第7話「おっさんなのに、やっぱり新人?」

「お~い、全員、ちょっち、集まってくれ~」


 元『おっさん勇者』のリュウが、管理神ルイに連れて来られたのは……

 やはりというか、病院同様に真っ白な空間にある、後方支援課のオフィスである。


 加えて、天界の役所だというのに……

 まるで、下界の人間が使うみたいな趣きのオフィスでもあった。

 真っ白な空間には、これまた真っ白に塗られた、木製らしい重厚で立派な机が7つ……整然と置かれていたのだ。


 リュウは見覚えのある風景だと感じ、つい、ため息をつく。


 一番奥にある、最も大きな両机は、ルイの席であった。

 これも人間界の、上司席という配置と同じだ。

 ちなみに管理神のルイは文字通り、『管理部長』という肩書きを持つ。

 そして手前には左右3つずつ、片机が並んでいた。


 肝心のメンバーだが……

 個性豊かな? 3人の女性が居た。

 全員がお揃いの、白い法衣ローブをまとっている。

 彼女達は同じ課の『先輩女神』だと、リュウは事前に教えて貰っていた。

 

 はっきり言って、見た目は全員年下。

 しかし、ここは天界、人間の常識では測れない。

 

 ルイ様の言っていた、ウチの課の女子って……女神様の事なんだなぁ。

 でも、勇者としての俺が人気があるって一体?


 そこまで考えて、リュウは首を振った。

 あまり細かい事を考えても仕方がない。

 それより新しい職場で、好意的に受け入れて貰うアドバンテージになるならば、ありがたい。


 プラス思考、前向きに考えれば良いのだ。

 そこまで「さくっ」と考えた時、


「みんなぁ! 以前から話をしていたが、有望な新人を紹介するぞぉ。元人間で勇者のリュウだ」


 ルイが大きな声で紹介すると、女神達の視線が集中した。

 リュウは軽い緊張で、思わず身体が堅くなる。


 そんな中、ルイの話は続いて行く。


「レベルは、下界での最強級の99、見事魔王も倒した……それらの実績を加味し、天界ではC級神に格付けされた。今後我が課にとって、大きな戦力になる筈だ。見た目で分かるだろうが、凄く頑丈だから、ガンガン仕事を振ってくれ」


 え?

 見た目で分かる?

 凄く頑丈だから、この俺に、ガンガン仕事を振ってくれ?

 やっぱり、既視感デジャヴュを覚えたのは錯覚じゃない。

 これじゃあ、まるで前世のブラック企業と一緒だ。


 ルイにして貰った自分の紹介を聞き、リュウは思わず俯く。

 下を向いてしまう。


 病院でも感じたが、嫌な予感しかしない。

 だが……ここは天界。

 不可抗力とはいえ、もう後戻り出来ない所まで来てしまった。

 それに「神様になる」なんて、そう簡単に経験出来るものではない。


「初めまして、リュウです。これから皆様にお世話になります。今後とも宜しくお願い致します」


 顔をあげたリュウは、切り替えて「はきはき」と挨拶した。

 前世人間であった頃、彼は基本体育会系であった。

 なので、一応礼儀をわきまえている。

 新たな部署では全くの新人であるし、挨拶も含め敬語を徹底しようと決めていた。

 

 他人と会う時は最初が肝心、ファーストインプレッションが大切。

 病院で休養中、リュウはずっとそう考えていたから……

 下界で魔王に対して散々した、「がさつ」な物言いが信じられないくらい、丁寧に挨拶をした。


「じゃあ、スオメタルから、挨拶してくれるかいっ」


 ルイが促し、リュウが最初に紹介されたのは、身長は160㎝半ば、スレンダーでスタイル抜群なアールヴ(エルフ)の女神である。


 アールヴの女神は、「すいっ」と前に出た。

 腰までの長いサラサラな金髪、鼻筋の通った端麗な顔立ち。

 切れ長の目に煌めく、美しい菫色すみれいろの瞳で、見下すようにリュウを見ていた。


「私は、B級神スオメタル。ふん、何だ……新入りが来ると聞いて、少しは期待していたのに……」


「え?」


「がっかりした。私と同じアールヴのイケメンではなく、下品な人間族のおっさんか……確か、リュウと言ったな? 足を引っ張るのだけはやめてくれよ」


 いきなり、先輩女神の「きっつい」物言い、否、天界だから洗礼か?

 怒るなどとんでもなく、リュウは耐え、噛みながらも何とか言葉を返す。


「よ、宜しくお願いします」


 次に紹介されたのが、燃えるような赤毛レディッシュの大柄な女神であった。

 ルイから聞いた話では、元は身長3mを超す巨人族の戦士らしい。


 ちなみに、元は人間離れした巨人族でも、天界では普通のサイズとなっていた。

 まあ普通とは言っても、身長はゆうに190㎝を超え、約170㎝のリュウを上から見下ろしていたのだが。

 

 そして、赤毛の女神は身長が大きいだけではない。

 リュウ以上の、逞しい鍛え抜かれた肉体をしており、まるでプロレスラーだ。

 風貌は、野性的な凛々しい男顔の美人であり、強い意思を宿した濃いブラウンの瞳を持っていた。


「おお! 宜しく、リュウ! 私はB級神グンヒルドだっ!」


 グンヒルドは名乗ってから、リュウを値踏みするように見た。


「ふむ! そこそこの良い身体と、そこそこの良い筋肉をしているなっ! さすがは魔王を倒した元勇者だ」


「は、はい……リュウです。よ、宜しくお願いします」


「おお! その身体なら、もっともっと鍛えられるぞぉ! とことん鍛えぬいて、己の能力の限界を突破させよう! 神として与えられた肉体の限界突破こそ、新たな人生の昇華と言えるのではないかっ! うん、我ながら良い事を言う! リュウよっ! この私とこれから、たくさん、たくさん、熱いトレーニング談義をしようではないかっ!」


 グンヒルドは機関銃のようにまくしたてると、「にっこり」笑って、右手を差し出した。

 どこかの元テニス選手のような、超が付く熱血タイプというところだろうか?

 果てしなく上から目線のアールヴ女神、スオメタルに比べると、だいぶ好意的らしい。


 リュウも勢いよく右手を出し、グンヒルドの手を握る。

 その瞬間!


「いたたたたっ!」


 後方支援課のオフィスには、大きな悲鳴があがっていたのであった。

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