第5話 秋から冬へ

秋から冬へ、季節は変わり、

最後の席替えがおこなわれ、ボクは一番前になった。


正直、ホッとした。

ここならもう、青山さんの顔は見えない。 ただ、江南さんが隣になった。


みんなとの会話はなくなった。一番の理由は、ボクの方にあった。

志望校の変更と失恋。気持ちが萎えるには十分だ。

楽しそうにしている仲間に、愛想笑いすらできなくなったボクは、自分から距離を置いていた。


それでもリュウだけはボクと一緒にいてくれた。

コイツとは中学で知り合ったのだが、何かと気が合う親友なのだ。

何にも言わないし、言ってもこない。

それでも何かを悟ってくれている。

リュウとはそんな関係だ。


そのリュウが本を一冊くれた。

ボクの好きなSFだ。


そうして、休み時間に本を読んでいるボクに、「何を読んでるの?」

そう江南さんが声をかけてきた。

あまりにも自然だったので、彼女と普通に話している事に、ボクは気づいていなかった。

しかも、何でも気軽に話していた。


不思議だった。

江南さんとは確かに三年間同じクラスだったけど、こんなに沢山話をする事は今まで一度も無かったからだ。


それからのボクはまた毎日を、ほんの少しだが楽しく過ごせるようになっていた。


そんなある日、江南さんから、また呼び出された。

何だろう?

理由はやっぱり思いつかない。


以前と同じ、書庫へ行った。


そこには例によって江南さんが待っていた。

ただ、うつむいていて顔がよく見えなかった。


ぽつり。そんな感じで江南さんは話し始めた。


「前から言おうと思ってたんだけど…実はね、聞いちゃったの。文化祭で矢尾君が告白してるの…。

ごめんなさい。立ち聞きするつもりじゃなかったの。ただ、私の呼び出しが原因だったなら謝らないと…って、

えっ!」


   ボクは、泣いていた。

     

あの時、泣かなかったのに…。


他人の口から「失恋」の事実を改めて突きつけられたからだろうか。


涙はとまらなかった。

江南さんの言葉も耳に届いていなかった…。

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