第35話 トイレで女子と遭遇

「喰らうデス!」


 準々決勝第四試合。


 アメリアはガトリング砲で弾幕を張り、相手選手を翻弄しながら敵の回避方向へミサイルを撃ち込む。


 無駄弾は撃たず、ガトリング砲と榴弾砲で牽制しつつ、相手選手をミサイルで追い詰めて行く。


 相手が逃げる。アメリアが追う。


 二人は互いに相手の背後を取ろうとアリーナ上空を高速三次元旋回で張り合う。


 互いにクイックブーストとターンブーストを駆使して、時には変則的な動きも混ぜながら風を切り、ブースターを唸らせる。


「今デスネ!」


 空中格闘(ドッグファイト)に勝利したのはアメリアだった。


 アメリアはわざと相手の宙返り飛行を許し、相手が自分の後ろを取る直前にバックブーストを入れた。


 アメリアが相手の真下を通り過ぎて、相手の方からアメリアの目の前に降りて来た。


 二人の位置関係は一瞬で逆転。


 アメリアは両肩甲骨から真上に伸びるビームキャノンを前に倒して、必殺の一撃を浴びせた。


 相手選手が悲鳴を上げながら墜落。


 アリーナの地面に激突して、試合終了のブザーが鳴る。


『勝者、アメリア・ハワード選手です』

「YES! アイアムナンバワーンデース♪」


 観客席で見ていた叶恵も、思わず興奮して俺の肩に手をかける。


「凄い、ねぇ朝更、アメリアも準決勝進出よ!」

「まぁあいつがちゃんと戦えばこんなもんだろ。中学時代はニューヨーク州チャンピオンだし」


 アメリアの弱点は格下相手に戦う時は油断する事で、でも調子に乗り易い性格さえ直してしまえばこの通りで、


「YESYES! YEEEEES!」


 天井に向かって無駄にガトリング砲を撃ちまくりパフォーマンス。弾丸は観客席から天井まで伸びるプラズマ・ウォールに阻まれる。


 うん、やっぱまだまだだな。


   ◆


 準決勝は午後、昼飯を食べてからの予定だ。


 でもその前に俺は行くところがあった。


 俺のLLGにアメリアから一人で部屋に来るようメールが来ていたからだ。

「一人で来いなんて、アメリアの奴何の用だろう」


 アリーナから一般人立ち入り禁止の校舎を通り、俺は玄関を目指す。


「おっと、その前にトイレに行っておくか」


 アリーナのトイレは一般のお客さん達が並んでいる為、生徒達は校舎のトイレを使

う人が少なくない。


 大会中だが、校舎の中には俺以外にもトイレ目当ての生徒が何人も来ていた。


「それにしてもこの学校、男子トイレがないのどうにかならないのかなぁ」


 ここは女子校で、教員や技術者などの職員も全て女性で統一されている。


 そもそも男がいることなど想定されていない学園なので男子トイレが無い。



 仕方ないので学園唯一の男である俺は、来客用トイレを使っている。


 その事は他の生徒にも通達されているので、女子生徒と来客用トイレではち合わせた事は一度も無い。


「ねぇ、あれ」

「朝更くーん」

「セコンド頑張ってねぇ」

「おう、ありがとうな」


 女子トイレの前で何人かの生徒に手を振られて、俺はてきとうに返してから隣の来客用トイレに入る。


 来客用トイレの中は当然全て個室。



 俺が手前の個室に入ると、隣の個室からも人の気配がする。


 はて? 今日は大会だしプロ業界のお偉いさんでも来ているのかな?


 俺はあやうくオバサンのトイレシーンを想像しそうになってすぐやめる。


 精神ダメージは未然に防げた。


 隣から用を足す音が消えて、衣擦れの音がする。


 俺も用を足し終わったのでカギを開けて外に出た。


「「ふぅ…………え?」」


 若くて高い声に俺は首を回し、相手は低い声に振り向いたのだろう。


 目の前に、小柄でツインテールの可愛い少女が氷像のようにして固まっていた。


 やがて口をわなわなと震わせて、頬を紅潮させながら俺を指差した。


「お、おとこぉおおおおおおおおおお!?」

「オバサンじゃなかったぁああああああああ!?」


 少女の両目がみるみるつり上がり、顔を真っ赤にして拳を突き上げる。

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