夜刻錬金戦争

多雨ヨキリ

第一章 錬金術師へ

第一話 錬金術

 今、巷では<錬金術>なるものが流行している。まあ流行と言うかブームと言うか。


 メディアでは大きく取り上げられ、世界をおおいに賑わせている。


「なあ、昨日の今日の神業見た?」


「ああ、見た見た!すっげえよなサイケリック山田」


 ”今日の神業”と言うのは、日本中でブームを巻き起こしているテレビ番組だ。


 毎週様々な錬金術が使えるタレントを呼んで、いろいろなことをするのだ。


 まあ大抵石などを別のものに変えたりするだけだが。


 その中でもサイケリック山田と言うのは、人気タレントの一人だ。


 でも僕はその<錬金術>とやらには全く興味が沸かない。


 だってそんなものマジックと何も変わらないじゃないか。


 どうせただのやらせだ。


 ……ああ、そんな感想しか出てこない自分に嫌気がさす。


 僕はまるで雑談会と化した放課後の教室を、まるで影のように一人立ち去った。 


 ある日の放課後のこと。


 特に寄り道をする訳でもなく、いつものように真っ直ぐに家に帰っていた日。   


 僕は奇妙な人物に話しかけられてしまった。


「ねー君。そうそういかにも根暗ですって雰囲気の君い。ちょっとお話しよーぜ」


 ……?


 声質と体つきから女性なのは判別できた。


 だが一番に気を引くのは、彼女の顔を覆っている狐の面だ。


 もちろん僕にしか見えない類のものでは無い。


 なぜなら他の人も、物珍し気にちらちらとこちらに視線を向けているからだ。


「あのー、宗教勧誘とかはちょっと……」


「いやいやそんなんじゃないって。まあここで立ち話でもなんだし……」


 まずい、これ絶対怪しいところに連れていかれるパターンだ!


「ごめんなさい!用事があるので失礼します!」


「あ、おい」


 僕は走った。それはもう全力で。


 建物を抜け、公園を抜け、商店街を抜け。僕のなけなしの体力が付きかけたとき、僕は後ろから肩を叩かれた。


「なんかこっちにあんの?」


「うわああああああ!」


 なんと後ろにいたのは先ほどの狐の面の女だった。


 背丈は僕よりも少し低めだが、僕の腰が引けてるせいか、目線が同じになっている。


 気がする。


 面をかぶっているのではっきりとした表情をうかがうことはできない。


「な、何で」


「だって急に走り出したし」


 息絶え絶えの僕に対し、女はあくまで平常。この妙な違和感がより一層奇妙さを醸し出していた。


 女は顔を近づけると、僕にだけしか聞き取れないような声量で言った。


「君知ってるだろ、錬金術って何なのか」


「……何のことですか?」


「とぼけなくていい。話は変わるけど、君さあ、生きてるって実感ある?」


 いったい何なんだ。どうしてこの人は僕の心の奥底を見透かしてるんだ。意味が分からない。


「別にそう気負わなくていいって。でも、もし今が退屈なら今日、夜10時にこの場所集合な」


 そう言い残すと、彼女は音も無くどこかへ行ってしまった。


 今の僕には嵐が吹き終わった後の静けさのようなものが残っていた。


 家に帰ると、手も洗わずに自分の部屋に駆けこんだ。今は家に親がいないので静かだ。


 ベッドの上に倒れ込み、目を閉じる。するといろいろと頭を巡った。


 さっきの狐面の女は僕に言った。錬金術が何か知ってるだろって。


 知るわけないじゃないか。ただ僕は昔から流行りごとに興味が無いだけで。


 あれ、いつから僕は何にも興味を持たなくなったんだっけ。


 僕は何で錬金術が嫌いなんだっけ。


 ……あれ。なんでこんなに記憶が抜け落ちてるんだ?


 僕はがばっと勢いだけで起き上がると、本棚から小学校と中学校の卒業アルバムを取り出した。


 僕は自分の顔を探す。確かにそこに僕はいた。でもどこかおかしい。


「僕ってこんなふうだったっけ」


 そこにいたのは、幼い自分が大きな笑顔を作って同年代の子供と遊んでいる写真だった。


 奇妙な感覚だった。


 自分なのに自分じゃない。


 知っているのに知らない。


 記憶がかすれていて良く見えない。


 


 僕はこの日初めて、本当の意味での孤独を知った。 



※ ※ ※ ※ ※


お読みしていただきありがとうございます。作者の多雨ヨキリです。物語はこれからどんどん白熱していきますので、ぜひフォローや応援、星などよろしくお願いします!

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