米の切れ目は縁の切れ目?(KAC20224)

つとむュー

米の切れ目は縁の切れ目?

 ついにうちの学園も、AI英会話の授業を導入した。

 リモート学習時に各自英語を勉強する。指定されたサイトに接続して。

 会話の相手がAIだから、その人に合わせたレベルや話題で学習できる――という触れ込みなんだけど……。


「”Kareshi” is “boyfriend” in English」


 ん? 「彼氏」は英語で「ボーイフレンド」?

 いきなり何でそんな話題なの?

 これって微妙に理事長の趣味が混ざってない?


 不安に思いながらも、私は幼馴染の豊の顔を思い浮かべる。

 収穫期になると満面の笑みで新米を届けてくれる豊。彼の家は十ヘクタールの農地を所有する米農家なのだ。

 

 豊は彼氏?

 いやいや、幼馴染だけど決して彼氏ではない。

 でも、ボーイフレンドなら……そう呼べるような気もする。


 そこまで考えて私ははっとする。

 これってめっちゃプライベートな話じゃね?

 絶対、裏で密かに理事長がデータを集めているに違いない。


 そんな私の不安は、次の質問で見事に的中する。


「Do you have a boyfriend ?」


 ええっ? ボーイフレンドをハブるかって?

 そんなことするわけないじゃない。私が豊のことハブるなんて。


 豊が毎年持ってくる米は、我が家の消費量の50%を超えてるんだ。

 あいつの笑顔は、家ではコメノストリームって呼ばれてるんだから。


 この抗議の気持ちを表現したい。

 でも、英語で何て言えばいいんだろう?


「ユタカ イズ インポータント。ヒー プレゼント コメ ベリー マッチ!」


 おお、なんとか言えたじゃない。

 AI英会話の効果が出ているのかも?


「Is Yutaka your boyfriend ?」


 うーん……。

 豊は彼氏じゃないけど、やっぱ大切なボーイフレンドなんだよね……。


「メイビー……」


 うわっ、めっちゃ恥ずかしい。

 こんなこと言ったのって人生で初めてだよ。

 この授業って、まさか担任も聞いてるってことないよね?


 そう思っていたら、AIはまたとんでもないことを訊いてきた。


「True or lie ?」


 トゥルーお笑い?

 せっかく私が勇気を出して答えたっていうのに……。

 さすがにそれはあんまりじゃない!


 豊は米を持って来てくれるの。それはすごく助かってるの。なのに真のお笑いだなんて。

 だから欧米かって言われるんだよ。米の重要性をわかってない。

 一度、豊んちの米を食ってみたらわかるはず。美味すぎて絶対そんなことは言えなくなるんだから。


 頭にきた私は、英会話の授業であることを忘れて日本語で答えてしまう。


「お笑いじゃないよ!」

「It is not comedy ?」


 すかさずAIが聞き返してくる。

 だから言ってやったんだ。力を込めて。


「イエス、米でぃ!」

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