第34話 今度乱暴に乗ってやる


 俺の視線の先で、それは起こる。


 剣道部エースが長刀を振り下ろしてきた。


 相手は重心を前に預け、深く振り下ろしてきている。フェイントではない。


 カウンターの発動限界ギリギリの刹那、叶恵の銃剣が長刀を払い、相手の喉に銃剣の切っ先が当たる。


「うっ!」


 試合終了のブザーは鳴らないが、電離分子装甲は貫通出来た。

甲冑戦は相手の電離分子装甲を貫き、電離分子皮膚が一定以上の攻撃を検知すると勝敗が決まる。


 だが一定値に達しなかった攻撃が全て無駄なわけではない。


 電離分子皮膚が一定値に達しなくても、攻撃を受けた分だけその一定値のハードルが下がる。


 叶恵が喉を突いた事で、多分、あと二、三回同じ場所を突けば叶恵の勝利だ。


「おのれ、一年生が!」


 相手が積極的に攻めて来る。


 薙いで、振り下ろし、突き、流れるような連続攻撃だった。


 叶恵はその一つ一つを取捨選択して、カウンターの一撃をお見舞いする。



 見てからカウンターするっていうのは、他の剣士よりも発動が遅いという事。


 でも超反応力を持つ叶恵は、カウンターの発動が間に合わず斬られるギリギリの刹那を見極められた。


 二度目の刺突がまた相手の喉を襲う。


 相手はパッと見、平常心に見えて、俺の目には彼女の焦りが映る。


「いくわよ! これで、とどめぇ!」


 叶恵が自ら鋭い突きを放つ。


 相手がしめた、とばかりにカウンター態勢に入る。


 でもこれこそが後ジャンの真骨頂。相手が動いてから……こちらの手を変える。


 叶恵は相手の刀がカウンターの予兆を見せたとほぼ同時に、銃剣を縦に構えた。


「な……に?」


 相手の長刀は空ぶり、だが叶恵の体は前に進んでいる。


 叶恵は銃剣を縦にしながら、銃床を引いて短く持ち直していた。


 無名の一年生が、剣道部エースを手玉に取る光景は、観客もさぞ異様に映った事だろう。


「ったく、一生に一度しか無い高校一年生のゴールデンウィークを汗臭く過ごしやがって。これで勝利の女神が微笑まないわけがない。観客に見せてやれ、戦女神の笑顔を!」

「これが本当の」

「ッッ!?」

「とどめぇっ!」


 至近距離から振り下ろされた銃剣の刃が、剣道部エースの喉に叩きつけられた。


 試合終了のブザーが鳴って、実況者が試合終了を告げた。



 観客に手を振ってから今までの試合同様、叶恵はセコンド席の俺に笑顔で手を振ってくれた。


 その時、俺の耳裏に取りつけたLLGから骨伝導でオオクニヌシの声が聞こえる。


『ところでマスター』

「なんだオオクニヌシ?」

『剣道部のエースでしたら、多分相手もゴールデンウィークを犠牲にしていると思うのですが』

「…………」


 俺は無感動無表情で一言。


「今度乱暴に乗ってやる」

『え!? そんな乱暴にだなんて、でもマスターがお望みなら……ポッ』

「うわぁ……ついてけねぇ」

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