楽しいトロール一家

登美川ステファニイ

楽しいトロール一家

※KAC2022第四回「笑い・コメディ」のリワード欲しさに書いた作品でしたがいまいちの出来でした。ご了承ください。


 僕たちは政治犯として収監された。国内における移民たちへの非人道的な差別の撤廃を訴えたからだ。終身刑になり一生を檻の中で過ごす予定だったが、政権が代わり僕たちは外に出られることになった。

 でも自由になったわけじゃない。政府の広報用のビデオに出演することで、罪が軽減される。一回の出演で一年。僕は終身刑だが八十年の扱いで、八十回出演すれば自由の身だ。僕たちは顔の出ている着ぐるみを着て道化のようにふるまう。

「わー父さん、大変だ! スラッジ達がこんなにたくさん湧いてる!」

 小さくて茶色いたくさんのぬいぐるみが家の前に押し寄せている。僕は威嚇のポーズを取る。

「ええい、汚い奴らめ! 全部洗い流してやる! テカリーノ印の洗浄剤をくらえ!」

 この番組のスポンサーのロゴの入ったバケツの水でスラッジたちを押し流す。スラッジは死んで消える。何のために生まれたのかもわからないままに。

 僕が主人公のトロールで、アツマはトロールパパ。僕とパパの出番が一番多いが、ほんのワンシーンの出演の人達も減刑の量は同じ。何だか損した気分だが、文句を言えば役を外される。そうなればまだ残っている七十年の刑期を牢で過ごさなければならない。何も言えなかった。

「ねえ見て、ママ! 新型の洗濯機だよ! すごい、何でも綺麗になる!」

 僕は洗濯機の隣でぐるぐる回って洗濯層の真似をする。

「まあ、資本主義のおかげね!」

 ママはカメラ目線で笑顔を見せる。ママの笑顔は視聴者に人気だ。番組のために何度も整形を繰り返され、ママ役のラヒアの顔はチーズのように硬くなってしまった。

「ようし、魚のモンスターめ! 僕が退治してやるぞ!」

 冒険家を夢見るヨルケは槍のような木の棒を持って崖から海に飛び込んでいく。

「わあ、ヨルケ! 気を付けて!」

 これはCGではなく実際に飛び込ませたんだ。おかげでヨルケ役のジィーダは下半身不随になり、役を外されて刑務所に戻った。そして不衛生な集団房で介護も受けられず、褥瘡から感染症にかかって三か月ほどで死んだ。

「見てごらんよ! 大きな流れ星! 赤い尾を引いてる!」

「飛びトロールよ! 赤い魔石でスラッジを焼きに来たんだわ!」

 トロールたちの住む谷はスラッジに覆われていたが、空に見立てた黒いシーツに赤い光が投影され、そこからいくつもの赤い石が落ちてくる。それがスラッジに触れると、床からスモークが焚かれてスラッジは消えていく。スラッジは自分たちの国を作ろうとしたが、その企みは潰えた。この谷はトロールたちの為のものだった。

「パパ、なんだか顔色が悪いよ」

「ううん、最近どうにも具合がなあ……?」

 トロールパパは奇妙な病気で呆気なく死んだ。メインのキャラを簡単に殺すなんてどうかしていると思ったが、もうすぐトロール一家の番組は終わる。その為過激な展開や演出が増えていた。パパの死もその一つだ。

 そしてパパ役のアツマは実際に死んだ。胃がんが進行していて治療も不可能だった。普通なら緩和ケアを受けるところだが、アツマは独房に移されて死んだ。最後まで苦しんだだろう。

「トロールや、わしらが一体なんで生きているか、その理由がわかるかね?」

 長い人生に倦み疲れたロックウォール爺さんがトロールに聞く。

 理由だって? そんなの、分かり切っている。

「そんなの決まってる! だって人生が、楽しいからさ!」

 僕は笑う。これはコメディだ。僕たちこそが、コメディなんだ。残りの六十四年の刑期のために、僕は笑い続けた。

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