誰もが遠い魔法のペン

燐火亜鉛(りんかあえん)

誰もが遠い魔法のペン

『魔法のペン』


「あ〜した天気にな〜れ!」

「どうだった?」

「う〜ん……

 55%くらいで雨かなぁ...」

 占いってそんな正確に出るっけ?


「なんかさ、」

「うん?」

「半分になれそうで、なりきれない感じがして、やだね」

 

 人生はやり直しが効かない。

 だから、一度切りのチャンスを、大切に大切に、すり潰すみたいに綺麗に送るのが一番。

 荒削りじゃダメ。親にも学校にも、会社にも、世間にだって認めてもらえないから。


 だから、一生懸命勉強して、周りの子の気に障らないことばっか考えて、あんまり参考にならないファッション誌開いて、それから、

 それから……頑張って、

 そう、とにかく頑張って、頑張ったのに。

 頑張ったのに……


 なれなかった。出来なかった。

 どこにでも居るけれど、そんなに目立つ子じゃなくて。

 出来る子だけど、嫌われない、憎まれない。

 真剣に思ってたとかそんなんじゃないけど...


 そんな子になりたかった。


 けど、ダメだった。


 好きだったから。嘘じゃなく、冗談でも仲良しごっこでもなくて。


 それは、周りから拍手してもらえるような恋じゃなくて、

 勿論最近はマイノリティに対する理解だとか、

 同性婚だとか、そんなこと良く言われるけど、

 なんていうか、多くないというか。

 よく見ないような?

 うん。よく見ないような恋で。

 

 よく、不思議ちゃんっていうのかな。

 小さい頃の何故?どうして?みたいなのが、そのまま大人になったみたいな。


 いっつもとにかく明るくて、少し赤みがかった長い髪をツインテールにしてる。

時々哲学みたいにふわぁとした事言う女の子が、なんだか、自分にとってずっとずっと、飽きるくらい一緒にいて欲しい。

そんな大切なものなんだと、ある時思った。

それは、はっきりと「友達じゃない好き」なんだって分かるくらいに、強くて、簡単に消えないものだった。

 

 その日は、調子が全然良くなくて、色々失敗してて、通ってた塾でも失敗ばかりで、

 遅くなったから外は何も分からないくらい真っ暗だった。

 だからあの時、あの子を見つけたあの日、

 少し大きな自然公園の、とにかく汚いベンチの上で、


「分からないんだ」

「何が?」

 分からない気はしていた。

「全部」

「全部って...」

 でも、見たかったから。

「全てのことには意味があるんだって。」

「どういう...」

「今日朝食がパンだったのも、

 明日から卒業式の練習が始まるのも、

 今日この時間に、この場所で私と会ったのも

 

 全部全部本当に全部に意味なんてあるの?」

 世界にノイズが混じる瞬間を。

 

世の中には答えのないことも...

 言いかけてやめた。

 

それを探すのが人生?

 自分にはそうは思えない。

 

意味のないことなんてない……

 

それが当たり前だから……

 

当たり前?当たり前って何?

 

一体私は何を気にして……


 卒業なんて分かりやすい終わりに感傷的になった?

 違うよ。あれは真剣だったんだ。至極まともな話だよ。

 一生かけても解けないくらい難しい問題で、本当にそれしかないみたいな重さがあったから。私にはその前提すらも分からなかったけれど。

 でも、あの時強く強く、喉から肺にかかって、重たく絡むような見えない力が、ふっと消えてしまったの。

 

『魔法のペン』


 世界には意味がある。それは、この世界にある、掴んだら消えてしまうような小さなもの。

 目一杯頑張っても持つことなんか出来ないようなおおきなもの。

 人間って  不思議

 何も意味がないことなんて山ほどあるはずなのに、今まで生きてきたことその全てに、意味があるように思えてしまう。

 意味なんて、人間が勝手に作ったもので、

 世の中の恋も、学歴も、お金も、友情も。

 全部ただの作りものなのに。


 これは、それを証明する為の道具。

 世界がただの作り物だって、馬鹿で哀れな人達に教えてあげられる素敵なもの。

 手に取ればあなただけ、貴方だけは、本当に成れる。

 

 あの子は、私やみんながどれだけ時間をかけて考え続けても、誰も辿りつけないような、天才だったんだよ。

 だから、そんなものを持ってたんだ。きっとね。最初はそう思おうとしていた。


 初めてきちんと二人きりで話したあの夜以降、私達は一緒に色々なところに行ったけれど、

 最後は彼女だけ、彼女だけが、私はおろか全世界の人が知らないところに行ってしまった。


 変な装飾品も無く、近所のコンビニに沢山かけてあるようなボールペンを、彼女は魔法のペンだと言った。


 彼女は私がどんな人間であるかを特殊な勘で知っていて、憐れんでそんなことを言っただけかも知れない。でなきゃこんな大それたこと……。


 でも私にはこたえが見えたんだ。

 

 彼女よりも賢くないから、確かかなんて分からないけど。


 彼女を、彼女だけを信じて書けば、きっと私は初めてみんなと、あの子と『同じ』になれる。


 この後どうなってしまうのか不安と期待は半々かな。いや、半端な感じ。割り切れないや。

 でもいつかこの手紙と共に『魔法』が使われるのなら、あの子みたいに何か残したかった。

 

あなたにも、魔法をあげる。


それは何か必死に考えてる貴方に、


変わるものに期待と恐怖を持つ貴方に、


あなたが来るのを待ってるから。

 

 了

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