13 キッズ・ビー・アンビシャス
「竜ど……嘘でしょ、寝落ちしてる……」
「……八神くん……」
「……ねえねえリサ、その、八神くんって、なんで? 竜胆って呼んでたよね?」
「ふぇっ!? え、いや、その、なんで、ということは、別に……」
「………………あのね、私と竜胆、別に付き合ってないよ」
「それは……そう、でしょうけど……でも、ボクが八神くんと親しくしたら、いーちゃんは……いやじゃ、ないですか?」
「ぜーんぜん。っていうか竜胆、マジで本当に友達ゼロだから、仲良くしてあげてもらえると、私も嬉しい」
「あっ……」
「…………なにその『あ』」
「この人もう保護者目線だな、の、あ、です」
「……手のかかるお子さんですよ、ほんとに」
「あはは、いーちゃんは、自分の気持ちに気付いてない……いえ、認められない……でしょうか?」
「なっ……! もーーーー! やめてよ、リサまでそういうこと言うの! 学校で、なんであんな陰キャと
「ボク、こんなにお似合いな2人、見たことないですよ。本当に、それぞれがそれぞれに、ぴったり合わせるために、特別に作ったみたい……ふふ、貝殻ですね」
「かっ……っっ! 作家先生のロマンチック回路を近くの人に発動させないでもらえますか! そういうのは作品の中だけにしてください!」
「あっ! そういうこと……じゃ、八神くんが起きたら、いーちゃんは本当はずっと八神くんのことを」
「こっ、こらっ! そういうことしないのっ!」
「ふふふ、いーちゃんかわいい……そんなことしませんから、安心してください」
「も~……でもさ、でもさ、正直……リサ、竜胆のこと……いいな、って思って、るよね? いやその…………恋愛的な好きとか嫌いとか、抜きにしても?」
「……八神くんは、誰からそういうことを言われても絶対信じないだろうな、とは、思ってます…………ひょっとしたらいーちゃんが、真っ正面から言っても」
「………………大正解……あ、私がそういうこと、言ったわけじゃないよ?」
「なにか、あったんですか? ……その、昔……」
「それがぜーーーーんぜん。竜胆のお父さんとお母さんは職業が職業だけど、すっごいちゃんとした方たち……とも言えないけど少なくとも、殴ってたり罵声を浴びせてたりしたわけじゃないしね」
「……でも、育児放棄は歴とした虐待ですよ」
「そうかもだけどさー……世の中の親全員が、こんな状況でも子供のことを第一に考える人たちだ、って考えは偏見なんじゃない? それに私たちもう高1だし、大概のことは1人でできなきゃだめじゃん」
「それは、そうかも、ですけど……」
「それにあいつ、いなくなるたびに大喜びしてたしね。生活費切り詰めてゲーム買えるから。でも……まぁ……竜胆のことはたぶん、竜胆にもわかってないから、私たちがあれこれ考えてもしょうがないよ。っていうかリサが八神くんって呼び方に変えてたのも、気付いてるかどうか怪しいよ、昨日のこいつと来たらさ……」
「…………やっぱり?」
「私も大概なんだけど、でも…………なんていうのかなぁ……私はその、人と対戦するゲームが好きなのね。なんでかっていうとやっぱり、人がいるから。人の感情が剥き出しになって、それを見て、コントロールできると最高におもしろいから。だから1人用のゲームはあんまなんだ。延々自分と向き合わなきゃいけないじゃん。罰ゲームだよそんなの。でも竜胆は逆で、人とやるゲームが嫌いなんだよ。他人がいるとゲームが濁る、とか言って。蕎麦好きおじさんかよ!」
「……あ、ああ~…………言いそう……」
「このバカは、本当に、つま先からつむじまで、ゲームに狂っちゃってんの……人に興味がないとか、そういうことじゃないと思うんだけど……でもこういう世の中になっちゃったら、今のこいつは攻略しか頭にないよ、100億パーセント」
「………………説得力が、すごい……」
「……こっちがやれやれって言いたいよ……ほら、起きろ、竜胆!」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「魔法!」
夢の中でまで僕を悩ませていた言葉が追っかけてきて、思わず叫んでしまった。
「…………魔法?」
顔を上げてあたりを見回すと、あきれた顔の色葉とリサさん。
「………………夢か……」
まさか自分が本当に言うことになるとは思ってもいなかった台詞を言うと面白くて、少し笑ってしまう。
「も~、一晩中やってたの? PCまで立ち上げて?」
「……あ、ああ、だけど、決まったよ、ばっちりだ」
「魔法って……悩んでたの? 私たちには手に負えない、って話だったじゃん」
僕は大きくのびをしながら答える。
「ああ、けど、魔法を使ってくる敵を相手にして、やってかなきゃならない。なら少なくとも僕たちには、魔法を打ち破る手段がいる」
そうなのだ。
モンスターたちは魔力を元に構成されている生き物。魔力の扱いには生まれつき長けている。当然彼らの中には、魔力を攻撃や防御に変換するスキルを持っている者がいる。ゴブリンの中には少ないらしいけど……。
しかし、地球にはそもそも魔力がない。だから地球に来たモンスターたちも魔法を使えなくなり、すぐに消滅してしまうはず……そしてそれをクリアするためのアイテムがコア、ミニコア、ということらしい。
無限に近い魔力を秘めたコアから吹き出す魔力は、繚夜に満ち、その内部をモンスターの生存に適した空間に変化させる。
2つ3つのなろうで見た設定を組み合わせたやつだな、と思ったけど、まあ、ジョブみたいにわけのわからない複雑なものよりはマシだ。
要するに、この地球上じゃ、繚夜以外の場所で魔法は使えない。
けど、僕たちが戦っていくなら、繚夜を目指さなければならない。
なのに魔法スキルと来たら、今日初めて、
けど僕は諦めきれなかった。
スキルがとれて、魔法があるのに、使うのを諦めるなろう好きはいないだろう。
「……うん、たしかに。でも、じゃあ……魔道具製作とかのジョブ?」
「いや、それ系もおそらく、前提条件がさらにキツくなる。魔法のスキルにあわせて、制作系のいくつか……最低でも6つか7つ必要になるはず。SPがいくつありゃいいのか見当もつかないし、おまけに、コアからの魔力が満ちてる繚夜の中でしか使えない、場所限定スキルにSPを使うってのは、やっぱ、ねえ……繚夜じゃない場所、常昼での対人戦を考えると効率が悪い」
「じゃやっぱり、魔法系は諦めるしかないじゃん。どんなやつだって死ぬまで殴れば死ぬんだから、それでいいと思うけど」
「脳筋過ぎるだろ君は……」
「でも、真理でしょ。そりゃ作戦は考えるよ? 考えるけど、こういうのは絶対に否定できない。死ぬまで殴って死なない生き物なんて、いるわけないんだし」
「だから昨日も言ったけど、物理無効の相手がいたらヤバいだろ」
「それこそゲームじゃないんだからいないって! スケルトンとかゴーストとかがいるにしたって、大抵ちょっとは物理が通るようになってるじゃん!」
「あのデカブツはほぼ物理無効だったじゃないかよ!」
「あれはたぶん現代兵器無効ってことでしょ!?」
「それができるなら物理無効だってできるだろ! 推測が楽観的すぎる!」
と、昨日はこんな感じの議論をしてたからいつまでたってもジョブが決まらなかった、というのも、ある。
「ま……まあ、まあ、2人とも……それで、竜胆くん、結局どうしたんですか? いい案は浮かびました?」
リサさんが間に入ってくれて我に返る。
僕は、見つけたのだ、抜け道を。
「あ、ああ……うん、見てくれ」
※※※※※※
〈職業〉
〈職業技能〉
・
パーティメンバーにも付与可能。練度により範囲拡大。
〈職業特性〉
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「…………人、を、直接強化できるってこと?」
色葉が顔をしかめながら言う。
「ああ。
「でも……それだけじゃ物理無効の敵には……あ、そうか、たしか抽出できるのは、そもそもは、地水火風の4属性……」
「テストはしてないけど絶対、通るはずだ。それに万一できなくても……」
僕は
「…………ちょっと、待って、魔石って、魔の、石だから……」
「ユニークにSPを入れて成長させなきゃ無理だったけど……この通り」
手のひらに乗せていた魔石に、
ユニークスキルは練度10になると、新たなスキル名となってまた練度1からあげられるようになるらしい。単純に消費SPが少なくなって非常にありがたい。
さて、魔石の中の魔力は見事、エレメントのストック中に。
地水火風だけだった所持エレメントの欄に、しっかり【魔】の項目ができてる。
「抽出した魔力を、君の
そのための
この2つのスキルと、僕のユニークスキルが合わされば……!
それを支えるための
「…………ふーーーーん、あんたらしくて、いいね」
「……それだけ?」
「だから私はこういうの、燃えないんだってば……大切なのはビルドより、そのビルドでどういうプレイをするか、でしょ」
「なんだよ、人がせっかくパーティの今後を考えて頭をひねったのに」
「だって私まだ、物理無効の相手がいるなんて信じてないもん」
「絶対出るって! 出てくるに決まってる!」
「そういう敵が出てくるのはね、竜胆が喜ぶゲームでだけ! 普通に考えたら通常攻撃きかない、プレイヤーの腕じゃどうしようもない敵なんてストレスでしかないもん! 出てくるわけないでしょ!?」
「そこをなんとかするのもプレイヤーの腕だろ!」
「それは腕じゃなくて知識!」
「これがそういうゲームじゃないって保証は」
「はいはい、や…………竜胆くん、まだ眠いんじゃないですか? 朝食、ボク用意しますから、食べたらちょっと、寝た方がいいですよ、健康第一です」
と、またリサさんが割って入ってくれて助かった。
僕は実際、物理無効の敵が出てきたときに、色葉にどんなどや顔をしてやるかを頭の中で練りつつも……やはり、あくびが出てしまう。昨日は結局机の上で2時間ぐらいしか寝ていない。
「あー……ご、ごめんね、リサさん、そうさせてもらうっていうか……あ、お腹すいてないから、ご飯はいいよ、ベッドで寝てく」
「ダメです。お腹がすいてなかろうが、3食ちゃんと食べてください。攻略も健康じゃなかったらできません。物理無効の敵だって、食べられなかったら死にます」
と、珍しく強い口調で言われ、にらまれた。
「あ、は、はい」
「よろしい。座っててください。作ってきますから」
「え、あ、わ、悪いよ、そんな、僕も作るから」
「いいです、全部インスタントとか缶詰とかですし。一晩中やってたんなら、ますます休まなきゃダメです。座ってください。体調管理がポストアポカリプスで一番大切なことだって、この間読んだヤツに書いてありましたよ」
有無を言わせない口調で言われ、おずおず、ソファの後ろ、ダイニングテーブルに腰掛ける。にやにや笑いながら色葉が見ているのが、なんとも居心地が悪かったけれど……しばらくするとご飯に味噌汁、それからサバ缶にミカン缶という朝食が出てきたので、リサさんが将来的にものすごくいい目に合いますように、と祈りながら僕はがつがつと食べた。
食べている最中、色葉とリサさんがなにか、目線を交わしていたような気がするけれど……どーせ僕に対して2人であきれてるに決まってる。なるべく早めに、けど、せっかく作ったモノをがっついてると思われないように味わい(いや、インスタントだけど)、ごちそうさまを言って、食器類を洗、おうとするとリサさんにまた、早く寝ろと怒られたので、仕方なく寝室にいってベッドに倒れ込んだ。
今度は夢の中で、魔法に追いかけられることはなかった。
代わりに物理無効の敵が空から降ってきて、色葉にどや顔しようと思ったらなぜか、彼女は地面から
〈第二章 『燎夜新宿』 了〉
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