08 ローグライクですべての敵を倒すのは素人にござる

 ゴブリンの死体が詰まった4WDを放って先に進もうとした僕を、色葉が止めた。曰く「アイテムボックスをあさってないでしょーが!」とのこと。FPSは少年少女を暴力的にして犯罪を誘発するって偏見に、今は少しだけ頷きたい。


 使える銃と銃弾を手に入れると、リサさんのボックスまでパンパンになって、魔石は僕がまとめて管理することに。ほくほく顔の色葉を乗せ、車を再スタートさせる。敵地のど真ん中で止まっているわけにはいかない。今は近場に姿は見えないけれど、いつまた囲まれることやらわかったものじゃない。


 しかし、かなりの巡航速度で、燎夜の中、距離感覚の狂った甲州街道を数分も走らない内、僕は急ブレーキを踏んでしまった。やかましいスキール音と共に、クソダサファミリー向けワンボックスカーが止まる。


 これがあったら終わりだな、と思っていた事態がそのまま、1キロ先にある。




「…………詰んだ」




 僕は呟いてしまう。他のみんなも事態には気付いたようだ。

 くそ、こんな言葉、死んだって言いたくないのに。


 ……なにが嫌いかというと、配信者がゲームプレイ中にこの言葉を言うのが一番嫌いだ。配信者でなくても嫌いだ。

 ゲームが詰んだって言うのは、このレストランの食べ物は腐ってる、って言うのと同じだ。軽々しく口にしていいものじゃない。もちろん配信中なら、自分をバカっぽく見せる冗談として言うんだろう。配信中じゃないにしても、不親切なゲームに対する軽い悪態で、そこまで重い気持ちで言っている人は少ないだろう。

 でも悪ふざけにしても、炊きたてご飯を食いもんじゃねえって言われてタンを吐かれるフリをされたら、許せる日本人はどれぐらいいる?

 そういうわけで僕は、この言葉を軽々しく言うヤツが大嫌いだ。




「詰んでるぞ……」




 それでも、また呟いてしまった。




 1キロほど前方に見えるのは、車を積み重ねて作ったバリケード。


 8車線、歩道にいたるまで、すべてが塞がれている。


 その上には無数のゴブリン。


 手に手に、暴力って言葉をそのまま具現化したような武器の数々。

 鉄条網を巻いた角材。

 釘バット。

 血錆のしみついたレンチ。

 そして数は少ないけれど、銃。

 車3台が積み重なるバリケードの向こうから、巨大な頭を覗かせている特大サイズのゴブリンもいる。遠視スキル持ちのリサさんが、無言でスキルを使った望遠の結果を共有してくれて、僕たちは唾を飲んだ。平均レベルは30ってところだろうか。特大サイズのやつは〈Lv.46 大悪鬼建設工ヒュージ・ゴブリン・コンストラクター〉。




「……まだ、まだ間に合う、竜胆、方向転換して」


 色葉が呟くと、しかし、背後から絶望の音。


 どしゃん……どしゃん………どしゃん…………どしゃん……………


 バックミラーに小さく映る、巨大ゴブリンロボ、悪鬼集合住宅ゴブリン・アパート。前方の同族たちに安心したのか、速度を緩めているのが音でわかる。




 僕でも、わかる。

 追い込まれた。




 ゲーマーとしての僕は、お、そうか、ここら辺でムービーか、もしくはイベント戦闘か、とのんきに思っている。イベント戦オンリーのでかい特殊武器が使えると嬉しいな、なんてことまで。

 現実を生きるヒョロガリオタクの僕は素直に、なるほど、人間ってあっさり死ぬんだなぁ、と思っている。でも人は死ぬって単なる事実を、自分だけが知ってる世界の真理みたいにひけらかすのってただただダサいよな、なんてことまで。

 両方の僕を眺めながら、僕は、限界まで脳みそを回転させる。

 考えろ。

 考えろ。

 死にたくなきゃ。


「……スライ・スライ、抜け道があったり……しない?」


 バックミラーの彼は珍しく神妙な顔で、なにも言わずに首を横に振った。


 燎夜に飲み込まれた甲州街道はどういう理屈なのか、車の通れるような脇道がほとんどなかった。6車線以上あるような大きな幹線道路ならだいぶそのまま残っていたんだけど……


 ……そこら中で発狂したエッシャーがデザインしたような建物、街路樹、街灯、配電盤なんかが、みっちみちに膨らんでいる。それらに塞がれて、目立った名前のない2車線、4車線の道路は塞がってるし、6車線のところもほぼすべて、車1台か2台通るのがやっと、みたいな幅。どう考えても、時速50km以上で飛ばせる道じゃない。この8車線の幹線道路だけはたぶん、特別に開けてあるだけなんだ。あるいはわずかに残された車両1台か2台幅の道路に可能性を託して突っ切り、別の大通りに出るのに賭けてもいいけれど……

 ……さっきから車のナビはなぜか、僕たちは東京湾を時速2キロで走っている、みたいな表示しかしない。スマホやタブレットにいたってはロック解除すると真っ黒の中、ただ “圏内” なんてふざけた表示が出て、電源オフ以外の操作を受け付けない。




「よぉーーーーーーーーーーこそ! 人間ども!」




 声が響いた。


 バリケードから1台のバイクが、ドコドコ、ドロロロ……重低音を響かせながら進み出て、ゆっくり向かってくる。ゴブリンにしては大柄で、アメリカンなチョッパーバイクをしっかりと乗りこなしている。服装もそれっぽく、黒い革ジャン革パンにゴーグル。まるで黙示録の四騎士を現代風にアップデートしたみたいな感じ。そして荷台にもう1匹。こちらは平均的なゴブリンだけど……どうしてか、赤いチョッキを着てる。


「もう諦めた方がいいぜぇーーーーーーー!」

「ソーダ、ソーダ!」


 バイクの重低音に負けない声のでかさ。


「……お、おお、おおおおおお!」


 スライ・スライが突然叫び、窓から首を突き出した。


「ピット! てんめぇーー! まぁぁぁぁだ死んでなかったかぁぁ!」

「……スライ!? てめえ、王の命令で死んだんじゃなかったのかよ!! オイラに殺されるために生きといてくれたってわけか!?」

「はっ! 命令だぁ!? 貴様それでもゴブリンかぁ!? ゴブリンの主はゴブリン! 王などというわけのわからんものに動かされるなど、ゴブリンの恥さらしめ! 舌噛んで死ね!」

「おかげさまでオイラはこの有様さ、おちびちゃん! 日本語もぺらぺらだ」


 僕たちの数十メートル先でバイクを止めるゴブリン。

 荷台のゴブリンが器用に肩に飛び乗る。


〈Lv.67 悪鬼騎乗手ゴブリン・ライダー ピット・ピット・プグザ〉

〈Lv.35 悪鬼猿ゴブリン・モンキー


「テメェはどうせまだレベル10か20、そこらだろ? 王はもともと、テメエを厄介払いしたいから最初のミニコア隊にしたのさ。ユニークのくせに、一番よええからな! 嗤いたいなら強くなるしかねえんだ。まだわかんねえか」


 言葉に詰まったスライ・スライは一度、車の中に顔を引っ込めた。


「……八神やがみ一丸いちまる鉄方くろがねがた。時間を稼ぐ。なにか作戦を考えろ」

「し、知り合い?」

「弟」


 それだけ言うと窓から飛び出て、ひらり、車のルーフに飛び乗った。


「お前はお母さんの膝にいたころからそうだよなー、いつまでも#$%&#ー、%&#--、%$&ーー!!! プッ、ぷぷぷぷっ、うぷぷーーーー! それで今#$%$&$? 革ジャン!? デカいバイク!? ギャギャギャギャ! #%$、日本語で言うとー、ばか丸出し! $%&$&%#&#&%!」

「なっ……#$%#、#$%&$&$!!」

「%&ッ!」

「#$%ー、#$ー、$%&ーー、ピットのちんちん、みにみにちんちーーーん! #$#$! レベルを上げても、ちんちんはでっかくならないぞー!」

「#$%$%!!!!!!」


 激しいゴブリン語でのやりとりが続く中、色葉は大きくため息をついた。


「……3つ、だね」


 冷静に、続ける。


「1つ、Uターンしてあのデカブツの股下をくぐり抜ける。でもこれはあいつが寝そべったら・・・・・・・・・・一巻の終わり。けど、うまく行ったら燎夜からは抜けられる。私たち、中でもなんとかなると思ってたけど……甘かった。ここはたぶん、レベル10や20じゃそもそも近づいちゃいけないエリアだ」


 彼女の言葉で、現実が染み入ってくる。

 レベルとスキルに浮かれ、なんとかなるなる楽勝ーっしょ、なんて思っていた僕らに、どうしようもない現実が染みこんできて、死、というどうしようもないことを実感させる。スライ・スライとピットの激しいやりとりも、今は遠くに聞こえてしまう。


「2つ、このまま直進、力任せに突っ込んでバリケードをこじ開けられるのをお祈りする。あれ、単に車を積み上げてるだけでしょ? 思いっきり突っ込めばぶっ飛ばせるかもしれない。9割方そのまま擱座かくざしてたこ殴りにされて終わりだと思うけど。でも、ひょっとしたら通り抜けられるかもしれない……けど、これは問題の先延ばし。ここのゴブリン全員に追いかけられながら、今度は出口の方……逆側のバリケードにぶつかるだけだろうね」


 ふう、と大きく色葉が息をつく。


「最後……Uターンしてから脇道に逃げて行けるところまで行って、別の大通りを目指す……誰か、新宿の道に詳しい人、いる? スマホが生きてる人でもいい」


 沈黙。


 くそ……。


「……となると、こっちでも最悪、立ち往生になって、車を捨てなきゃならない可能性が強い。でも……一番マシかも。そうなったらリサは私がカバーする。ライフルはマガジン3本ぐらいあったし、なんとかなるよ。ショットガンは持っててね」

「そ、そんな……ボ、ボクも戦えるスキル、とります!」

「……なまじっか戦える確信があるより、捕まったら死ぬ、って勢いで逃げないと、無理だと思う。いまだに素の銃関連スキル、とりかたわかんないし。それに連中の数、見たでしょ。あれ、1,000人はいる……倒すために撃ってたら絶対死ぬ」




 くそ、くそ、くそ!




 僕のミスだ。




 僕が調子こいてかっ飛ばしていたせいで。

 それを今、みんなが一丸となって、フォローしてくれている。




 ……。




 ……。




 ……。




 ああ、くそ、くそ、くそくそくそくそくそ!




 ばん、と大きくグローブボックスを叩きそうになって、その音をスライ・スライがなにかの合図と勘違いするかもと思って寸止めして、僕は大きく息を吐いた。




 まだ、まだなにかあるはずだ。

 僕にまだ、なにかできることが。




 でたらめにウィンドウを開いて、でたらめにあちこちをタップ。

 けどステータス画面やスキル説明なんかを見ても、なにも思いつかない。無機質な、どこかふざけた感じのするフォントはまるで僕をおちょくってるみたいに感じられて、むかつくだけだった。ため息をついてメインメニューに戻して……。




 そこで気付いた。




 試しに、タップしてみる。




 ………………予想、通り。

 というと、嘘になるけど……想定、内だ。

 ……まあ、すっかり、忘れていたことは、たしかだけど。

 っていうか、そうだ、じゃあゴブリンたちは、どこから銃を持ってきたんだ、って話だ。あいつのバイクは? スライ・スライの服とかは?


 宙を見ながら手をふらふらさせている僕を見て、色葉が不審そうな顔をする。


「……竜胆? どうかした……?」

「色葉……その……アレだ……」

「もう、無理しなくていいよ。今はどうやってミスを挽回するかじゃなくて、みんなでこの状況を切り抜けることを考えるの!」

「そ、そうですよ、八神、さん。ボクも、足を引っ張らないよう」

「違う!」


 目当てのものを見つけて、僕は叫んでしまう。ヒートアップしているゴブリン語のやりとりを聞く限り、ピットには聞こえないだろうけど、なるべく小声で。






「色葉! グレネードランチャーとロケットランチャーはどっちが強い!?」






 はぁ? という顔をしていた色葉だけど、やがて目を見開いて叫んだ。同時にリサさんも気付いたようで、2人の声が重なる。






「「ショップ!!!!」」






 どしぃん。


 そして僕たちの後方、数十メートルの位置に、あのデカブツが止まった。




 スキルをイジるのに夢中になって、すっかり忘れていたメニューの1つ。

 ショップ。

 僕としたことが、スキルに気をとられすぎてた。






 アイテムは【打開】のためにあるんだ!






 ショップメニューには、交易銀行バンクのスキルを使うと魔石をRMTリムトという通貨に交換できる、と書いてあって……ショップからは100を超すアイテムをRMTリムトで買えるようだった。通貨の名前に色々突っ込みたいところだけど、今はそれどころじゃない。


「型番、アルファベット、なんて書いてある!? ATMはないの!?」

「わ、わかんない、書いてないんだよ! グレネードランチャー、ロケットランチャーとしか!」

「じゃあロケットランチャー! 買えるだけ買って!」

「2発ですっからかん!」

「十分!! 出したら私とリサに渡して!!」

「え、え、ボ、ボク!? むむ、無理ですよぉぉ!」

「役割分担! 私とリサで同時に撃ったら、車に飛び乗って、竜胆は最高速でUターン! デカブツをやり過ごして、出られる道から燎夜を離脱する!」

「了解……ってうわッッ」


 どさり、どさり、購入と同時に、僕の腿の上に振ってくるロケットランチャー2本。よく戦争映画でテロリストが米軍の装甲車とか、ヘリとかに撃ってるやつだ、って認識しかなかったけれど……。


「いだぁっ! ちょ、色葉、これ、これとって、おもっ、くそおもっ」

「……っっ!!!!」


 色葉にしてみたら、ゲームでしか使ったことのない伝説の聖剣が目の前にあらわれたようなものなんだろう。目をキラキラさせながら、慎重に、聖体を捧げ持つようにロケットランチャーを抱え、リサさんに1本、渡す。


「しっかり持って」

「わ、わ、わわわ」

「落としても爆発しないから、大丈夫!」

「ど、どうやって撃つんですか、これ」

「型番もなにもない、文字がどこにもない、ってことは9割方おファンタジー設定な上で、商標権に配慮した概念ランチャー……とはいえフォルムはRPG-7。なら全然大丈夫、小学生でも撃てる。でも一応後方爆風バック・ブラストだけ気をつけよう」

「ど、どういう……?」

「肩に担いで引き金引いたら、後ろにガスが人殺しできる勢いで出て、狙った先に飛んでって、当たると爆発。戦車でも当たり所が良かったらやれる。竜胆」

「タゲはデカブツ、だな?」(用語解説※1)

「もち。リサ、合図で外に出る。竜胆はスライ・スライに、やっちまうから車に戻れ、みたいなこと言って。私とリサは外に出たら、正面のバイクのヤツを狙っているフリ。そしたら逃げるでしょ」

「に、逃げなかったら?」

「ライフルもあるから大丈夫。で、あいつが逃げたら回れ右。デカブツ狙い、私は足、リサは胴体に発射。あれだけ大きかったら絶対外れないから安心して。撃ち終わったら投げ捨てて、車に飛び乗る。竜胆はUターンで全力ダッシュ。オーケー!?」

「了解!」


 僕は頷き、呼吸を整える。2人が飛び出たら、スライ・スライを車の中にしまう。問題は正面のピットが突っ込んでくるかどうか。残ってるバッテリー爆弾で牽制することも考えたけど、余計に怒らせて突っ込んできそうだからやめておく。


「カウントゼロで行くよ。リサ……あ、ドアに体を預けてランチャー乗せちゃってもいいかも」


 ぷるぷると震えながらも頷き、なんとかATMを持つリサさん。小さな体にはまるで似合わないけれど、彼女の顔は決意に満ちあふれている。


「いい……いくよ……3」




「#%#&!」「#$#$#!」「ばーかばーか、%&%ちんちん$%&ちんちーん」「#$#%&#!!!!」「あ~、ゴブリン語わかんなくなっちった~」




「2」




「う~んこ、うんこ、あ、ピット君の低俗なスキル扱いじゃ理解できないだろうけど、ゴブリン語の$%ね、つまり君が%&%で%&%%だと、お兄ちゃんは言ってるんだよ、わかったかな」

「……$%$%%$」

「$%$!」




「1」




「$&%%&!」

「#$#$#!」

「ゼロ!」






 バン、とドアが開く。






「スライ・スライ! き殺すから車に戻れ!」






 だが計算外が1つ。






「おっほーーーーー! 待ってました! このまま行こうぜ! オレは弟がき殺されるところを間近で見たい! ちょー嗤えるぜ!」


 バンバン、と車のルーフを叩くスライ・スライ。




 ……。




 ……。




 ……。




 そうだこいつバカだった。




 が、2人の少女がロケットランチャーを構えて車から飛び出したのを見ると、兄ほどバカではないのか、ピットは慌ててバイクに飛び乗り、バリケードのところに戻ろうとした。スライ・スライの言葉も効いたのだろう。


 そして計画通り、2人は回れ右。

 僕はハンドルを固く握りしめる。






「You are so dead!!」(用語解説※2)

「わぁぁぁ!」






 発射。






 着弾音を待たず、きゅるるるるる、とアクセルをスタート。2人が乗り込み、ドアの閉まるばたん、という音と同時にギアを変えてハンドルを回す。


「スライ・スライ! いいから車の中に戻ってくれ!」


 叫ぶとようやく、残念そうな顔をして戻ってくる。

 同時に僕はブレーキを開け、急旋回。




 さらに同時に。




 凄まじい爆発音が2発。


 皮膚を貫いて内臓をシェイクするような轟音と衝撃。車の窓という窓に亀裂が走る。誰かの悲鳴、ひょっとしたら僕の悲鳴かもしれないけれど、それが混ざって、車の中はとんでもない混乱状態。けどスキル万歳、プロレベルのドライビングスキルで冷静に車を急旋回させ、ぎゃりぎゃりぎゃりっっ、タイヤを叫ばせ加速。




 そして誤算が、もう一つ。




 リサさんのロケットランチャーは、はたき落とされていた。




 悪鬼集合住宅ゴブリン・アパートが自分の胸に向かってきたロケットを、まるでハエ叩きでもするみたいに、ばしん、と。衝突と同時に爆発するはずのそれは、彼の体を包んでいるなんらかの超常的な力(よくよく考えればアパートに手足が生えているだけのものだから、そもそも、なんかそれ的な力で動いているんだろう)に包まれている手とぶつかったときには爆発せず、地面に落とされてはじめて、そこで爆発した。

 色葉のロケットランチャーは、膝に命中していたものの……


 ……かきん、の音と共に地面に落ちて、やっぱりそこで爆発した。


 そして運悪く、悪鬼集合住宅は爆発に足をとられ、どしゃんっっ、と膝をついた。




 そこで、限界だったらしい。




 ぼぐんっっ……みたいな不吉な音と共に、アスファルトに亀裂が入った次の瞬間。


 道路が崩落をはじめ、悪鬼集合住宅と僕らの車は、もみくちゃになりながら奈落に飲み込まれていった。










※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

※用語解説

※1 タゲ

ターゲット、の略。元々はMMORPGなどで、モンスターからプレイヤーが標的にされることを、タゲを取る、タゲをもらう、タゲられる、などと表現していたが、やがてそれが一般的な語彙の中にも混ざっていった。相手のターゲットから意図的に外れる行動をとることを、タゲを剥がす、とも表現する。



※2 You are so dead!!

直訳すれば「あなたはとても死んだ!」。だが、英語口語表現においては意味としてI am going to kill you→私はあなたを殺します、転じて、日本語表現になおすと「テメエ、死んだぞ(こんなことをしでかしたので、将来的に確実に。または、自分が本気を出しているので、等々)」といったニュアンスになる。ただし色葉はこれを知らず、FPSの好きなキャラが必殺技を発動する際に言う台詞をマネしているだけ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る