十三日の日曜日。千佳と梨花のコミカルな対決。

大創 淳

第四回 お題は「お笑い/コメディ」……そして今必殺の〇〇〇〇〇


 ――畳の間。四×二畳のお部屋で向い合せる僕ら姉妹。解釈は、この人以外になし。


『いざ、尋常に勝負!』


 って……「もっと普通にできないの? 千佳ちか。何らかの時代劇じゃないんだし」と、いう具合に可奈かなはツッコミを入れる。そう、何を隠そう解釈……じゃなくて、この場を仕切る役割の所謂いわゆる司会、そうそう司会役なの、可奈は。十五年の人生の内、三分の一だけが関西の梨花りかよりも、もっと長く僕の次に生粋の関西人に近い可奈……


 十五年の人生の内、四分の一が北陸だから、関東と関りはなしだから、圧倒的に関西より。僕の強い味方と成り得るのだけれど……「賄賂わいろはなし、依怙贔屓えこひいきも。裁判のような平等な判決……じゃなくて、座布団を差し上げたり取ったりするから」


 と、あくまで堅物を演じる覚悟の可奈。



 ――正々堂々の場。ここはもう『大喜利』のバトルの場となるの。上方と江戸の勝負。


 お笑い勝負なのだ。それを証明するのは司会の可奈。そして座布団の数だ。マックスが十枚……と言いたいところだけれど、生憎お家には計十枚なの。なので、五枚がマックスとなってしまうの。まあ、とにかく数多く獲得できた者がこの勝負を制することになる。


 ……時待たん。

 颯爽たる開始だ。春風の如く。


 上方は僕、千佳。江戸は梨花。上方と江戸の大喜利バトルだ。



 ――問題。お笑いとは?


 いよいよだ。静粛な場だからこそ、より笑いを引き立てるの。このアイディアは誰のもの? 誰が思考したのかな? それはね、何を隠そう……「私だよ、私」と、可奈が答える。「ちょ、回答者は僕ら」と、僕が言うも、「何言ってんの、司会が参加しないなんて面白くないじゃない。没収よ、座布団一枚……」と、暗黙の了解により赤いジャージを着た黒子のような趣の男性が現れ、僕を押し退けて座布団を奪った。いつの間にやら座布団運びが……或いはトランスポーターが存在していた。


 その名は、山田やまだカカオ。甘くも苦くて大人の味。熟成された座布団運びの経歴。その道を三十五年続けているという大ベテラン……って、知り合いにいたっけ? という感じ。


 クスッと笑う梨花……


 可奈の策略に引っ掛かった僕。梨花にリードを許してしまった。


 そして反旗を翻すが如く、僕は手を上げる。急く答えだけれど、梨花よりも早く迅速にと。「はい、千佳」と、当てられた。その答えはまだ真っ白な脳内にあるけれど、引き出すの、潜在意識から! 「それは僕の答えから相手を笑わせること。例えばほら、『藪からスティック』の新たなネタ。関西名物『ドリルすんのかいせんのかい』……ドリルは答えを見ちゃダメだからって、いつの日か言ってたね、梨花」と、思いつきも見え見え、とりとめのない答えと……いやいやいや、答えにもなっているのか? って感じ。


 クスッと……またも聞こえる梨花の笑い。


「千佳、あれはドリルじゃなくてクロスだよ。クロスワード。普通間違えないよね? もしかしてボケてるとか?」


「クロスなら、あれだよ、Xマス。あれでクリスマスなんだけど、梨花はエックスマスって言ってたし。ほら、去年だって、一緒にクリスマスケーキ買いに行った時、店に入るなり大きな声で、『ほら千佳、見て見てでっかいエックスマスケーキ』って……もう注目の的だし、他人のフリしたくても、名前まで言っちゃってるし、それはもう……」


「ホントにね。千佳ったら、顔をトナカイみたいにしちゃって、それで何だって? 『梨花、あれはペケマスって言うんだよ』って、ますます注目の的になっちゃって、しまいには店の人から『いいかい、あれでクリスマスっていうんだよ』って説明されちゃって皆の前で。いくら何でもペケマスは、せめてエックスマスの方が何かカッコいいし」


 そうなの。恥ずかしい思い出でしかないから、


「もうそれ、右から左へ受け流しちゃうの!」と、火照る顔のまま、その場凌ぎに……


 するとニヤリと梨花……


 ハッとなる僕、「しまった……」と、声にした。


「わかってるよね、千佳。右から左ということはね、向かって西から東。せっかくポイント貯めてたのにね、千佳が僕の方へと受け流しちゃったから、ポイントは僕の方に集まったの。……だよね、可奈」


「そうね、確かにそうなるよね。だけどね、梨花、そのポイントにはジョーカーが仕掛けられていてね、……勝者は私ということになるの。藤岡ふじおか可奈がこの度の勝者ってわけ」

 と、声高らかに勝者が決まった。


「へっ?」と、狐にでも掴まれたように、僕と梨花はお互いの顔を見る。……つまりは司会者がこの度の勝者となった。全くもって有り得ないような結末を迎え、


 ……僕らは声を揃えて言う。絶妙なハーモニーでもって、


「何で、そーなるの?」


 と、心の中では『欽ちゃんジャンプ』が、呼吸ピッタリに行われていた。そして剣玉は可奈の背面キャッチで、その妙技のもとで高らかに解説が、


 ……行われるの。春の風は旋風となって、僕ら姉妹の心の中を揺さぶるっていた。


「見事にドローよ、あなたたち。上方と江戸の前に、二人はもう名コンビ。大喜利バトルのはずなのに、これじゃ勝負にならないから、私が引導を渡したってわけ」


「でも、勝負は、まだ……」


「決着はついてない、まだ」


 と言うも、可奈は面倒臭そうに、


「じゃあ永遠やる? 上方と江戸のコントになっちゃうだけだから。双方を活かしたボケとツッコミ。両者ができるようになったらね、『夏本番! ウメチカ漫才グランプリ』に出場してみる? またあるんでしょ、『ウメチカ戦』が」



 ――そうなの。毎年恒例となるビッグイベントなの。しかしながら今年で第三回。僕らは姉妹揃ってチャンプ。僕は太郎たろう君と一緒に、第一回の℮スポーツ部門の優勝者で、梨花は第一回、二回ともにプラモデル部門の優勝者。その上で可奈は言う……


「目指して見なさいよ、三冠王」と、煽りに煽る。


 それは三つの部門での優勝を、姉妹で勝ち取れという意味だ。今年は第三回なだけに部門は三つに広がった。℮スポーツ部門とプラモデル部門、さらに漫才部門が加わる。初回なだけに一発芸もOKな何でもありだけど……僕らはやはりボケとツッコミで勝負。


 上方と江戸が、輝ける合体をした漫才。


 その御愉しみは夏へと。一体どうなるのか? まるで初の試みとなる。僕らの仲は時として阪神と巨人に匹敵するような内容になるのかもしれないけれど、ミラクルな展開を迎えることは必至。――そう可奈が太鼓判を押すから。だったら僕ら三人、高等部へ進学しても、ずっと一緒なのだ。今までプラス漫才の訓練が待っているという充実感の中。


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十三日の日曜日。千佳と梨花のコミカルな対決。 大創 淳 @jun-0824

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