第4話 襲撃と撃退

「きゃぁぁぁぁ!!」

「しっかりつかまってろよ!! とされるぞ!!」

 背中せなかにしがみくロネリーにそうさけびかけ、ファングのをしっかりとにぎりしめた俺は、前方ぜんぽうける。


 鬱蒼うっそうとしたしげみや木々きぎあいだを、まるでかぜになったかのような速度そくどはしるファング。

 その背中せなかっているんだから、それなりの振動しんどうがあるのは仕方しかたがないよな。


 それにしても、さっきから背中せなかにやたらとやわらかい感触かんしょくがあるんだけど、なんだろう?

 まぁ、いま背後はいごかえわけにもいかないし、あとでロネリーにいてみよう。

 そうかんがえた俺は、直後ちょくごはなおくにがみをかんじた。このかんじは、なにかがえているときにおいらしい。


「ファング、けむりにおいのするおうすすんでくれ!!」

「ヴァフ!!」

 みじかえて返事へんじをしたファングは、すこ加速かそくしながらにおいのつよくなるほうへとはしる。


 そのあいだ必死ひっしにしがみつくことしかできない俺達は、すこさきもり出口でぐちつけた。

 出口でぐちっても、やまふもとまでつづいているもり途切とぎれる場所ばしょのことだ。


 これといったみちいため、相変あいかわらずファングはみぎひだり木々きぎけながらはしっている。

 そうして、いきおいよくもりからしたファングのうえで、俺ははじめて、やまそと光景こうけいたりにすることになった。


 方角的ほうがくてきえばひがしになるのか、俺のんでたやまからしたさきにあったのは、だだっぴろ平原へいげんだ。

 そんな平原へいげん片隅かたすみに、けむりげている集落しゅうらくがある。


「ロネリー!! コロニーってのは、あそこか?」

「そうです!!」

 すかさずたずねた俺に、ロネリーがさけんで返事へんをする。

 それだけ確認かくにんできれば十分じゅうぶんだ。

「よし、ノーム!! 準備じゅんびいか!?」

「もちろんいぜ!!」


 速度そくどとすことなくコロニーにかうファングのうえで、俺とノームがそうやって士気しきたかめていると、なにかをおもしたようにロネリーがかたけてきた。

「あ、あの!! ダレンさん!! 1つだけおねがいがあるんです!!」

「おねがい? コロニーをすくうことじゃなかったのか?」

「それもあるんですが、戦闘せんとうなかでノームさんの名前なまえさないでしいんです!!」

「あ? なんでだ!?」


 ロネリーのおねがいとやらをいて反応はんのうしめしたのは、俺じゃなくて、ノームだった。

 まぁ、ノームからすれば名乗なのるなってわれたのも同然どうぜんなわけだし、たりまえだけど。


「ノームの名前なまえさないでしいって、なんでだよ?」

わけは……あとでおはなしします!! ですので、どうか」

「オイラてきにはなんかしゃくさわるけど、理由りゆうがあるってことだよな? そうおもっていんだよな? ロネリー?」

「はい!!」

「俺もかったよ。とりあえずは、名前なまえばないようにする。でも、ちゃんとあと説明せつめいしてくれよ?」

「お約束やくそくします!!」


 そんな会話かいわわしているうちに、俺達はついにコロニーのもとにたどりいた。

 轟々ごうごうさかっているいくつものいえが、そらくろけむりしている。


 当然とうぜんながら、ほのおのせいで周囲しゅうい気温きおんがっているようにかんじられた。

 けんたてかまえながら、コロニーの様子ようす見渡みわたした俺は、コロニーないみちを1人の女性じょせいはしっていることにく。


 なにやらぬのつつんだなにかをかかえてはしっているその女性じょせい背後はいごには、ながやりったおとこ数人すうにんいた。

 その風貌ふうぼうは、さきほどロネリーをおそっていた男達おとこたちている。

「ファング、ロネリーをたのむ!! このままコロニーの周辺しゅうへんっててくれ!!」


 そうった俺は、いきおいよく彼女かのじょ背中せなかからりると、地面じめんころがってる。

 いつもとおり、ノームが左肩ひだりかたにしがみいているのを確認かくにんした俺は、そのままコロニーのなかへとんだ。


 はしりながら、すこさき地面じめんちているいしつけた俺は、それをおも蹴飛けとばしてこえげる。

「こっちだ!! かかってこい!!」


 ばしたいしは、一直線いっちょくせんやりったおとこもとんでったかとおもうと、1人のおとこ側頭部そくとうぶ命中めいちゅうした。

 そうして、地面じめんたおんだおとこ山賊さんぞくたちは、つづいて、俺のほうける。


 すぐさまたてまえかまえ、けんつかちからいっぱいににぎりりしめた俺は、山賊達さんぞくたち突進とっしん仕掛しかけた。

 たった一人ひとり突撃とつげきするガキの姿すがた山賊達さんぞくたちは、馬鹿ばかにしたようなみをかべながら、俺をむかとうとする。


 そんな様子ようすて、たてかげっすらとみをかべた俺は、全力ぜんりょくめて右足みぎあしんだ。

 俺のうごきにわせるようにかたからりたノームが、そのまま地面じめんなかもぐんでゆく。

 と同時どうじに、いきおいよくまえんだ俺の眼前がんぜんに、複数ふくすうやりけられた。


 正面しょうめん左右さゆうからされたやりさきを、俺はたてうえはじく。

 そして、体勢たいせいくずしている右側みぎがわ山賊さんぞくけて、俺はけんげた。


 直後ちょくご、俺がげたけん軌跡きせき沿うように、地面じめんから幾本いくほんものいわやりしてくる。

 突如とつじょとしてあらわれたそれらのやりは、容赦ようしゃなく山賊さんぞくあしつらぬいてしまった。


 いたみにもだえるおとこ追撃ついげきくわえた俺は、かれにしていたやりはじばしてしまうと、つぎ獲物えものねらいをさだめる。

なんだこのガキ!? ただのガキじゃねぇぞ!!」

づくのがおそかったな!!」

 あわてふためきながら逃走とうそうはじめた山賊達さんぞくたちを、次々つぎつぎった俺は、全員ぜんいんたおしたことを確認かくにんして、足元あしもと地面じめんをつまさきたたいた。


 すると、トントンとかるたたいた地面じめん付近ふきんからノームの三角帽子さんかくぼうし姿すがたあらわし、もぞもぞと地上ちじょうしてくる。

上手うまったか?」

「あぁ、上出来じょうできだ。とりあえず、える範囲はんい山賊さんぞく全員ぜんいんたおせたみたいだけど……」


 いながら周囲しゅうい見渡みわたした俺は、すっかりきそうな建物たてもの様子ようすうかがう。

随分ずいぶんとひどいありさまだな……」

「なぁダレン。さっきのおんなはどこにった?」

「ん? そうえば見当みあたらないな。まぁ、多分たぶんげたんだろ」

「そっか、で、これからどうする?」

「そうだな。とりあえず、周辺しゅうへん様子ようすまわるか」


 そんなやりりをした俺達は、そのまましばらくコロニーのなかまわった。

 コロニーにある建物たてものは、どれもが簡素かんそつくりで、まるで適当てきとうわせたかのようにならっている。


 たぶん、ちていなかったら、それなりにいい雰囲気ふんいきえたんだろう。

 それらの瓦礫がれきかげ生存者せいぞんしゃがいないか確認かくにんしつつあるき、時折ときおり遭遇そうぐうした山賊さんぞく残党ざんとうたおしながらすすむ。

 そうして、コロニーのきたほうまであるいた俺達は、さきほどわかれたロネリーと合流ごうりゅうした。


「ダレンさ~ん!! ご無事ぶじですか?」

 あまりほのおひろがっていないコロニーの北側きたがわから姿すがたあらわした彼女かのじょは、ファングにったまま、俺達のもとにやってくる。

「ロネリー。はいってきて大丈夫だいじょうぶだったのか? まだ山賊さんぞくのこってるかもしれないから、あぶないぞ?」

大丈夫だいじょうぶですよ。コロニーのまわりをまわったんですが、おおくの山賊達さんぞくたちはファングの姿すがた途端とたん、すぐにげていったので」

「なるほど」


 ロネリーがはじめてファングをとき様子ようすおもした俺は、1人で納得なっとくした。

 きっと、やまそと人々ひとびとにとって、ファングはとてもめずしい存在そんざいなんだろう。

 どおりで山賊さんぞくかずおもったよりもすくなかったわけだ。


 すると、いつのにか俺のあたまうえによじのぼっていたらしいノームが、あたりを見渡みわたしながらげる。

「おいロネリー。ここの住人じゅうにんはどこにったんだ? オイラがかぎりじゃ、さっきのおんな以外いがい、このあたりにはだれもいないみたいだぜ?」

「あぁ、それなら安心してください。きっと、シェルターに避難ひなんしてるんだと思います」

「シェルター?」

「はい。このあたりは魔物まものぞくるので、避難ひなんするために地下道ちかどうってあるんです」

「こんなことが頻繁ひんぱんに起きてるのか?」

「そうですね。でも、今回こんかいはいつもより大掛おおがかりな襲撃しゅうげきでした。建物たてものまでやされることはあまりないんです」


「そうなのか……。なぁダレン。オイラ達がおもってた以上いじょうに、やまそと危険きけんだったみたいだな」

「らしいな」

なにってるんですか!? やまなかほう危険きけんまってるじゃないですか!!」

 俺とノームの会話かいわをすぐに否定ひていしたロネリー。

 そんな彼女かのじょ言葉ことばいた俺は、釈然しゃくぜんとしない感情かんじょういだきながら、言葉ことばんだ。


「えっと、まぁえずはこれで、コロニーをたすけることができたってことだよな?」

「あ、えっと。そうですね。ありがとうございました」

「それじゃあ、俺達はこれで」

「ちょ、ちょっとってください!!」


 ロネリーとのあいだおおきな常識じょうしきかんじた俺が、何事なにごとうち退散たいさんしようときびすかえした途端とたん

 彼女かのじょあせりりをにじませたこえで、俺をめた。


 ご丁寧ていねいにも、俺の右手みぎて両手りょうてにぎりしめながら、れいあおひとみつめてくる。

「ダレンさん。その、たすけてもらってばかりでもうわけないのですが、わたし一緒いっしょてくれませんか?」

「え……っと、どこに?」

「シェルターです。コロニーのみんなに、ダレンさんのことを紹介しょうかいしたいんです」

「いや、いよべつに」


「おねがいします!!」

「……」


 ふたた懇願こんがんしてくるロネリーをまえにした俺は、ふかいためいききながらそら見上みあげた。

 けるような清々すがすがしい青空あおぞらを、くろけむり蹂躙じゅうりんしてしまっている。


 そんな光景こうけい見上みあげながらすこかんがんだ俺は、ふと、さっきロネリーと約束やくそくしたことをおもした。

「はぁ。そうえば、ノームの名前なまえんじゃいけない理由りゆういてなかったな」

「そ、そうです!! それもおつたえしたかったんです!!」


 俺のつぶやきをいたロネリーが、ってけたように賛同さんどうする。

 多分たぶん彼女かのじょいまいままでわすれていたちがいない。

 そうおもった俺は、ちいさな苦笑にがわらいをかべながらも、彼女かのじょしろにぎかえしたのだった。

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