第29話 ラッキースケベ

「朝更!?」


 バスタオルのすきまから胸の谷間を覗かせる叶恵が耳から蒸気を噴き出した。


「いやぁん! 忘れてたぁ!」

「お前、いつまで一人暮らし気分なんだよ」


 と言っても、きっちりとバスタオルを巻いた体の露出度なんて全然無くて、恥ずかしがる程の事でもないだろう。


 今も恥ずかしそうに前かがみになりながら自分の体をかき抱いているけど、バスタオルの上から腕を当てて何を隠しているんだろう?


 バスタオルを見られるのが恥ずかしいのか?


 バスタオルと下着って同じなのか?


「あれ? お前シャンプー変えたか?」

「♪ わかる?」


 あ、機嫌直った。

 前かがみだった姿勢を直して、叶恵は下ろした髪をなでる。


「新商品なんだけどね、桃の香りなんだって」

「へぇ、だからそんなにいい匂いがするんだな」

「もお朝更ってばそんな、いい匂いだなんて♪」



 叶恵はバスタオルの上に当てていた手を頬に当て身をよじる。



「わふ♪」

「あ、サクラ」


 桃の香りが気に入ったのか、サクラは俺の腕から飛び出して、叶恵に駆け寄った。


「なになにサクラってばもう、サクラも桃の香り気に入ったの? 名前サクラじゃなくてモモちゃんにすればよかったかな♪」


 サクラとたわむれる叶恵があまりにも絵になっていて、俺はほっこりとしてしまった。

 そう、ほっこりと、


「わふっ」


 後ろ足で立ったサクラの前足が、叶恵のバスタオルにかかる。


「え、ちょっ、サクラ、それ引っ張ったら!」


 とうとうサクラは叶恵に野性の猛威をふるった。床からぴょんぴょんと飛び跳ねながら叶恵に甘えるサクラは本能のかたまりだ。


「わふ、わふわふわふー♪」

「いやっ、だめっ、サクラ、ちょ、もお!」


 サクラがバスタオルの裾を噛み、首をぶるんぶるんと振って引っ張った。


「わふー!」

「いやぁあああん! だめだめだめ、駄目サクラ待って! これ、これ持って行かれるとあたし凄く困っちゃうの! 朝更が、朝更がいるから!」


 叶恵は必死にバスタオルの裾を押さえて、サクラの口から引き離そうとする。


 バスタオルの上部が徐々にゆるんで、胸の谷間のラインが徐々に伸びていく。


 なんだこの夢のような展開は、目の前で女子高生がケダモノに襲われている。


 なんて淫靡な光景だ。


 こんな奇跡一生に一度あるか解らないぞ、これぞ神の思し召し、よく目に焼き付けておかねば神様に悪い。


 流石は日本。八百万も神様がいればこういうにくい演出をしてくれる神もいるのだろう。


「いやぁああああああああああああん! だめぇええ! 見えちゃうよぉ!」


 叶恵の瞳がうるむ。肌が蒸気する。耳から首筋がりんごのように赤くなる。白い歯が花びらのように小さな下唇を噛む。


 ゆるんだバスタオルは叶恵の豊乳の頂点が見えるギリギリまで下がっているが、まだ桜色が見えない。


 両手は必死にサクラとバスタオルで綱引き状態だ。


「って、見てないで助けてよ朝更!」

「え? どっちを?」

「あたしを! きゃっ!」


 俺に怒鳴った途端、均衡が崩れて叶恵は白くてまるいおしりを床に打ちつけてしまう。


「いたた、あれ? サクラそれ…………!?」


 バスタオルにくるまるサクラを見て、尻餅をついた叶恵は自分の体に視線を落とす。


「あ あ あ あ」


 叶恵は口をあんぐりと開けて、小刻みに頭を震わせる。

 大きくM字に開かれた足を前に、俺は知った。

 人間の感情はあまりに大き過ぎると、逆に何も反応できなくなると。

 でも、お互いに何かが切れたらしい。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

「のわあああああああああああああああああああああああああああああああ‼‼」


 俺の鼻の奥で鉄の匂いがする。


「だめぇええええええええええええ! 目ぇつむってぇ!」


 叶恵が両手を下に伸ばして太ももを閉じて、両手を足で挟み込む体制になる。


 でもそうすると両腕が、叶恵の形良い豊乳を寄せてサイズアップ。余計に強調することになってしまった。


 俺の鼻から熱い血潮が溢れだす。

叶恵の白い肌が顔だけでなく全身がうっすらと桃色に染まった。


「見ちゃだめぇえええええ! お願いだから」


 叶恵は立ち上がり反転。


 当然、初めて会った時に見たピンク色の下着は無くて、その中身がさらされる。


 ミルク色の丸くて程良く大きくもキュッと引き締まった、まるいセクシーなヒップが俺に突き出されて、


「向こう向いててぇ!」


 見事な後ろ蹴りが炸裂。

 叶恵のカカトは正確に俺の鼻づらを打ち抜いた。

 俺は鼻血で真っ赤な虹を作りながら、緩い放物線を描いて飛んで行った。


「わふぅ」


 床に倒れ、サクラに優しく顔をなめられながら俺の意識は沈んだ。

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