第8話 三編 3

二つ。国内で独立の地位を得てない者は、外国において外国人と接する時もまた、独立の権利を主張することはできない。

 独立の気力のない者は必ず他人に依頼する。人に依頼する者は必ず人を恐れる。人を恐れる者は必ず人にへつらう者である。常に人を恐れ、へつらう者は次第にこれに慣れ、その面の皮は鉄の堅さになる。恥じるべきことを恥じず、論じるべきことを論じず、人を見ればただ腰を低くするだけ。これがいわゆる「習慣はいずれ性格になる」である。いったん慣れたものは簡単に改めにくいものである。例えば今、日本で平民に名字、乗馬を許し、公平な裁判を行い、外見はまず士族と同等のように見えるが、その習慣はすぐに変わるものではない。平民の根性は依然平民で、旧の平民と変わらない。言語も卑しく、応接も卑しく、目上の人に会えば一言半句の理屈を述べることもできず、立てと言われれば立ち、舞えと言われれば舞い、その従順さは家に飼っているやせ犬と同じである。実に無気無力の鉄面皮と言える。

 昔、鎖国当時の旧幕府のように、窮屈な政治を行う時代であれば、人民が無気力なのは政事にさしつかえることがないだけでなく、かえって便利であったから、ことさらに人民を無知に陥れ、従順になるように教育して、役人が大いに威張っていた。が、現在のように外国とつき合うようになったら、これが大きな害になる。例えば田舎の商人。これが外国との交易を志して、横浜などへ来る者がいる。彼らはまず外国人のたくましい骨格を見て驚き、蒸気船の速さに驚き、口をきく前から弱腰になる。そのうち、この外国人に近づいて取り引きをするようになると、その駆け引きの鋭さに驚き、あるいは無理な理屈を言いかけられることがあるとただ驚くだけでなく、その威力に震え怯え、無理と分かっていながら大きな損害損失を受け、大きな恥辱を受けることがある。これは一商人の損失ではなく、一国の損失である。一商人の恥辱ではなく、一国の恥辱である。本当にばからしいようだけれど、先祖代々の独立の気概を持たない町人根性が――士族には苦しめられ、裁判所には叱られ、一人の扶持しかない足軽にあっても「お旦那様」とあがめる魂が――腹の底まで腐着しているので、一朝一夕に洗い流すことはできない。こんな臆病神の手下どもが、あの大胆不敵な外国人に会って弱腰になるのは無理のないことである。これが国内で独立の地位を得ていない者は、外国においても独立が得られない理由である。


 三つ。独立の気力のない者は人に依頼して悪事を働くことがある。

 旧幕府の時代に名目金(御三家の名を借り、金を貸す商売。利子が異常に高いらしい)として金を貸し、ずいぶん無理な取り引きをしていたことがあった。これはとても憎むべきものだ。自分の金を貸して返済をしない者がいれば、何度も力を尽くしてだめだったなら政府に訴えるべきである。しかし、この政府を恐れて訴えることを忘れて、汚くも他人の名を借りた人の暴威によって返金を迫るとは卑怯なやり方ではないか。今日になって、名目金の犯罪はなくなった。が、世間に外国人の名を借りた、同様なことをする者がいるのでは、と憂慮する。余輩、未だその確証がないから詳しくここで論じることができないが、昔のことを思えば、今の世にもそういう疑念がわいてしまう。今後、万が一にも外国人と雑居することになり、その外国人の名を借りて悪事を働く者がいれば、国家の禍は今さら言うまでもなく、大きいものになる。だから人民に独立の気力がない場合は、その支配に便利と言っても、油断してはいけない。禍は思いもよらぬところから起こるものなのだ。国民に独立の心が少なければ、それらが国を売る危険性もそれに比例して高くなっていく。これが、この条のはじめに言った、人に依頼して悪事を働く、ことである。

 右の三ヶ条で言ったことは、みんな人民に独立の気力のない時に生じる災害である。今の世に生まれ、仮にも愛国の心がある者は、官私を問わず、まず自分の独立をはかり、余力があれば他人の独立を助けてやればいい。父や兄は子や弟に独立を教え、教師は生徒に独立を勧め、士農工商のすべてが独立して国を守らなければならない。一般にこれを言えば、政府が人を束縛(独立をさせない。無知なままにしておくこと)して、政府一人で難を背負うより、人を自由に独立させ苦楽をともにする方が楽であろうに。

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