路銀が無くなりそうなので、稼ぐことを決めました~炎の獅子と氷の竜と~

大月クマ

手っ取り早い稼ぎ方

 ここは、とある剣と魔法の国のお話――



「どうしても、行わないといけませんの?」

「金がないのだから仕方がないだろ!」

「それはそうですが……」


 オレ、マイケル・マーティン=グリーンは途中であったヒーラーのビバリー・マクファーデンと供に旅をすることになった。

 キャスリン・マルグルーの領地へと向かっている。しかし、道半ばで問題が発生してしまった。


 ――路銀が無くなろうとしていた。


 頭数あたまかずが増えたので当然といえば、当然かもしれない。

 だいたい、ビバリーのことを思い出したのは、まあ手っ取り早く言うと、路銀を借りタカリにいった。

 それが、どういう訳か付いてくることになった。

 オレの金はほぼ無し。彼女の所持金だけでここまで来たが、先ほども行った通り、道半ばだ。


 金を稼ぐ。


 それしかない。勘当の身であるオレが、実家に「金よこせ!」と手紙を書いたところで、暖炉に放り込まれるのが落ち。

 オレには、ジイさんに教えられたサバイバル技術はあるが、金の稼ぎ方まで知らない。

 僅かばかり獣を狩ったところで、毛皮や角が小銭になることだ。


 ――ビバリーのほうはどうか?


 当てにしない方がいいかもしれない。結局は、回復魔法や医学の知識がある。しかし、突然、知らない人が村に現れたところで、誰が治療費を払うというのだ。名の知れた名医ならまだしも、学校を出たての無名な医師には無理だ。


 そんな時、最後の村の酒場でこの先のとについて話していたときだ。


「迂回路を通った方がいい」


 酒場の主人が、話すには峠を越える街道に、山賊くずれが現れているそうだ。当局には訴えを出しているが、なかなか討伐隊が現れないらしい。街道の脇道があるそうだ。そちらにいくように進めてきた。


「なるほど――」


 これは金を儲けるチャンスだ!

 山賊くずれ……旅行者に街道の迂回を薦められるぐらいだ。

 オレの頭に浮かんだのは、財宝に腰を下ろしている山賊のお頭。さすがに絵に描いたような姿だが、追い剥ぎやらなんやらで、かなりため込んでいるはず。

 そして、目の前でスープとパンを無邪気にほお張っているビバリーを見た。


「おい、ちょっといいか?」

「なんでしようか?」

「ビバリー、囮になれ!」

「はいはい……へ?」



 ※※※



 ということで、ビバリーに囮になってもらった。

 山賊くずれが出るというメインの街道……ではなく、迂回路にいった。

 ただ、囮になれととはいったが、


「ミッキー様がいてくれる……ミッキー様がいてくれる……」


 ビバリーは背嚢を抱え込んで歩いている。

 オレは後方の茂みに隠れていた。

 迂回路といっていたが、人通りが少なすぎる……というか、いない。

 しかし、彼女の状況はどうだ。背中を丸めて歩く姿は、まるで臆病な子猫みたいだ。

 そんなのが街道をひとりで歩いているのは、


 わたしは囮です。襲ってきてください!


 と、いっているようなものにしか見えない。

 周りを警戒しすぎだ。キョロキョロと、たまにオレの隠れている茂みのほうへと、目線を向ける。

 人選を誤ったと見えるが、オレらしかいないから仕方がない。


「あれじゃあ、囮にならんな――」


 誰か……見ず知らずの男がオレの横で喋った。

 そいつに、オレはこう答える。


「――いや、囮としては十分だ」


 腰の剣にオレは手を掛けたが、その前に背中を何かが突かれる。槍か何かであろう。

 まあ、威嚇のようなものだ。「立て!」と――。


「ハイハイ。言われなくても、立ちますよ」

「そのまま振り向くな。街道に出ろ!」


 後ろに何人いるかは、今のところ分からない。

 オレは言われるまま街道に出た。

 足音から察するに、3人ぐらいか……


「ミッキー様!」


 もうひとりの男が、ビバリーを羽交い締めにしている。彼女の首にナイフを押し付けて。

 これで4人いることは分かった。だが、4人とは中途半端だ。


「上玉そうな。こっちの女は、そういう趣味のほうで売れそうだ」


 山賊くずれとは聞いていたが、人身売買のほうにも手を出しているのか。


 ――結構、ため込んでいるかな?


 ところで、何だ? そういう趣味って?

 槍先で、オレの背中を突いているのは、オレのことを言っているのか?


「ミッキー様!」

「おい、動くんじゃねぇぞ。大人しく武器を離せ!」


 オレが気に障ってムッと、後ろを振り向こうとした。その途端、ビバリーを押さえつけている男が彼女を締め上げた。


 ――ここは彼女の身を考えて、あまり下手に動かない方がいい。


 とは思わない。


「おい、離せ……」


 オレは、お芝居をする。そして、目線を上に向けた。

 つられて男も、目線を上へと――


「何だ!?」

「知らないのか? 火球弾ヒートボールって言うんだ!」


 オレは火の魔法が使える。でだ。ヤツの頭の上に、火球弾を出現させていた。

 いちいち手の動きなんかで、「魔法を使ってますよ」など見せてどうする。

 考えるだけで、出現させることなど、簡単なこと。


「ぎゃあ!」


 そのまま重力で落ちてきた火球弾が、男の頭に落下。髪の毛を燃え上がらせた。

 そうなると、ビバリーを押さえつけるどころの話ではない。さっさと、火を消さねば……髪の毛はなくなってしまうだろう。


 何故殺さないのか?


 殺めることは簡単なことだが、それは犯罪になる。いくらウチから勘当されてはいても、元マーティン=グリーン家の人間が人を殺めた……と、いうことになると問題だ。

 まあ正当防衛と、言えばいいかもしれないが、後味が悪い。


 それに――


 すぐにオレは後ろの連中から、距離を置いた。ビバリーの元へ。

 彼女を押さえつけていた男は戦力から外れた。頭頂部の火傷屋良で失神している。

 後は残り3人かな?

 確認すると槍を持つのがふたり、剣を振れかざしているのが後方にひとりだ。


 槍を持っているヤツには、オレの剣はリーチ不足かな……と、思わせておいて!


 鞘から剣を抜いた途端、火を上げた。

 剣身ブレイドに火の魔法を纏わせた。そのまま切り払う。長さは数倍へ、切れ味も格段に上がり、槍のつかを真っ二つにする。

 続けてふたふりめ! 殺さないように、ちょいと角度を変えて、槍使いをふたりまとめてなぎ払った。


「で、お兄さんはどうする?」


 残ったのは最後のひとりだ。だが、男は剣を振りかざして、オレに突進してきた。

 やけくそになったのは分かる。だが、


「甘いんだよ」


 クルリと剣を返し、柄頭をみぞうちに打ち込み、終了。


「流石、ミッキー様!」

「まただよ。ビバリー」


 そうまだだ。親玉……いや、連中のアジトに行き、貯め込んだ金を奪わねばならない。しかし、転がっている連中はほぼ気絶しているため、すぐには聞き出せない。


「アジトの場所なんて分かっていますの?」

「当たり前だ。襲ってきたのが4人というのが気になる。軍で最小4人なんて、命令系統に支障をきたす。誰かが、後方で様子を見ているはずだ。そして、オレ達の行動を見張って、今頃尻尾を巻いて逃げ出しているはずだ」

「そうなんですの? 勉強になります」


 と、ビバリーは何かメモを取り始めた。何のメモかは放っておくとして――


「連中のアジトに向かうぞ!」

「えっ、どこか見当が付いているのですか? ミッキー様は……」

「さっきの村の宿屋だ!」


 そうだ。あの親切にも迂回路を教えてくれた宿屋の主人。

 山賊が出るからと、メインルートから迂回路へ誘導させたヤツが親玉だ!


 追い剥ぎだけではなく、人身売買もやっているようだ。

 キッチリ、巻き上げてやる!




【つづく……かも】

   

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

路銀が無くなりそうなので、稼ぐことを決めました~炎の獅子と氷の竜と~ 大月クマ @smurakam1978

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ