窓辺 第11話

 あれからシャーロックがつまずく度にロシュが支えていたのだが、あまりに何度もつまずくので、遂にシャーロックの右手を握って離さなくなった。

スクラップタウンの東は小高い丘になっており、低い建物の多いこの街で一番高さがある場所だ。

三人はそこに向かっていた。

月明かりに照らされた薄暗い、道とも言えないような道を通り、遂に一番高い場所に出る。

「ここや!」

イーサンはシャーロックを勢いよく振り返って言った。月明かりだけの頼りない光の中、イーサンは真っ直ぐシャーロックの目を見る。

「ここは暗いから、お前の居る街からは見え無い星が見える」

ロシュはそう言って雲ひとつない空を指さす。

シャーロックは空を見上げた。

闇を塗りたくったような暗い夜空。その広大なキャンバスに、宝石のような光が煌めく。

空を埋め尽くさんばかりのその輝きはどこまでも続き、月の周りだけその輪郭をなぞるように黒く沈んでいた。

シャーロックは思わず手を伸ばす。あまりの美しさとその迫力に、距離すら忘れてしまったのだ。

あの美しいものを持って帰ってしまいたかった。

届くかもしれないと思った。そう錯覚する程の迫力で、星々はシャーロックの心をうったのだ。

「はぁっ、、」

思わず息をのむ。呼吸を忘れていたみたいだ。

「寝転んで見たらもっと綺麗だ」

ロシュが言う。

「あ゛‼︎」

その言葉にイーサンが叫んだ。

「敷物持ってくんの忘れた!どないしよ!」

「え、、、それじゃあシャーロックは寝転べないぞ」

赤毛は眉をしかめる。二人が自分の服ぐらいしか敷く物が無いと言って、脱ぐか?と言う結論に辿り着こうとしていた時、

「ねぇ二人とも!早く来てよ!」

興奮気味に呼びかける声に二人は振り返る。

シャーロックはゴミの散らばる固い地面に寝そべり、こちらを見るために少し頭を上げていた。

それを見た二人は一瞬沈黙し、その後顔を見合わせる。

呆けた表情を浮かべる二人だったが、どちらからともなくニヤリと笑う。

そしてシャーロックを挟むようにして隣に寝そべった。

「やっぱ、只者やないなぁ」

「うん、変」

二人は頭ひとつ分小さいシャーロックを挟んでいくつか言葉を交わす。シャーロックはその間も星に夢中だ。

「俺ね、天文学を習ってるから星のことは知ってるつもりだったけど、全然知らなかった。

星ってこんなに綺麗なんだね」

シャーロックの麦畑の様な瞳に無数の星がきらめく。小さな宇宙のようなそれは、踊るように星の間をさまよいながらステップを踏んだ。

「あ!流れ星!」

ロシュが珍しく興奮したように言って、空を指さす。

「どこや!」

イーサンも大きな声で言った。

「もう消えた」

ロシュが答える。

「なんや、願い事言われへんかったわ」

先程とは打って変わり、二人は意気消沈したような沈んで声で言った。

「願い事?」

シャーロックは首をふりふり二人を交互に見る。

「流れ星が流れてる間に願い事を三回言えたらその願いは叶うんやって、」

右からイーサンが答える。

「へぇ、宇宙のちりが燃えて光ってるだけだと思ってた、そんな力があるんだね。先生はそんな事教えてくれなかったよ、凄いイーサン!先生より物知り!」

シャーロックは嬉しそうに言った。イーサンも、せやろと言ってまんざらでも無い。

「ただのまじないだ」

赤毛が呆れたように言う。

「ふふ、分かってるよロシュ、でもイーサン嬉しそうでしょ?」

シャーロックは左を向き、ロシュにだけ聞こえるように小さく囁いた。そのイタズラっぽい表情を見たロシュは目を見開いた後、声を上げて笑う。

「あっ!また流れた!」

笑われていることなどつゆ知らず、イーサンは言う。二人がもう一度空を見た時にはすでに流れた後だった。

「こういうのは先に願いを決めとかんとアカンな、」

緑の瞳の少年はそう言って顔をシャーロックの方に向ける。

「何お願いするん?」

少年の問いに、シャーロックは瞳を星から星へさまよわせた。

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