第10話 エリート様への対策訓練

 三日前、クラスメイトのみんなに謝りながらアリーナから出て行ってもらった俺は、藤林に作戦を説明していた。


「近接戦闘に持ちむまでかわし続ける?」


 藤林は頬に指をあて首を傾げた。


「俺が動画で見る限り、ハワードの弱点は二つ、狙撃能力と慢心。ハワードは圧倒的な物量攻撃で敵をかく乱、ゆさぶりをかけながら飽和攻撃で仕留める戦法が得意だけど、反面狙って撃つシーンが少ない」

「そりゃ、面攻撃できるなら回避能力なんて」


「それと、格下が相手の時は客へのサービスなのか無意味にミサイルを撃ちまくって派手に試合を演出して無駄弾が多い。たぶんハワードは、特に実績の無い藤林をみくびって無駄撃ちをしてくるはずだ。それをかわしまくってハワードをイラつかせろ」


「そんな簡単に言うけどあんな武器庫女の面制圧射撃をどうやって」

「ほい」


 俺はポケットからゴムボールを取り出すと、藤林の顔に投げつけた。


「うわっ!」



 藤林はソレを難なくかわして、眉を吊り上げる。


「もうなんなのよ急に!」


 頬をふくらませてぷりぷり怒る藤林に俺は一言。


「何て書いてあった?」

「へ? えーっと、確かレッドフォレストって」


 俺の唇が自然に歪む。


「あんな回転する高速ボールの字が読めたんだな?」

「え、ええ、あたし昔から動体視力はいいのよ」


「正確には動体視力と反射神経だ。お前の成績表は見せてもらった。どれも中の上から上の下。ただ一つ、反応速度だけが満点。動いているものを捉える動体視力と、刺激に反応する反射神経が並はずれているんだろう」


「でも相手の動きが見えても体がついていかないし、こんなの攻撃の役には」

「そりゃ戦い方が間違っているからだ。藤林にオーソドックスファイトは合わない。俺が教えてやるよ。持ってる奴の戦い方をな」


   ◆


「しぶといデスネ。あれだけ攻撃を喰らっているのにまだ落ちないなんて。でも、もう右手は使い物になりまセンネ。剣しか武器が無いのに、左手だけでどうやって勝つつもりデスカ?」


 藤林は答えず、弾幕を止めたアメリアをジッと見据える。


「まぁ、いいデス。すぐに終わらせてあげマース!」


 アメリアの機体、グラウンドゼロの肩甲骨から頭上に伸びるプラズマキャノン砲が九〇度倒れて藤林をロックオン。


「喰らうですハンパイ! ハイパープラズマキャノン!」


 二門の砲口の奥から、プラズマの光が溢れる。


 まばゆいばかりの光を帯びた極太のプラズマビームは空に光の帯を広げて、真っ直ぐ藤林を狙う。


 それを、藤林は刹那の見切りによるサイドブーストで回避。

 既に右手と両足はボロボロのままだが、追加ダメージは無い。


「惜しいデスネ、ずいぶん弾を使ってしまいましたが、虫の息のYOUを落とすのには十分デス!」


 言って、またアメリアは飽和攻撃を始めた。


   ◆


「実際には全部かわさなくていいんだよ。かわしているようにさえ見えれば」

「どゆこと?」


 三日前の練習用アリーナで、藤林は頭上に疑問符を浮かべる。


「ようするに俺の必殺剣、それも左手一本で使えるのをキメられればハワードには勝てる。試合の敗北条件言ってみ」

「装甲が無い胴体部分の電離分子装甲(プラズマ・アーマー)の下の電離分子皮膚(プラズマ・スキン)が一定以上の衝撃を感知したらに決まってるじゃない」


 藤林は何を今更、と腰に手を当てながら俺を見上げる。


「その通り、スポーツ用の甲冑は太ももや二の腕、胴体や頭が剥き出しの代わりに、選手の肌とスーツは電離分子皮膚っていう超高密度のプラズマバリアに守られている。全身を覆う電離分子装甲を突き破られて、かつ、この電離分子皮膚が一定以上の衝撃を検知すると試合終了、こっちの負けだ。けど逆を言えば電離分子皮膚のない場所。最初から物理装甲があって、人間の体が入っていない機体の末端部分はいくら破壊されても負けにはならない」


「うん、だから翼をもぎ取られても負けないわ、でも戦力ダウンしちゃうわよ」


「言ったろ、俺の必殺剣は左手一本あれば可能だ。俺は残りの三日間でお前の回避テクニックと防御テクニック限界まで鍛える。そして」

   

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ニワトリが飛べないのは才能でも努力でもなく環境のせいだ! 無能な少年と師匠の出会いが、一人の英雄を誕生させる──。

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