第9話 俺の育てた弟子一号VSアメリカエリート

 三日後の放課後。学校の敷地内のアリーナでクラス代表選抜戦は行われた。


 客席には俺と一年二組の女子達。


 彼女達が藤林の応援をする中、当人とアメリアは選手入場口から低空飛行で登場。


 アメリアのグラウンドゼロは相変わらずの重武装で、歩く武器庫と言った風情だ。


 対する藤林は、アシガルの基本装備である両肩のミサイルランチャーとライフルを量子化して、すぐには使えない状態にしている。


 武器は左腰の高周波刀(ヴァイブロブレード)、それも珍しい直刀タイプ一本だけだ。


 流石にアメリアが片眉を上げていぶかしむ。


「どういうつもりデスカ、ハンパイガール? 武器は再構築するよりもハードポイントで保持したほうがすぐ使えるデスヨ?」

「これでいいわ」


 凛とした表情で返す藤林。アメリアは口元で笑みを作って人差し指を立てる。


「OKデスネ。それとハンパイガール。一つギャンブルしてみませんか?」


 挑発的な笑みに、今度は藤林がいぶかしむ。


「ギャンブル?」

「YES♪ この三日間で聞いたデスヨ。YOUはレッドフォレストに出たいと。でもここで負けたら出られませーん。そしたら期間限定のアサラも無用の長物猫に小判豚に真珠デースネ♪ だからもしもこの試合にワタシが勝ったら……」


 一瞬の間を作り、アメリアは茶目っ気たっぷりに笑って俺を手で指した。


「アサラにはワタシのコーチになってもらいマース♪」

「はいぃいいいいいいいいいいいいい!?」


 ズガガガガーン!


 と音がしそうな顔で素っ頓狂な声を上げる藤林。


 なるほどそう来たか。俺は驚かず、アメリアの大胆さに感心した。


「そもそもワタシはJAPANにはアサラに会いに来たデスヨ。ハイスクールに通っていたらアサラが月から帰って来たと聞いて来たら、この国防学園付属専門高校のコーチになると聞いて、パパの力で転校したのデス」


 なんてバイタリティ溢れる子だ。こういう子は是非とも軍に欲しい。

 そのままアメリアはハイテンションにはしゃぎ、


「そして」


 急に頬を染めた。


「アサラにはワタシのダーリン! つまりハズバンドになってもらってアメリカに連れて帰るデース♪」

「!!!!?」


 藤林の額からハトがクルッポー。声もあげず、完全に固まっている。


「ダーリーン、一緒にアメリカで幸せになるデース♪」

「いや俺日本軍所属で今戦時中なんだけど! 同盟国だからって米軍移籍はちょっと」


 俺に向かって両手を振るアメリアは笑顔を崩さない。


「戦争が終わるまでは日本軍にいていいデスヨー♪ そのかわり戦争が終わったらアメリカでMMBのプレイヤーになるのデース♪」


 流石の俺もこれには驚かされた。婚活とヘッドハンティングを兼ねた転校とは恐れ入る。


「はっ……」


 ようやく藤林の魂が戻って来た。

 現状を理解して、ぶるぶると頭を振る。


「悪いけどハワード。これはあたしとあんたの試合よ。桐生は関係な」

「いや、いいぞ」

「えええええええええええ!?」

「イエース♪」

「ちょちょちょ、ちょっと待ってよ桐生。そんなプレッシャーな」

「行くんだろ?」


 客席の最前列に座っていた俺は立ち上がり、手すりにつかまって身を乗り出す。


「レッドフォレスト。それともあれは嘘か?」


 藤林は一瞬硬直して、でも息を吞んで答える。



「うそ……じゃない」


 凛とした顔で、


「嘘なんかじゃない! あたしは、レッドフォレストに行かないといけないの!」


 強い意思のこもった声、俺には眩しい、未来に夢をかけた純真な瞳。


「ならどんな条件でもOKだろ? ここで負けたら次のチャンスは来年。でも俺は年内には戦場に戻る、だから」

「来年じゃダメなの!」


 え?

 藤林は、今まで以上に強く、ハッキリとした口調で告げる。


「あたしは、今年のレッドフォレストに出ないとダメなの!」


 親に捨てられまいとする子供のような目で俺を見る藤林。

 理由はあとで聞こうと、俺は歯を見せて笑う。


「なら勝てよ藤林。戦場に次は無い、一度の失敗は部隊の全滅だ、お前に俺のリハビリ生活を託した」

「うん!」

「ではそろそろ始めるデスヨ」


 藤林は俺に大きく頷いて、レッドフォレスへの最初の壁、アメリカニューヨーク州チャンピオン、アメリア・ハワードと視線を交差する。


「それでは両選手、用意はいいですね?」


 俺の隣に座っていた水越先生が、教員用LLGの画面を操作してマイクウィンドウ越しに喋る。


 藤林は腰の高周波ブレードを抜いて、アメリアは両手に粒子の光を湧き上がらせ榴弾砲を再構築した。


「試合、スタート!」

「サチュレーション・アタッーク!」


 試合開始と同時に両手の榴弾砲、両腕甲のガトリング砲、両肩のミサイルランチャーをフルオートで発砲。


 いきなりの飽和攻撃。普通の生徒ならビビって腰が引けるところだ。


 榴弾が、弾幕が、ミサイルが、軍事甲冑一機から放たれたとは思えない死の嵐を前に藤林は、冷静にクイックブーストでサイドステップ。


 続けてクイックブーストの連続使用による変則飛行で全ての弾を避け続ける。


「今の攻撃をよくかわしたデスネ、でも、いつまで避けられマスカ?」


 アメリアの飽和攻撃は止まらない。

 上空三〇メートルまで上昇して制止。そこから圧倒的な火力と物量に物を言わせて藤林に襲い掛かる。


 俺の周りで女子達が悲鳴を上げる。

 水越先生も口に手を当てながら目を白黒させている。

 みんなの心配をよそに、藤林は全ての攻撃をかわし続けた。


 右、左、上昇、バックブーストからレフトターン、そして急降下。

 見事な三次元機動だ。


「流石、中学時代に三年間部活で鍛えただけはあるな」

「でも桐生くん、あの子そんなに強くないよ?」


 一人の女子の発言に、回りの女子も同意して頷く。


「確かに、あいつは射撃も剣術も中の上、飛行技術は上の下。普通にやったら学校代表も難しい。ましてニューヨークチャンピオンになんか勝てっこないさ」

「なら」

「でも、あいつにはあいつの戦い方がある」

「それってこの前、あたし達を追いだした作戦?」


 言われて、俺はちょっとバツの悪い顔をする。


「ごめんな、軍隊のクセでね。クラスメイトでもやっぱ作戦は秘密にしないと」


 水越先生が口を挟んできた。



「それなら聞いています、でも『逃げて逃げて逃げ続けてたらなんか勝っちゃった大作戦』って、逃げるのは見ればわかりますが、どうやって勝つんですか?」

「ええ、それは」


 みんなが悲鳴を上げた。

 とうとう避け切れず、藤林がアメリアの飽和攻撃を喰らい始めたのだ。

 藤林が榴弾砲を腕で防ぎ、続けてガトリング弾も右腕に喰らってしまう。


「あれでいい」


 俺は口角を上げて笑った。

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