88歳でプロポーズする

譚織 蚕

第1話

「わしと結婚してくれんか?」


「はいはい、今日の折り紙はなんですかねぇ……」


 ここは老人ホーム『虹色の日々』。アットホームな感じでハッピーハッピーな老人ホームだ。

 そこに1人の老人が居た。


 亀田敏夫88歳。童貞。


 天涯孤独な彼は、自分の貯金を切り崩してここへやってきた。理由は……


「そんなことよりワシと結婚してくれんか?」


「おぉ、綺麗な鶴が折れましたぁ……」


 婚活だ。


 ある日街中で1人の老婆を見かけた敏夫は、彼女のストーカーを開始した。


 そして3日後……


 彼女が老人ホームに入所することを知ったのだ。


 そこからはもう、猛アタック。


 猛アタック。


 猛アタック………


 しかし、彼女……ヤスヱには効かなかった。


 ヤスヱは猛烈に耳が悪かった。

 ヤスヱは目が悪かった。


 ヤスヱは……


 操を立てた亡き夫がいた。


 一瞬聞こえた敏夫の声に蓋をして、ヤスヱは今日も鶴を折っていた。


 折って折って折り続けて……


「ごめんなさい、私はあなたとは付き合えないわ」


 彼女は隣のベットに横たわる老人に声をかける。

 その声は届かず、老人は眠る。


 否、眠った様に死んでいる。


 敏夫は死んだ。


 自分の冷たさに涙が出てくる。


 しかし、熱意に負けて付き合います! などと言えば夫に失礼だ。


 だからせめて、だからせめて。


 千羽の鶴を送ろう。


「お友達から始めましょう? お友達のまま終わりましょう」


 返事は返ってこない。

 自分はどうすれば良かったのか。


 分からないけど涙が漏れて、車椅子の輪は止まった。


「おやすみなさい、敏夫さん」

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88歳でプロポーズする 譚織 蚕 @nununukitaroo

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