12-02 君は探偵小説の読み過ぎだな
「……でもさ、さすがにあのうざい蚊としつこい鼠を、見たら逃げないで絶対倒すっていうのは……どうかと思うよ……」
宿で夕食中、僕がダンジョンについて思っていることを話すと、色葉はうんざりした顔で言った。
「いや、これは絶対だ。確信がある。うざい蚊、しつこい鼠、なんてモンスターに名前をつけるやつは、絶対に、絶対に、絶対に……」
メインで借りている部屋の中、外で買ってきた黒パンとシチューをぱくつきながら僕は言う。ちなみにこの黒パンとシチューは、もう本当に異世界、ザ・ナーロッパって見かけで、わあこれは実際は堅くて酸っぱくてあんまおいしくないやつだ! と思って興奮してみんなで買ったけど、味は普通においしくてちょっとがっかりした。全粒粉のパンみたい。
「絶対に、すごいうざい蚊、とてもしつこい鼠、なんてのを上の階層で出してくる。弐番街で対処の経験を積んでないとそこで困る、あるいはそれ以上は上に行けない、って仕組みになってるはずだ。このダンジョンを作ったヤツなら、絶対にそうする」
「竜胆はさぁ、深く考えすぎなんだよ……いつもいつも」
「いーや深く考えてるのはこのダンジョンを作ったやつらさ。深く考えないとこんな大きなモノ絶対作れないだろ?」
「そりゃまあ、たしかにそうだけど……」
「……ボクはちょっと、わかります、それ」
「でしょ? ならあの2種類だって絶対意味があるはずなんだよ配置されてるのは。このダンジョン
興奮のあまり早口になってしまったけれど、なんとか言い切る。
色葉も、リサさんも、あきれたことにスライ・スライまで、僕を見て、ちょっと顔を見合わせ、苦笑した。
「……なんだよ」
「すっっっっっごいキモオタっぽかった、今」
「そうさ、僕はダンジョンのキモオタさ。なんとでも呼べよ。でも僕は、今までの人生で街を歩いた時間よりゲームでダンジョンの中を歩いてた時間の方が長いんだ。関数とか歴史とか英単語とかなんかより、ダンジョンのことを考えて生きてるんだ。予想は絶対外さないからな」
「外れたらどーする? なんか賭けられる?」
「……その賭けはフェアじゃないよ、当たったらなにかしてくれるなら、僕もそれなりのものを賭けるさ」
「へーぇー……ほんとに?」
「…………誰がなにをするかによるぜ」
「オレにメロンソーダを奢れ!」
「……後で買ってきてあげるよ、買い物行く予定だったし」
「マジで!? お前いいやつだな! 感謝す……あ、オレも一緒に行く!」
「ああ、うん、行こう行こう」
「じゃ、もし竜胆の予想が当たってたら……ねえリサ、なんかリクエストない?」
「ふぇ!? ボ、ボクですか……? えと、なんでしょうね……えーと…………あ」
と、何かを思いついた顔のリサさんは、しかし、徐々に顔を赤くしてうつむいた。耳まで赤い。なんだ?
「あー、リサえっちなこと考えたでしょ、あーもー、やっぱり作家先生はむっつりなんだー、ひゃー、どすけべーせんせーだー、えろえろ文豪ー」
「な! わ、ちょ、ちがっ、違う、違います! そういう風に、からかわないでください……! ……あの、えーと、ですね……その、いーちゃん、ちょっとお耳を……」
と言うと色葉に耳打ちをして……
……今度はリサが赤くなった。
小声で、それなら絶対に、竜胆は……なんて言葉も聞こえた。
「……なに?」
「うん、うん、じゃ、じゃあ、もし竜胆が外れたら、そうしてもらう、ということで」
「いやだから、なんなんだよ内容は」
「えーと、いや、それは外れた時に言うから、うん」
「じゃ、僕が当てたらしてもらうことも、当てたら言うのでいいってことになるぞ」
「それは……」
と、色葉はリサさんと顔を見合わせ……
……なぜかぷーくすくすと吹き出し、頷いた。
「うん、それでいいよ」
「はい、私も」
……。
……。
……。
人間関係に疎い僕でも、これは、僕がナメられてるってことは、わかる。
「…………なあスライ・スライ、
「その手の薬なら腐るほどあるぞ、壱番街の
得意になって2人を見たけど、色葉もリサさんも少し照れくさそうに笑うだけ。
……まあ、ナめられてるからって強がっても、あまりろくなことにはならない。
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