ハッピーバースデー

山広 悠

第1話

今日はオレの15歳の誕生日。


コロナで外食がしづらいこともあり、今年は家でお祝いをすることに。


母ちゃんがなんでも好きなものを作ってくれる、って言うから、

「唐揚げ! 山盛り!」ってリクエストした。


半分冗談だったのに、鶏肉がめっちゃ安かったとかで、本当に山盛りの唐揚げが出てきた。


まさに今、その唐揚げと格闘しているところ。


「唐揚げと焼き肉は戦いである」

とは、うちの裏家訓だ。


いくら誕生日でも少しでも隙を見せると弟の慎二(しんじ)が奪いに来る。


オレはフードファイターよろしく、ガードしながらガツガツと食べ進めた。


そんな中、空気の読めない母ちゃんが、急に

「将来何になりたいか」なんて聞いてきた。


今それどころじゃないよ。見ればわかるだろ。

って言いたいところだが、母ちゃんは怒らすと一番怖い。

オレは適当に「警察官」って言っといた。


「警察っていえば、あんた小さい頃犬のお巡りさんの歌が大好きだったねぇ」

なんて、遠い目をしながら言っている。

「今でも好きなの?」

って、またしても聞いてくるから

「はいはい。今でも好きですよ。なんなら犬になりたいくらい」

とオレは唐揚げを頬張りながら答えた。


と、その時。

げんこつ大の唐揚げが喉に詰まってしまった。

んぐっ。く、苦しい……‼


目を白黒させているオレをよそに、

父ちゃんは酔っぱらって歌をうたい、

慎二は俺の箸が止まっていることをいいことに唐揚げに襲いかかり、

母ちゃんは相変わらず遠い目をしていた。


そのまま誰にも気付いてもらえずに、オレは意識を失った。




目が覚めると牢屋の中にいた。


ここはどこだ?

いや、よく見ると牢屋じゃない。

ゲージだ!


毛むくじゃらの体。尖った耳。長い尻尾。

えっ。オレは犬になってる⁉

それにしてもやけに体の節々が痛い。

それになんだか無性に喉が渇く。

オレはのそのそ起き上がると、水入れに向かった。


「コテツ! よかった。元気になったのね」

起き上がった犬のオレに気付いたお姉さんが、オレを抱きしめた。

20歳くらいの綺麗な人だ。


おかしい。

いつものオレならめちゃめちゃ嬉しいはずが、ウザいとしか感じられない。

「やっぱり疲れているみたいね。コテツは今日で15歳だもんね」

えっ。15歳の誕生日? 偶然にもほどがある。

「犬の15歳っていったら、人間だと88歳くらいだもんね。無理はしないでね」


神様。

いくら15歳つながりっていっても、これはひどいよ。

生まれ変わるならせめて若い犬にしてよ。



ショックからか、寿命からか。

またしても意識が遠のいていった。


                                  【了】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハッピーバースデー 山広 悠 @hashiruhito96

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ