一晩中

 陽菜乃の下の空洞をおれで満たした。陽菜乃の乱れて余裕のない姿を見ていると、少しだけリズムをゆるめてしまう。壊れないか心配になるから。すると、

「いいよ、いいから」

と言ってにらんでくる。


 おれは23歳で、女の体のことが少しずつわかっても、未だに心は解らないことだらけだ。だけど、一つだけわかったことがある。


 女の子の寂しいのパワーって強烈だ。寂しい、それだけで簡単にたがが外れてしまう。陽菜乃もたぶん単純に性欲が強いってタイプじゃなくて、寂しくて体を開いているのではないかと思う。この手の気持ちは友達でも他の誰かでも埋められない、男でしか満たせないのだろうから。おれはその寂しいに染みこもうとする。


 1度はおれが上で、2度目は陽菜乃が陽菜乃自身の体を愛しはじめたので、それを手伝い、3度目は陽菜乃と向かい合い、横に寝そべりながらつながった。

「ねえ、満たせた?」

 3度目が終わった後、おれがさっきの答えを聞く。

「え?」

 無防備な眼でおれを見つめ、そのまま目線を下げ胸に両手をあてた。急に少女のようになったようで、少しだけ目が離せなくなった。

「まだかな?」

「あんなに荒い息遣いしてたのに?」

「うー…ん。それは単に息がしづらくなっただけで、まだここは空っぽなかんじがする」

 おれは眉をひそめた。

「耳でしょ」

 自分の手を陽菜乃の小さい耳にあて、つぎに下唇のぷっくりしたところを押して、

「口でしょ」

 口に置いた手を肌の上を滑らせ下におろし、右胸を手のひらで包み込んだ。

「肺でしょ?」

と言うと、陽菜乃はぱっと眼を見開いて、笑い出した。

「…え、何?」

「だって…肺って…! 確かに、確かに空洞だね、考えてなかった」

「ほかにどこにも空洞なんてなくない?」

 小さな体をゆらして陽菜乃がころころと笑う。そして、何かを考えているのか斜め上の天井を見ながら「あー」と言い、

「ねえ、有名な謎謎していい?」

と言ってきた。

「謎謎?」

「雪がけたら何になる?」

「雪って…それはけたら水になるだろ?」

 口を少しだけふくらまして、ぷっと噴き出した。

「誓悟くんの考え方がわかった」

 おれは少しむっとして、そのまま陽菜乃の上に覆いかぶさり、

「じゃあ何だって言うんだよ?」

と少し荒れた口調で言った。陽菜乃は一瞬痛そうに顔を歪めたが、そのあとつやっぽく不敵な笑みを見せ、

「考えてみてよ? 一晩あったら足りるでしょ?」

と挑発してきた。


 少しだけ女を解ったつもりだったけど、この女が何を考えてるのか解らない。こんなの久しぶりだ。余裕がなくなる。

 

 たぶんばかみたいに一晩中考えることになるかもしれないな、と火照ほてった自分の頬をぬぐいながら思った。





《完》

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一晩中 一宮けい @Ichimiyakei

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