第14話「救援」

 リュウとベリアルが、お互いを気遣い、庇い合う、その間にも……

 

 村の共同墓地らしい、そんな狭い場所のどこから湧き出て来るのか。

 数百にも膨れ上がったゾンビの大群は、ふたりを完全に取り囲んでいた。

 逃げる隙もない四方から、「じりじり」と迫って来る……


 倒しても倒しても、無限ループのように湧いて来るゾンビ。

 リュウは、横たわるベリアルを、庇うように両手を広げ、立ちふさがる。

 『どんぐりまなこ』から放たれる、眼光は鋭い。


「に、逃げないなんて…………ば、馬鹿は、お、お前だ、おっさん。……ば、馬鹿野郎…………」


 顔を歪めたベリアルが、絶望の思いを籠め、呟いた瞬間。


 どごぉ!

 ぐしゃっ!

 べちゃっ!

 びちゃっ!


 肉が破砕される派手な音が響き、数十体のゾンビがあっという間に、単なる破片と化した。


 どごわあああああああんっ!!!


 更に反対側から、これまた派手な爆音が響き、ゾンビが百体以上、吹っ飛んだのである。


「リュウ、助けに来たぞっ!」

「ベリアル、お前、何てざまだ!」


 ゾンビが倒され、「ぽかり」と出来た空間に、ふたりの人影が立っていた。


 ひとりは赤毛レディッシュの麗人でありながら、ヘラクレスのような「ムキムキ」な戦士。

 そしてもうひとりは特徴のある、とがった耳を持つ端麗な美人、とても細身ながら、「きりり」とした出で立ちの魔法剣士。


 そう!

 天界特別遊撃隊の先輩女神、グンヒルドとスオメタルのふたりが助けに現れたのである。


「おお、先輩たち!」


 地獄に仏と、思わず叫ぶ、リュウ。

 だが、助けに来たのは、そのふたりだけではなかったのだ。


「うふふ、パパぁ。私を忘れちゃ駄目よぉ」


「あ、ああっ!? メーリ課長っ」


「うふ! これがH・S・W・P、天界特別遊撃隊の、初出動ねっ」


 いつの間に!

 

 リュウとベリアルの傍らには……ひとりの少女が立っていた。

 真っ白な法衣ローブを身にまとい、美しいシルバープラチナの髪をなびかせた幼女のような風貌……

 元精霊の女神メーリが、微笑みながら立っていたのである。


「うっふふ、ねぇ、パパ。私が来たからには、ベリアル君の事はもう心配ないわ。だからぁ、思う存分任務を果たして……つよ~いパパを見せて頂戴っ」


 救援に赴いたメーリが言ったが……

 リュウは首を横に振った。


「でも」


「でも、何? パパ」


「このまま、メーリ課長を敵中に置いて行くわけには……」


「きゃははっ、パパったら、私を心配してくれてるのっ? 大丈夫よ、ほらっ」


 メーリは「にこっ」と笑うと、無造作にゾンビ共へ手を振った。

 リュウ達をうかがうゾンビが数十体、あっという間に塵となる。


 不死者アンデッドに対し、圧倒的な効果を発揮する、葬送か、破邪の、超が付く上位魔法に違いなかった。


「うわぁっ! 課長! む、む、む、無詠唱の葬送魔法か、なんかですかっ」


 驚愕したリュウが、盛大に噛みながら聞くが、


「うん! そんなものかな? ぜ~んぜん、たいした事ないわ」


 「しれっ」と、お澄まし顔のメーリ。

 幼女のような風貌なのに、とんでもない実力者だ。

 さすが、課長の肩書は伊達ではない。


「…………」


 黙り込んだリュウを見て、メーリは「くすっ」と笑う。


「うふ、もしかして、パパったら、これくらいで驚いてる? でもね、私の本職はこっちだから」


 メーリはそう言うと、「ポン」とベリアルの胸に触れた。

 丁度、心臓の辺りである。


 すると、どうした事であろう。

 あっという間にベリアルの頬が紅をさしたのである。


 これは……

 無詠唱の上位回復魔法に違いない。

 リュウにも波動で分かる。

 ベリアルの身体には、完全に生気が蘇っていた。


 一方、体力を回復して貰ったベリアルは……あまりの事に、呆然としていた。


「……無詠唱、文字通り神速の発動、そして、この劇的な効果……す、凄い回復魔法だ」


 目を丸くするベリアルを華麗にスルーし、メーリはリュウに向き直る。


「うふふ、パパにはこうよ、メーリからもっともっと愛を込めちゃう」


 メーリは今度、リュウの胸に「ぴたり」と手を当て、目を閉じた。


「あう!」


 リュウは顔に似合わず、可愛い悲鳴をあげた。

 強力な魔力が心臓へ流れ込んで来たからだ。

 魔力移送……自分の魔力を他人へ移す高度な技である。


 A級女神の濃い魔力が、心臓を経由し、リュウの身体にたっぷりと循環して行く。

 倦怠感が取れ、全身に力がみなぎって来る。


 今度は子供のように喜びを見せ、リュウは叫ぶ。


「わぁおっ! 凄いぜっ!」


「うふ、その様子だと完全回復したわね。じゃあパパは任務を果たして、華々しくデビュー戦を飾るのよっ」


「了解!」


 笑顔のリュウは一転、真面目な顔つきになると、まるで軍隊のように敬礼をし、早速ゾンビ共へ突っ込んで行ったのである。

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