第十一話 代償
「え?」
僕は何かの聞き間違いかと思った。
僕の中では、人と言うのは人を助けるのが当たり前だと思っていた。
「君は何か勘違いしていませんか。これは生きて戻るという試験、妖に殺されるならそれまでだと言う事です。あなたが担いできたその人、生きているので合格ですが私的には不合格ですね」
確かにこれは生きるか死ぬかの試験だ。
だが明らかにあの妖は異常だ。
他の妖とは格が違う。
それにここで折れてしまっては、僕を信用してくれた仁一君に合わせる顔が無い。
「お願いします! 人型の妖と、僕の仲間が一人で戦っています。でももう時間が無いんです。僕では力不足なのでどうすることもできません。だからお願いします!」
「人型?」
男は表情一つ動かさなかったが、人型と聞いた瞬間、眉を少しだけ動かした。
「戦っている人の名前は?」
「八頭仁一です」
「八頭……、あの彼が苦戦する相手ですか。いいでしょう、案内してください」
男は立ち上がると、眼鏡をくいっとかけなおした。
「ありがとうございます。こっちです!」
僕は洞窟へ向かって走る。
途中で先ほど助けた女とすれ違った。
「あ、あの、さっきは……」
「ごめん、今急いでるから!」
「え、そっち洞窟……」
彼女が言い終える前に、錬金術を使い全速力の僕は洞窟の中へ飛び込んでいった。
「君は変わった錬金術を使うんですね」
「ええ、代償は大きいですけど。えと……」
「
「白洲さん、どうしてきてくれたんですか?」
「そうですね。ではまず黒葬君、君は何のために錬金術師になりたいのですか?」
……え?
何で僕の名前を知って、いやそれよりも先に僕がなんのために錬金術師になりたいのか?
そんなの決まってる、人を助けるためだ。
そんなの他の人だってそうに決まって……。
あれ、今僕何言った?
僕は強烈な違和感にぶつかった。
「良くあることですよ、自己矛盾と言うのは。ほら、少し立ち止まって周りを見渡してみてください」
僕は言われた通り、立ち止まって周りを見渡してみる。
すると、そこには妖たちに無残に喰い散らかされた人だったものが散らばっていた。
さっきは急ぐあまり良く見えていなかったが、立ち止まって見渡すと、そこは地獄のように思えた。
「う、うおえええええ」
僕は堪えきれず、口から酸っぱい液体を吐き出す。
そうだ、違う、僕は人を助けたいんじゃない。
だって僕は人が死のうと何も思わなかった。
そうだ、これはただ光景がショックだっただけだ。
「あなたもまた、歪ですね」
「そうかもしれませんね……。もう自分が怖いくらいに不気味です」
ふらふらと立ち上がり、何も言わずに僕は走った。
もちろん錬金術は使って、自身の身体能力はかなり上がっているはずなのだが、涼しい顔をして白洲さんはついてきている。
そしてすぐに、目的の場所にたどり着いた。
場所自体は、ほとんど真っ直ぐに進むだけだったのであまり迷わなかった。
「仁一君!」
そこには頭から血を流して立っている仁一君の姿があった。
僕は急いで駆け寄り、仁一君の怪我を錬金術で止める。
「頭大丈夫?」
「んだとてめえ。いきなり喧嘩売ってきやがって」
「え、あ、いやそう意味じゃなくて」
「わーてるよ。ちょっとしたジョークだよ」
仁一君ジョークとか言うんだ。
というか敵の前でジョーク言えるって結構余裕なのか?
「やっぱりお前の錬金術は奇妙だな……。一体何を代償にしてるんだ?」
「僕は睡眠を代償にしてるんだ。だから錬金術を使えば使うほど寝れなくなる」
「は!?」
仁一君が口を開けて大きなリアクションを取る。
だがそれは仁一君だけでは無かった。
白洲さんも驚きを隠せないような表情をしていたし、妖も物珍しそうな顔をしていた。
「三大欲求の内の一つを代償にする錬金術なんて聞いたことがねえ」
僕だって初めは理解できなかった。
それは今でもそうかもしれない。
だが、周りの人間全員が分からないのだ。
だから僕はもう分からないものとして割り切っている。
「んじゃあそろそろお話はいいかい? 俺は二つ選択肢があったんだ。一つはこのまま帰る事、もう一つは八頭のガキ以外を殺してから行くか。でもようやく決断できた、前者で行く」
すると妖は悪意に満ちた顔で、にやりと笑った。
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