第4話 幼馴染との謎の再会&別れ

 

『テロリストは地下鉄構内へと潜伏している。我々の目的はテロリストが確保しているウィルス兵器を生きたまま捉えることである。大阪府の大阪市内をしらみ潰しに探索して見つけ出せよ。発見し次第速やかに連絡せよ。我々のステーティア帝国の名にかけて絶対に探し出せ! 発砲許可は降りている! テロリストどもを殲滅せよ!』


 突如トラック内の小さな通信機からそのような音声が流れ込んで来た。ステーティア帝国の軍隊め……外では植物の化け物が動き回ってるってのにそれをフォローすることも無いのかよ。やはりステーティア帝国の軍は日本を守ってくれないんだな?


 ステーティア帝国とは北と南アメリカ大陸の全領土を支配してる大帝国のことだ。現代最強の国であることから第二次世界大戦で日本に勝ち、現在も沖縄や東京にステーティア軍基地が置かれてる。しかしこんな風に奴らは自分勝手なところがある。


「うぉっ……なんだ、事故か……?」


 驚いてしまったのはトラックが何かに引っかかって車両全体が激しく揺れたからだ。タイヤが床を掠る音が聞こえることから床に穴でも空いたのか? そう考えていると急にトレーラーの横の扉が開いたのでオレは慌てて物陰へと隠れた。何だ急に?


「いや今のうちに逃げるか……なっ!? っ……ステーティア帝国の──うっ!?」


 内側にある梯子からここをよじ登ろうとした所で、誰かが物凄い勢いでオレに蹴りを叩き込みに来たので慌てて避けるも、体術の優れた相手で簡単に組み伏せられてしまう。そのままオレの喉を押さえに来て、真剣な声のトーンで話しかけてきた。


「そこまでよ、テロリスト」


「待てっ、オレはテロリストじゃ──」


「しかもウィルス兵器とは良くもやってくれたわね。そのせいでどれだけが死──」


「だからって違うって!!」


 横から敵を叩き込もうとすると優雅に目の前の軍人がバク転で距離を取ってきた。

 オレは立ち上がりながら軍人を睨むようにして思いをぶちまけた。

 ただの勘だがオレはそれをほぼ確信しつつある。


「オレはただの学生だしどうせそのウィルス兵器とやらもステーティア帝国が作ったんじゃねえのか? だったらぶっ殺すのはステーティア帝国の貴族達にしやがれ!」


 あの隕石のことは知らないがウィルスの蔓延を共謀したのはステーティア帝国に違いない。その証拠に先程の警告でも隕石が落下する恐れのある地域に、世界の3分の1を支配するステーティア帝国の名前だけが乗っていなかった。そうに違いない!


 それにステーティア帝国は前々から全世界の制覇を目論んでいたからな。強大な軍事力に加えて医療技術も世界で一番発展している。あんな植物を狂暴化させるようなイカれたウィルスを作れるとしたらステーティア帝国以外に決して無いだろう。


「あなた……もしかして、ラップ?」


「へ?」


 目の前の軍人に声をかけられ……いや本当に軍人なのか? 暗闇でよく見えなかったが、光に照らされたことで豪華なドレスを着てるようにも見えた。いや戦場でドレスを着ていく軍人がどこに居るんだ。しかしこんな格好をする奴がいるとすれば──


「久しぶりね。私よ、アンジェリカ」


 思い出した。彼女は昔オレがまだ日本に来る前に地元で遊んでいたアンジェリカ・ローズ・クルーズで、オレよりも年上の女の子……今は女性か。彼女とはよくおもちゃで遊んだり、田舎のおばあちゃんの家で一緒にぷち森林を探索したものだった。


「なっ……エンジェル……お前、まさかステーティア帝国の軍人に入ったのか?」


「厳密には違うけれど……それよりもラップ、何なのこれ? まさかラップが──」


「だから違うって言ってるだろ! オレはただ──何だっ!?」


 エンジェルと情報整理を測っているとカプセルが突如に光を発した。若干扉が開いたせいで中の気体が『プシュー』と音を立てて漏れた。おいこれはヤバいぞこれは。本当にウィルス兵器だったらオレも彼女もここで感染して死んでしまうんだが──


「ラップ! 伏せて!」


 一瞬でエンジェルがオレの顔に簡易版の毒ガスマスクを被せてオレを押し倒してきた。馬鹿野郎、それじゃあお前が死んでしまうだろ──そう叫ぶも既に遅くカプセルが眩しい光を放ちながらガバッと開いた。ひんやりとした空気と共に起き上がった。


 カプセル内を満たしてる青色の粘液から女性が起き上がった。金髪ロングヘアに黄金に輝いてる瞳。おまけに全身が白黒のデザインの衣服で覆われていて囚人のようだ。その美しい瞳がオレに向けられた。不思議と吸い込まれたような感覚を覚えた。


「これは……ウィルス兵器じゃなさそうね」


 オレにガスマスクを当ててるエンジェルも困惑していた。金髪の女性にマスクのようなマフラーのような布が巻かれてるせいで一言も喋らないまま床に倒れてしまった。眠ったか? まさかこの女性がウィルス兵器とは……何かの間違いじゃないか?


「なあエンジェル……答えてくれ。これは本当にウィルス兵器なのか? この子が」


 倒れた彼女を抱き抱えると首に手を当てて脈を取った。どうやら死んではいないらしい。けれど黙ったままだから恐らく寝てるのだろう。それよりもエンジェルに色々と問い詰めなければならない。ステーティア帝国の軍ならば何かを知ってるかも。


「分からないわ……上の報告ではウィルス兵器だと聞かされていたのだけれど……それとラップ。あなたは勘違いしてるわよ。私はステーティア帝国の軍人じゃな──」


『パンっ!』


「そこまでだテロリストども!」


 エンジェルがステーティア帝国の軍人じゃないのなら何故こんな所に居るんだ……と思っていると奥の方から一気に照明を浴びせられて一瞬目を瞑ってしまう。リーダー格の男がエンジェルにも銃を向けてることから、どうやら本当に違うらしいな。


「貴様……C.O.M.E.Tの者だろ? 何故帝国のスパイがこんな所に居やがるんだ!」


 コメット? 帝国のスパイ? エンジェルが? 一体どういうことなんだ──。


「あなた達に詮索される謂れは無いわ。極秘任務だから黙秘権を行使させてもらう」


「そうはいかねえな。それに上の連中は、お前のことを血眼になって探してるぜ?」


「ストーカーだなんて気持ち悪いわね。今後も付き纏われるのは面倒だから一言伝言でも頼まれてくれないかしら? コメットチームの全員の死亡が確認されたと」


「生き残り風情が、ここで蜂の巣にしてくれるに決まってんだろ? けどお前が直々にそこにいるテロリストを射殺してくれるのなら銃弾一発だけで逝かせてやるぜ?」


 エンジェルと軍のリーダー格の男との会話に頭を混乱させてるとエンジェルが一度振り返った。一度だけ小さく微笑むと再び軍人達に向けて見下した笑みを浮かべた。


「誰に向かって命令してるのかしら? 私はあなた達下っ端の軍人よりも階級が遥か上よ? それに彼を撃つなんてことは出来ないわ。そこの彼はただの民間人だもの」


「そうか。じゃあ死ね。お前に関しては既に指名手配書付きで発砲許可が降りてる」


「やれるものなら、やってみなさい!」


 エンジェルが自分の真下に白い球を投げると一瞬で煙が拡散した。これが煙幕というやつだろうか。するとここから立ち去る前に彼女はオレの耳元に短く囁いてきた。


「またどこかで会いましょう、ラップ」


「待っ、エンジェル……!」


 懐かしいような香りがふと消えるとエンジェルは地上に逃げていった。何やらグラップラーと呼ばれる武器でその小型の機械ごと自分の体を持ち上げていった。まるで忍者のような存在になったな……と呑気に思ってると自分のすべき事を思い出した。


「クソっ、逃げられたぞ!」


「それよりもテロリストは!? こうなったら闇雲に撃つしか──」


「待てっ、撃つな! あの少女は生捕りにしろとの命令を受けている。探すんだ!」


 煙幕が聞いてるうちにオレは少女を抱えてここから歩き去った。けれど外が慌ただしくなって次第に爆発音やら地面の揺れを頻繁に感じ始めた。まさかとは思いたくないが爆撃してるんじゃないだろうな? 外にはきっとまだ生きてる人間がいるから。


 10年ぶりに再開したエンジェルとたった数分しか関わり合えなかった事を気がかりに思いながらもオレは少女を抱えて走り続けた。しかし視界が暗いせいで岩に躓いて転けてしまう。ストレスが募った影響だからか、つい少女に暴言を吐いてしまう。


「お前……本当に何者なんだよ。上の騒ぎはお前が原因じゃないのか? ウィルス兵器がどうとか知らないが植物が狂暴化するウィルスにお前が関係してるんじゃ──」


 いや、もう止そう。ここで彼女にイライラをぶつけてもオレの命が助かることに何も繋がらない。どうやら彼女も起き上がったようなので肩に腕を回すと共に暗い廊下を走っていく。すると上の階につながる階段が見えてきたので彼女を降ろした。


「お前はここに居ろ」


 ゆっくりと階段を共に登っていくと床の向こうにある存在に目を通すとして、辞めた。何故なら聞いてしまったからだ。銃声で生きた人間が悲鳴を上げながらドサドサと倒れていく音を。何をしてやがるんだステーティア帝国の軍人は。生きた人間を!


「やっと最後の1人がくたばったか、様子はどうだ?」


「どうやらゾンピアンタは居なく、民間人しか居なかったようですが……」


「ふーっ……まだ見つからないのか。ウィルス兵器を回収しなければならないが」


「それでは他に回って出口になりそうな所を白み潰しに探しましょう──」


「うえっ! うあん! あうっ! うああっ! うえええん!」


 赤ちゃんの鳴き声か!? 良かった……まだ尊い命の生存者は居たようだな──


『バンバンバンっ!!』


 その銃声で赤ちゃんの鳴き声が黙った。

 間違いない、やつらは赤ちゃんを殺しやがったんだ。

 まだ健康的で感染すらしていない一般市民の赤ちゃんの命を……!


『ピリリリリリリリッ。ピリリリ』


 オレとしたことが、肝心なときに携帯をマナーモードにし忘れてしまった。

 今のコールがオレのことを心配に思って莉奈りな辺りが掛けてきたと予想できる。

 しかしその心配がオレの命を奪いかねない結果になってしまったのが皮肉だな。


「そこにいるのは誰だ!?」


 慌ててコールを切るも既に遅くて無数の銃がオレの方角へ構えられるのを聴こえた。もうこの後オレに待ち受けている展開は見えている。恐らくオレはテロリストかどうかは構わずにステーティア帝国の軍人達にこのまま殺されてしまうのだろう。


「そこを動くな貴様らっ!!」


 謎の女性と一緒に逃げ出そうとするも、もう既に回り込まれて何もかも遅過ぎた。

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