侍と遊女 恋愛火山の頂上で斬り合う ~本物の愛とは?~

満月そーめん

侍と遊女は、本物の愛を手に入れるため、斬り合う

 今の時代に、本物の愛はあるか?

 あるとしたら、教えてくれ。

 俺は、本物の愛を手にできるか?

 風鈴火助ふうりんひすけは、『恋愛火山』を登りながら、考えていた。

 火助は、本物の愛を手に入れたかった。



 今の時代に、本物の愛はあるの?

 あるとしたら、教えて。

 私は、本物の愛を手にできるの?

 内輪水与うちわみずよも、また、『恋愛火山』を登りながら、考えていた。

 水与も、本物の愛を手に入れたかった。



 本物の愛なんて、わからねぇー。

 失礼。

 オイラは、この物語の語り手、恋愛流浪るろう侍という者でやんす。

 


 これを読んでいる者に聞きたい。



 現代で、侍といえば、何であろうか?



 やはり、心に刀を持ち、修練に励み、己の精神を向上させ、女には目もくれない。

 そんな快男児ではないだろうか?



 では、現代で、遊女とは何か?



 やはり、純粋な恋に唾を吐き、浮気、不倫、二股、三股は当たり前の女、不純な道徳観の持ち主ではないだろうか?



 もっと、簡単に区別するとしたら、侍が童貞で、遊女がヤリマンだ。



 火助は、本物の侍に憧れる童貞で、田舎の侍専門学校に通っている。



 水与は、本物の遊女に憧れるヤリマンで、都会のキャバクラ嬢である。



 この二人は、今、『恋愛火山』を登っている。



 『恋愛火山』とは、恋人のいない者同士が出会い、頂上で、日本刀を手にして、お互いに斬り合うと結ばれる、という言い伝えがある山だ。



 火助は、寂しい男であり、女が欲しくなっていた。

 本物の侍を目指す者が、女を欲するとは情けない。

 しかし、生物の本能には逆らえぬ。

 寂しさを埋めるためには、女が必要だ。



 水与も、寂しい女であり、客ではない、プライベートの男が欲しくなっていた。

 本物の遊女に憧れる者が、客ではない、プライベートの男を欲するとは情けない。

 しかし、生物の本能には逆らえぬ。

 寂しさを埋めるためには、男が必要だ。



 火助と水与は、『恋愛火山』を登り、頂上で出会う。

 そして、お互いに一目惚れ、両想いである。

 侍と遊女、田舎の男と都会の女、侍専門学校生とキャバクラ嬢、童貞とヤリマン、まるで正反対の不思議な組み合わせである。

 恋とは常に不思議なもの、おかしなものだ。

 滑稽こっけいである。



 二人は事務局へ行き、玩具の日本刀を手渡される。

 しかし、この日本刀は玩具ではなく、本物だった!!

 


 事務局は、毎回、玩具の日本刀を取り寄せているが、今回、取り寄せ先の手違いで、本物の日本刀が贈られてきたのだった。

 本物の日本刀を贈ってしまったのは、田中太郎という人物で、会社の親睦会で、酒を飲み過ぎて、二日酔いで、全然眠れてなかった。

 そんな状態では、手違いも起きる。

 責めないでやってくれ。



 そんな訳で、お互い、本物の日本刀を持って、これから、斬り合うのである。

 侍と遊女の斬り合い。

 田舎の男と都会の女の斬り合い。

 侍専門学校生とキャバクラ嬢の斬り合い。

 童貞とヤリマンの斬り合い。

 二人の甘い恋は、斬り合いという無情な結末へ。


 

拙者せっしゃは、水与殿が好きだ。初めてだ、こんな、ときめきは・・・!! これが初恋か!?」

 火助は感激していた。

「私も初めてよ。こんな、胸のときめきは・・・!! 火助さんは、きっと運命の人だわ!! あぁ、女性ホルモン出まくりよ」

 水与は幸せを感じていた。

「では、参ろうか。一、二、三で、同時に斬り合おう」

 火助は日本刀を上段に構えた。

「わかったわ」

 水与も日本刀を上段に構える。

「一、二、三!!」

 火助と水与は声を合わせて、同時に日本刀を振り下ろした!!

 ズバッ!!

 お互いの頭、腹から、血が勢いよく飛び散る。

 火助は地面に膝を付き、水与は倒れた。



「みずよぉぉぉぉぉー!!」

 火助は、頭から血を流しながら、叫ぶ。

「・・・火助さん、これで・・・私達、結ばれるのね・・・本物の刀で・・・斬り合ったから・・・本物の愛ね」

 水与は、頭、上半身、鮮血で染まりながら、笑った。

「あぁ、そうだ・・・!! 拙者達は、偽物の刀ではなく、本物の刀で斬り合った・・・!! これこそ、本物の愛だ!!」

 火助は、水与を抱きかかえる。

 事務局の人達が、ひどく慌てて、やって来る。

「今、救急車を呼びましたから!! どうして、こんなことに・・・!? 本当、何て言ったらいいか・・・」

 事務局の人たちは慌てふためく。

「もうよい。拙者達は・・・本物の愛を・・・手に入れたのだから」

 火助は、倒れそうになるのを必死でこらえて、笑った。



 救急車がやって来て、火助と水与は、応急処置を受けて、病院へと運ばれる。

 火助より水与の方が重傷であったが、緊急手術、治療を受けて、命は助かる。



 それから、二人は退院し、現在は、二人で仲良く暮らしている。

 二人が住んでいる家の寝室には、本物の愛の証として、斬り合って、お互いの血が付いた日本刀が、二本置かれている。





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