彼女もきっと、通りの中央を見ているだろう。
そこには
「まあ、それもそうか……しかし……自分で言うのもなんだけど、あれ、サマになってるな……」
色葉のでたらめな演舞を見ながら呟いてしまう。
ひらめく姫袖。
空を切る
はためくスカート。
虚空を刈り取るハイキック。
風に舞うツインテール。
誰もいない繁華街の大通り、ど真ん中で舞う彼女の姿を、2分ぐらいのムービーに収めて適当なナレーションをつけたらそのまま、ゲームのトレーラーにできそうだ。たぶん、トップダウンシューター系のソウルライクなハクスラかローグライク(用語解説※1)……横のスライ・スライがいかにも、チュートリアルをやってくれる、シリアス一辺倒なストーリーを明るくするマスコットキャラ、みたいに見えて、なおさらトレーラーだった。
「……ふふふ、たしかに。あれならばっちり、目立ちますね。でも……あ、いえ、なんでも、ないです」
「…………なに? ヤバそう?」
「い、いえ、そういうことでは、ないん、ですが……」
昨日の晩、作戦を説明してくれていた時とは打って変わって歯切れの悪くなるリサさん。吃音気味の人にこういうのを問いただすのは良くないのかな……と思ったけど、なにかまずいことに気付いたのなら、共有しておきたい。
「なにか……見落としてた?」
「い、いえ! 作戦は、うまく行くと思います。でも……その……竜胆くん、色葉さんのこと……本当に、自分のことみたいに、言うんですね」
「…………ごめん、あの、言葉の意味が、よくわからない」
「あ、えーと……その、普通……自分で言うのもなんだけど、って、自分のことをちょっとおどけて自慢するときに、使いますよね」
「……ずっと一緒にいるとさ、そういうの、薄れてきちゃうんだよな……変かな?」
「あ、いえ! い、いいと、思います、はい」
「…………なあ、リサさん、誤解を招かないように言っておくけど」
「あ、いえ、あの、いーちゃんから、聞きました。あの日なにがあったかって……なにも、なかったんですよね」
「そう、そうなんだよ、なのにあいつ、あれからずーーーっとああだろ、もう、どうしたらいいやら……」
「あはは……今まではこういうとき、なかったんですか?」
「……まあ、あったけど……」
「そういうときは、どうしてました」
「………………まあ、その……いろいろ、贈り物を、した」
「……えーーーーーっ……! ど、どんなっ、どんな!?」
「いや、ものをあげるから機嫌を治せってのも、よくないと思うからさ、その、あいつが怒っている原因を、僕がちゃんとわかってて、これからはそうしないようにする、ってのが、伝わるものを」
「り、竜胆くん、って……そういうこと、苦手なのかなと思ってました」
「……なんていうか……ゲームばっかしてるから人間関係もゲーム風に捉えているヤバいオタク、って思われたくなさすぎて、逆にそこから一番離れた行動をとるようにしてしまう、って…………わかる?」
「………………わかり、すぎます」
「まあ……これこそ、プレゼントをあげると好感度があがると考えてるヤバいオタクなのかもしれないけど」
「あはは、そうかも、ですね」
……。
ああ。
いつか僕らの自意識が、南の島で長期バカンスをとれる日が来ますように。
「で……こ、今回は、ど、どんなのか、聞いてみて……も……?」
「ん、ああ、えーと、こ」
と、僕がそういったところで、なじみのある声が聞こえた。
「はっけーーーーーーーーーーーーーーん!」
脳天気な叫び声と共に、遠くから聞こえてくる、あの音。
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※用語解説
※1トップダウンシューター系のソウルライクなハクスラ、ローグライク
和訳:見下ろし型画面でシビアなアクションを要求される、ひたすらに敵を倒し、成長し、その過程で100万回死ぬゲーム。
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