第1話 優等生の秘密

「どうしてこうなった…」

 天動千代てんどうちよは今、体を縄で縛られ身動きが取れない状態にいる。

 それは何故か。

 その答えは千代の思考を巡らせることなくあらわれた。

 千代の目の前には巫女服姿をした彼女…

千代達1年Ⅳ組の委員長であり、中学の頃から成績優秀と噂されている斎藤麗華さいとうらいかがいた。

 この時千代は何となくだが心の中で察していた。

 そう、自分が見てはいけないものを見たと言うことに。

 その考えも虚しく麗華の手によって千代の縄は引っ張られていき、遂には大きな部屋へと引きずられた。

 その部屋は大広間と呼ぶにはとても相応しい大きさだが同時にとても質素な部屋でもあった。

 千代はすぐさま辺りを見回した。

 部屋の正面に小さな祠があるだけ。

 それ以外には何もない。

 これは質素以外の何ものでもないだろう。

 この異様な光景に圧倒される中、麗華は千代の前で正座をした。

 そして千代に向け一言。

「この秘密は決して誰にも言わないで下さい!」

 まさかの言葉に驚かされる千代はただただ麗華の顔を見つめていた。



「あの…大丈夫ですか?」

 縄が解かれ未だに状況整理が出来ていない千代を麗華は心配そうに声をかけた。

「ああ…悪い。もう一度聞かせてくれないか?」

「はい。ではもう一度お話させていただきますね。」

 麗華はもう一度千代に現状について話し始めた。

 千代達の学校『私立咲山高校』では勤勉と運動の精神を第1としており、部活への加入は当然に加え、学校外でのアルバイト活動などはやむを得ない場合を除き原則禁止となっている。

 では麗華が何故巫女服を着て神社で巫女をしているか。

「実は私、巫女さんに憧れていてアルバイト出来ると知った時やりたいって思ったんです。ですけど私達の高校では禁止されていることですから当然駄目だとは分かっていました。ですがどうしても欲が抑えられず今に至ると言う訳です。」

「とりあえず事情は分かったが、どうして俺を縄で縛ったりしたんだ?」

 状況整理がついた千代が麗華に質問した。

 すると麗華は顔を少し赤らめた後、千代を見つめた。

「それは…その…同じクラスの方に見つかるとは思わず動揺してしまってつい…。」

「ええと…じゃあ俺を無言で引っ張ったのは……」

「何を話せば良いのか分からなくなってしまって…気持ちの整理がつかなかったのであのような手段を…」

 千代は内心怖がりながらもようやく平然を取り戻せた。

 そして千代は安堵の息をもらしつつ思った。

(きっと斎藤さんは俺が思っているよりも不器用な人なんだな。)

 一呼吸おき、千代は麗華を見つめ声を出した。

「あの…そんなに心配しなくても誰にも言わないから。俺もそこまで非情じゃないし。」

 すると麗華は笑顔を見せ、満面の笑みをしていた。

「本当ですか!ありがとうございます!私で良ければ何でも言って下さい!何でもしてみせますから!」

 千代はその言葉を聞き逃さなかった。

 何でもする。それはつまり…!と千代の思考をよぎったがすぐさま首を振った。

 少し考えた後、言いたいことが決まった。

 千代は深呼吸をし、麗華に言おうとした時、麗華のほうから先に答えが来た。

「あの…もし天動さんが良ければですが…

私と付き合ってくれませんか?」

 その言葉は千代の脳内を震え上がらせる程のものだった。 



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