アナービハイリン! アライくん

gaction9969

Ally-00:前段なる★ARAI(あるいは、始まりはいつの日もダメ)

「じ、ジローは、の、ほ、本当ほんくら神経質なるぼそなやっちゃっちゃでぇ」

「えっと」


 どこまでも深く高い青空に群れ為すひつじ雲を薄目でぼんやりと眺めていたら、隣から唐突にそんなしゃがれた言葉が掛けられた。国道134号からガードレール跨いだらもうほぼそこは海であるところの、潮風の巻くT字型の沖堤防の根元付近に二人して座り込んでからはだいぶ無言が続いていたから、そのどこの郷出身か容易には掴ませてこない言葉から来る会話の取っ掛かりからしてよく分からなかったし、単語単語の意味は分からないのだけれど少なくとも僕をなじっているのだろうその昭和の姑ばりに底意地の悪さが透けて見えるというか大分透明度が高いから逆に立体的に浮き出て見えるほどの音の葉は要らん鮮明さを以って僕の大脳の使っていないところを埋め尽くしていくのだけれど。


 五月の空気は、それは爽やかであるのだけれど。


「ま、何だーれかんだーびれ、やってみての即応アズリブばっど。ジローには、の、そ、そんくら辺りの才能カキタレばがあると、そ、そうぁは思っちょりあーとよ」

「いや、何の話かなって、そこからなんだけど」


 その周囲の爽やかさを吸い込んで非常に粉っぽい排ガスへと変換してしまう負のラジエーターのような、前方方向にぐおと張り出したポンパドール+ダックテイルの由緒正しきリーゼントを小刻みに震わせながら、アライくんは何がツボに入ったか分からないけれど、その艶めく褐色の彫り深い顔をくしゃとさせながらこちらに人差し指でつんつんするようにしてくるよその仕草からは何か途轍もなく嫌な予感しか沸いてこないよ……


「そればちょ。そのツッコミがあるべると、我ぁは来たる秋の『久遠祭』でぼ、二人して漫才ま○ずりばカマしちゃられ思うちょったがにあ」

「ちょっと待って。何でどんどん話が進んじゃうの?」


 反論の声を上げるけれどまたくしゃ顔ダブル指差しポイントをされるだけでこちらの反応はまったくもって彼岸には届こうとはしない……


 世はゴールデンウィーク。とは言え土日丸被りの四日間しかないハズレ年であるがゆえに近場で何となく過ごし終わるしか無さそうな、そんな残念感がどことなく滲んだ空気を孕んだ週末。とは言えお金も無くこれといってやることも無い僕ら二人は釣りでもすべぇとの消極的な提案に乗っかって正午過ぎという釣果は望めないような時間帯に来ては誰もいない堤防の上から糸を垂らしているわけだけど。


 もちろん釣り竿も何も持って無いので、本日は拾った木の枝に、絡んで丸め捨てられていた蛍光イエローのテグスを丹念に解いたものを結び付け、錘には何故かアライくんが持っていた輪っか型の永久磁石を垂れ下げているのだけれどこれではクリップを口に挟んだ紙の魚しか永久に釣り上げることは出来なさそうだよね……


 そんな残念と残念で無念という概念を挟んだかのような空気を突如切り裂くようにして放たれてきた漫才というワケの分からない話に、あ、これはまた例のこだわりに因る云々かなと思った。アライくんは「1985年」という年に病的に囚われていてその年に流行った諸々を集めたり実践したりと、傍から見ると何でかな感の強い活動を精力的に行っているわけで。それに僕は最近巻き込まれ気味なわけであって。此度もまたその類いのコトかなとか思って刺激しないように粛々と流そうとした、その、


 刹那、だった……


「ま、お笑い言うんば、いつの世もモテるばっとよ。ジローが気にしちょるあんオ×コばも振り向くかもしかばらっとよ?」


 いきなり投げかけられてきたのは、そんな僕を貫く言の葉。であったから。


「ななななーに言ってるのさぁアライくんっ、みみ三ツ輪さんがそんなのに食いつくように見えるッ!? も、もぉぉぉお戯れも大概にって……ハッ!!」


 口走ったまま固まる僕の顔と向き合うのは、ねちっこさといやらしさとあと何かを顔面に注入したような表情であって。は、謀られた……ッ!!


「おぅげ、ジローどんの好ぎな女性のめこん性質すぅじぃは、くっぱぁり分かったちょが!! よかッ!! ま、言うて漫才ブームは1982年くりゃーで終わっとっど、まったくもっつ興味は無かがぢがぃね」


 言いつつ繰り出されるこちらをイラつかせるテヘ笑いに、じゃあ今までの流れはッ!? とそれこそツッコミたかったけど、それが何の意味も成さないことを脊髄で感知していた僕は、この幾重にも重なったかのようないたたまれなさをどうにかしようと、堤防の突端から淀んだ海面へと身体を伸び切らかせたまま飛び込んでやろうかとか思ったけどすぐに思いやめる。


 ……まだまだ水は冷たいからね。


<……to be continued Ally-01>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アナービハイリン! アライくん gaction9969 @gaction9969

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ