【KAC20224】どどどどん~ひまわり台演劇場の夜~【お笑い/コメディ】

なみかわ

どどどどん~ひまわり台演劇場の夜~

 どどどどん。


 朝、また夢を見ていた。--俺は床、町のホールの舞台床だ。


 もう何年前か、落語やら漫才やらコンサートやら、演劇やら。そのどれかで出演者が激しく踊る音を思い出した。あの頃は毎日夜中までマイクスタンド君や座布団君と語り合った。もリストラされた。今やステージから同じ音はもう誰も出してはくれず、かといって埃が巻き上がるのみ。


 のしのしのし。


 昼、また夢を見ていた。もう何年前か、パイプ椅子をいっぱい並べて、偉くて重い人が歩く音。ワタクシにはライヒンがお座りされるのですよとパイプ椅子おばさまは笑っていたなあ。ホールの方の出席者、成人式の色とりどりの振袖やら、しっかりスーツやらは、話をあんまり聞いていない。椅子に戻るほうはふうと息を吐く。


 どしどしどし。


 帰りの足音を思い出していたら突然上階の窓がぎしぎしと開く。ぶわわと風が吹き抜ける。数年前まで、空気は全然循環していなかったのに。あらやだ、ワタクシたちまだ出番がありますの? とパイプ椅子のおばさま。やがて、振袖たちがいたあたりに、注射器を持った医者が並んでいた。に誰もいないし、大声で笑い叫ぶ者もいなかった。そう、こんな音も一切しなかった。


 がやがやがや。


 夜、また夢を見ていた。あの夜は珍客がいた。スタジオカメラ君と、チューブラー・ベル君だ。明日のテレビ生中継に備えて前入りしていた。舞台の上には深夜までスタッフたちが、準備を続けていた。あの時は町中がこのイベントに盛り上がっていたな。とも、もう、来ることはないだろう。--閉め忘れたのか、わざと開けているのか、1枚の窓から、遠くを豪速で走る電車の音が聞こえてきた。


 かたたんかたたんかたたん。


 直接会ったことはないが、少し前まで、この町にもローカル線があって、もうちょっとよりはやさしい音を響かせていた。電車も人も減った。



 何にでも、はじまりと、終わりがある。俺はゆっくりと終わりを待つ。もしかしたらある日突然災害で全部壊れるかもしれないし、あるいはどこからか順番に解体されるのかもしれない。その時の音も、いつか、ベル君やピアノさんが激しく叩かれた時や、人々が熱狂した頃の、ダンス・ステップのようなものなのだろうか、それとも花火の大輪が咲く音に近いだろうか--また夢を見ていた。


 どどどどん。




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